死に場所を求めていたら異世界に来ました 〜なんか少女になったりしてるけど、仕方ないのでここで良い死に場所を探します〜

芹澤©️

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命は美味しかったです

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角の生えた兎を解体する千秋。

何とか水魔法で割いた腹の中を洗浄しつつ傷つかない様にナイフを入れて内臓を取り出すと、ネッロがすかさず心臓っぽいものを食べた。続いて肝臓。

(ハツとレバー! それが食べたかったの?! )

千秋はある意味後処理してくれるネッロを無視して皮を剥いで行く。寄生中が心配だが、虫下しぐらいあるだろう。町に戻ったら念の為に薬屋を覗く事にする。

(これは唯の肉……これは肉……これは肉)

念仏の様に肉を唱えながら、足先からくるりとナイフを入れ、身体強化で一気に手と腕に力を込めて皮を剥いた。そうすれば、やっとの事で赤身の肉塊が出来上がる。

(時魔法でちょっと時間を早めて……)

新鮮過ぎて調理し辛いので、時魔法で2時間程寝かした感じに仕上げる。

(よし、後2匹!! )

自分の分なら足一本で十分だが、ネッロの為に千秋はふんすと気合いを入れた。




✴︎




「これで……勘弁して下さい」

大皿一杯にこんもりと肉を盛り、ネッロに献上する。
あれから悪戦苦闘し、食事が食べられたのは解体を始めて3時間も経ってからだった。兎を部位ごとに切り分けると店で売っている肉の塊に見えて、調理中の千秋の精神状態は実に穏やかだった。
だが、慣れない解体をしたせいで見えない疲労が体を襲い、千秋は兎のソテーを作るだけに至った。出汁で煮込むチュルリ作りの道は遠い。

大きな岩の側で解体したが、流石にその場で食べる気は起きず、ネッロに岩の上に跳んで貰うと、そこは平坦で六畳程の広さがあった。ここで作って食べようと、石を丸く並べて簡易コンロとして火魔法で調理した。中々良い焼き具合だと思う。
恐らく普通の黒豹の身体ではないのだろうが、ネッロのご飯は薄味に留めた。途中薬草採取の依頼とついでに野生のハーブも取っておいたので、ネッロに嗅がせて大丈夫そうなものを香付けにまぶしてある。後は買っておいたパンと共に食べるだけ。

「やっと食べれる~!! いただきまーす! 」

解体後で気持ち悪いなど言ってられない。時間がかかり過ぎて、かなり腹ぺこなのだ。待望の昼ご飯を食べながらネッロを伺うと、いつもの嫌そうな雰囲気など全くなく、ガツガツとソテーを食べている。

(内臓じゃなく、料理が食べたかった……とか? )

そういえば、ステーキもガツガツと食べていたのを思い出す。これからは生肉を買って調理しようと、疑い無く新鮮な肉を求めていた千秋は、遠い目をしながら誓うのだった。そもそも、マジックバッグが浸透しているのに、新鮮も新鮮じゃないも無い。



✴︎



兎を美味しく頂いて、狩り再開である。
やはり素人の感覚じゃ獲物は見つけられないと分かり始めた千秋は、道中大変そうだが近々あの山へ行ってみようと考える。今日は仕方ないので小物を後数匹仕留めたら帰ろうと川を下っていると、それ程遠くない所で破裂音が聞こえた。立ち入り禁止区域は広く取ってあり、ゴブリンの巣はここから随分と遠い。なら何が暴れているのかと、ネッロの様子を見ると、髭を音の方へ向けて何やら興味津々だ。

「ネッロ、気になるけど向こうは入れないんだよ」

「ンナウ」

「こっちに出て来たのなら良いからね? 」

「ギャウ」

物凄く意思疎通出来ているが、千秋は特に気にならない。猫飼いあるあるで、個体にもよるが会話出来る猫は意外と多いのだ。勿論、ネッロは確実に言葉が分かっているらしいので、今更だった。

森で何が暴れているか分からないが、川は境界線ギリギリ。応戦して禁止区域に入るのも嫌だった千秋は、ネッロに川の反対側へと渡って貰い、森の様子を観察する。あの破裂音から物音はしない。只、ネッロが心なしかそわそわしている。

「ネッロ、大丈夫? 」

「…………」

ネッロは答えない。千秋の言葉が聞こえていないのかずっと森を見て、風景に溶け込むかの様に静かに息を殺している。千秋は取り敢えずネッロに合わせて姿勢を低くし、自分なりに息を潜める。その内、森に言い知れない違和感を感じた。

(何かいる……私にも分かる)

何かの存在感が伝わるのだ。確実に此方へ来ている。何が来るか分からない恐怖と、ネッロが何に期待しているのかという興味で、千秋の鼓動は早まる。

そうしてどのくらい経っただろう。


森からゴブリンを数匹従えて、そいつは川に現れた。


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