57 / 107
本編
57.地雷を踏みました!
しおりを挟む
佐伯が使った怪しい媚薬入りローションの影響で生徒会長様にイカされまくった俺は、疲れ果てて寝落ちした挙げ句、身体の中に残っていたと思われる睡眠薬の影響ですっかり寝こけてしまっていた。
そんな俺が目を覚ましたのは夜の八時過ぎ。
目覚めた場所は何故か知らない部屋で。
しかもそこにほぼ全裸で寝かされていたという驚きの状況に、俺は不覚にも一瞬プチパニックになってしまった。
その後、俺の寝かされていた部屋に現れた圭吾さんにシャワーと着替えを借り、まともな姿になった後、ダイニングで一緒に夕食を摂りつつ、ここに来た経緯を懇切丁寧に説明してもらったのだが──。
うん。状況はわかった。
風紀副委員長から連絡を受けて、俺を自分の部屋に連れてきてくれた圭吾さんにはとりあえず感謝だ。
──でも。一応俺にも羞恥心っていうもんはある訳で……。
いくら身内にヤリチン認定されてる俺でも、男とセックスしたことをあからさまに血縁者に知られてしまうのは結構気不味いものがある。
まあ、変装解けちゃってたから圭吾さんに連絡するっていうのがベストな選択だったんだろうけどさ……。
連絡した副委員長をちょっとだけ恨めしく思ってしまう自分もいるのだ。
もちろん本人には言えないけどな。
──そして、もうひとつ問題が。
ひととおり説明を終えた圭吾さんは何故か笑顔で。
……確かに笑顔のはずなのに、妙に迫力があったのだ。
余計な運動したせいで結構腹が減ってた筈だが、一気に食欲が失せていく。
とはいえ、食べ物を残すのは俺の主義に反する。
俺は必死に咀嚼して飲み込むということを繰り返した。
「ねぇ。光希。俺の記憶違いじゃなかったら、女の子のいない環境で人生やり直すために紅鸞に来たんじゃなかったっけ?」
迷惑かけた自覚があるだけに、俺は圭吾さんの問い掛けにぐうの音も出ず、平謝りするしかなかった。
「……はい。すみません」
「光希が転入するって言った時、確かに紅鸞の環境は今の光希には合ってるかもって言ったけど、『女がダメならじゃあ、男で』、って意味で言ったわけじゃないよ」
「……ホントにすみません」
そう言えば、転入初日に紅鸞学園の異質とも云える諸々の事情を聞いて、圭吾さんはそういう意味で『今の俺に合ってる』と言ったんじゃないかと遠い目になったことを思い出す。
「まあ、済んだことは今更アレコレ言ってもしょうがないし、今回光希は被害者だから責めるべきじゃないのもわかってるけど、今後はもうちょっと色んなことに気をつけて過ごすべきだと思うよ」
圭吾さんに呆れたようにそう言われ、俺はまたしても謝るしかなかった。
「……申し訳ありませんでした」
確かに今日のことにしても、あれだけ皆に気をつけろと言われてたのに、うっかりスマホを忘れた挙げ句、あっさり佐伯の事を信用してしまったことからこうなったのだ。
自業自得の面もある。
俺が猛烈に自分の行動を反省していると。
「その服、さっき光里ちゃんが届けてくれたんだよ。光里ちゃんには今回の事のあらましをちゃんと話しておいたから、夏休みに帰省したらたっぷり叱られておいで」
爽やかな笑顔でとんでもない爆弾発言をされ、俺は危うく手に持っていたカトラリーを落としそうになってしまったのだった。
その後、無事に気不味い食事が終わり、姉が着替えと一緒に届けてくれたウィッグと眼鏡を再び装着した俺は、圭吾さんの車で寮まで送ってもらった。
何とか消灯時間ギリギリの十一時ちょっと前に部屋に戻って来た俺は、変装アイテムを全て取り去ると部屋着に着替え、自分の部屋のベッドへ突っ伏した。
あれだけ寝たにも関わらず、すぐに睡魔に襲われる。
男同士のセックスって、受け入れる側は半端なく身体に負担がかかるもんなんだな……。
そうぼんやり考えながらウトウトしていると。
ガチャリと入り口の扉のロックが解除される音がして、俺は慌てて飛び起きた。
「光希。寝てるのか?」
俺の部屋の扉をノックする音と共に颯真の声がする。
俺は仕方なしに起き上がると、扉を開けた。
「……寝ようと思ってたとこ。 颯真が帰ってくるのって明日の夜じゃなかったっけ?何でいんの?」
眠いところを邪魔されて不機嫌だった俺の対応が迷惑そうな感じになったのは仕方ないと思うのだが、颯真にはあからさまにムッとした表情をされてしまった。
「予定変更した。遅くなるけど今日帰るって光希に連絡した筈だけど」
そう言われて俺はようやくスマホを入れたままの鞄が生徒会室に置きっぱなしになっていることを思い出す。
ヤベ。色々ありすぎて、その事自体すっかり忘れてた。
しかし、そんな事を馬鹿正直に話す訳にもいかないので、ここは素直に謝っておくことにする。
「あー、悪りぃ。見てない」
「……既読つかなかったからそんなことだろうと思ってた」
だったら聞くなよ、と思ったが、それを口に出して颯真と言い合いになるのも面倒なので、俺はあえて何も言わなかった。
もう日付が変わる時間だし、疲れてるからもう寝たい。
ところが、颯真はそんな俺の希望も虚しく苦々しい表情で俺を見据えると、こんな時間にわざわざ帰って来た理由について話し出した。
「生徒会役員達のゲームに決着が付いたって聞いたんだけど」
「は?何ソレ。 そもそも誰に聞いたわけ?」
ゲームの決着について、一応当事者であるはずの俺が知らないってどういう事だろう?
それにここ二週間ほど実家の用事で学園内にはいなかったはずなのに俺より詳しいっておかしくね?
「俺の親衛隊の隊長をしてくれている八神先輩が連絡くれたんだ。各親衛隊に通達がきて、今回のゲームの勝者は生徒会長だって。
──光希は生徒会長のこと好きなのか?」
「は?」
ないない。絶対にないって!
なんで俺があの生徒会長様のこと好きにならないといけないんだ?!
むしろ好きになれそうな要素が無さすぎて、その話自体にビックリするレベルなんだけど。
っていうか、そんなこといちいち周知すんのかよ。恐るべし、親衛隊。
驚きで何と言ったらいいのかわからない俺に、颯真は更に言葉を続けた。
「光希に限ってそんなことあり得ないって思ってたけど、まさか俺がいない時にこんなことになるなんてな……。光希は会長と付き合うつもりか?
──それとも親衛隊に入るのか?」
何故か悔しさを滲ませた表情の颯真に、俺はポッカーン状態だ。
ちょっと待て。
何で俺がアイツと付き合うことになってんだ?しかも何で親衛隊に入るっていう選択肢が出てくんだよ!?
そもそもどうしてゲームの決着が付いたことになってんだ?
俺は首を傾げながら佐伯に聞かされた勝利条件を思い出した。
俺がアイツらのうちの誰かを好きになるか、合意で抱かれれば成立するんだっけ。
………。
──ということは、もしかしなくても必要に迫られて会長様とヤッちゃったあれが、合意ってことになったって事か……!?
事の一部始終を思い出せる範囲で思い返してみる。
……うん。確かに切羽詰まって色々恥ずいこと言った中に、合意ととられても仕方ない台詞もあったような。
「で、どうなんだよ?」
「どうもこうもねぇよ。そもそも俺は会長のこと好きになってねぇし、付き合うなんて絶対ない。 親衛隊なんて論外だ」
イラついたように聞いてきた颯真に、俺は脱力感で一杯になりながら否定した。
「じゃあ、なんで会長が勝者になんだよ?」
「あー、それねー。成り行きでもうひとつの勝利条件が成立しちゃったからかなー」
冗談めかした答えに、颯真の眦が上がる。
「………まさか、会長と寝たのか?」
「まあ、そういうこと」
全然寝るような体勢でしてもらった覚えもないが、世間一般で使われてる意味で言うなら間違いじゃない。
肯定した途端、険しい表情をした颯真に肩を強く掴まれた。
「何でだよ!」
「何で、って。さっきも言っただろ?成り行きだよ。成り行き。それにこれでゲームが終了してアイツらと関係なくなったっていうんなら、結果オーライじゃね?」
俺の発言を聞いた颯真は信じられないといった表情をして固まっている。
俺だってさすがに釈然としない感じはあるけど、これでこれからアイツらと関わることもなく、煩わしい思いをしなくて済むんなら良かったと思うのも本当だ。
まあ、役員補佐の仕事も嫌じゃなかったけどな……。
そう考えたところで、今更ながらに俺のために怒ってくれた壬生先輩と、佐伯を殴った朝比奈の事が気になった。
ゲームが終わって生徒会役員補佐という役目じゃなくなったとはいえ、二人にはあらためてちゃんと御礼が言いたい。
圭吾さんからは風紀に連れて行かれた三人について何の話もなかったし、正直自分の事で手一杯で今の今まですっかり失念していたが、その後どうなったのか非常に気になる。
佐伯も大概悪いけど、原因俺のうっかりのせいもあるしな……。
連絡先を知っている壬生先輩はともかく、朝比奈とはもう接点がないだけにどうするべきか考えていると、肩を掴んだままだった颯真の手の力が段々と強まっていった。
はっきり言って超痛い。
俺は颯真を睨むように見上げた。
すると。
「なあ、光希。まさかとは思うけど、初めての相手だからって会長のこと好きになったりしてないだろうな?」
は?何言っちゃってんの、コイツ。
まさかの乙女思考に唖然としながらも、俺は即座に否定の言葉を返した。
「……ねぇよ」
「ホントかよ?」
颯真が俺に疑いの目を向けてくる。
俺はうんざりだと云わんばかりに大袈裟ともいえるため息を吐いた。
「はぁ……、マジでねぇって。しつこいぞ」
ところが、暗にこれで話は終わりだという態度を取った俺に、颯真は尚も食い下がってきたのだ。
「何の根拠があってそう言い切れるんだよ!絶対にないって言い切れるんだったら俺にわかるように説明してみろよ!!」
こういう言い方。何か責められてるみたいでイラッとするし、アレコレ詮索されんの好きじゃない。
「……会長が初めてじゃねぇからだよ。だからお前の言うところの特別だの何だのって理屈は俺には当てはまらないってこと」
面倒臭くなって本当の事を答えてやると、颯真の目が一瞬驚愕したように見開かれ、みるみるうちに据わっていった。
「──へぇ。光希って生徒会長が初めてじゃなかったんだ。……知らなかったなぁ」
低く呟かれた声にドキリとさせられるが、その一方で何で颯真にそんな事を言わなきゃいけないんだという反発心がムクムクと湧いてくる。
颯真は俺のこと何でも知りたいらしいが、俺は他人に逐一自分の事を報告したい性格じゃない。
「セックス覚えたてのガキじゃあるまいし、いちいち誰とヤッたとかって報告するわけねぇだろ。 そもそも何でお前に言わなきゃなんねぇんだよ」
そう言った途端。
颯真の表情が無表情になった。
長い付き合いだが、こんな颯真は見たことない。
ヤバい。もしかして俺、颯真の地雷踏んじゃった?
内心焦りだす俺を他所に、颯真は突然肩に置いていた手を離すと、片手で俺の腕を掴んで歩きだした。
「ちょ……っ!どこ行くんだよ!!」
颯真は俺の問い掛けには一切答えず、俺を引っ張ってバスルームに入っていく。
「俺達が腹を割って話す場所っていえば、やっぱり風呂だろ? 俺の知らない間にどこの誰と初体験したのかじっくり聞かせてもらおうと思って」
ニコリともせずにそう言われ、俺は早くも自分の発言を後悔する羽目になったのだった。
そんな俺が目を覚ましたのは夜の八時過ぎ。
目覚めた場所は何故か知らない部屋で。
しかもそこにほぼ全裸で寝かされていたという驚きの状況に、俺は不覚にも一瞬プチパニックになってしまった。
その後、俺の寝かされていた部屋に現れた圭吾さんにシャワーと着替えを借り、まともな姿になった後、ダイニングで一緒に夕食を摂りつつ、ここに来た経緯を懇切丁寧に説明してもらったのだが──。
うん。状況はわかった。
風紀副委員長から連絡を受けて、俺を自分の部屋に連れてきてくれた圭吾さんにはとりあえず感謝だ。
──でも。一応俺にも羞恥心っていうもんはある訳で……。
いくら身内にヤリチン認定されてる俺でも、男とセックスしたことをあからさまに血縁者に知られてしまうのは結構気不味いものがある。
まあ、変装解けちゃってたから圭吾さんに連絡するっていうのがベストな選択だったんだろうけどさ……。
連絡した副委員長をちょっとだけ恨めしく思ってしまう自分もいるのだ。
もちろん本人には言えないけどな。
──そして、もうひとつ問題が。
ひととおり説明を終えた圭吾さんは何故か笑顔で。
……確かに笑顔のはずなのに、妙に迫力があったのだ。
余計な運動したせいで結構腹が減ってた筈だが、一気に食欲が失せていく。
とはいえ、食べ物を残すのは俺の主義に反する。
俺は必死に咀嚼して飲み込むということを繰り返した。
「ねぇ。光希。俺の記憶違いじゃなかったら、女の子のいない環境で人生やり直すために紅鸞に来たんじゃなかったっけ?」
迷惑かけた自覚があるだけに、俺は圭吾さんの問い掛けにぐうの音も出ず、平謝りするしかなかった。
「……はい。すみません」
「光希が転入するって言った時、確かに紅鸞の環境は今の光希には合ってるかもって言ったけど、『女がダメならじゃあ、男で』、って意味で言ったわけじゃないよ」
「……ホントにすみません」
そう言えば、転入初日に紅鸞学園の異質とも云える諸々の事情を聞いて、圭吾さんはそういう意味で『今の俺に合ってる』と言ったんじゃないかと遠い目になったことを思い出す。
「まあ、済んだことは今更アレコレ言ってもしょうがないし、今回光希は被害者だから責めるべきじゃないのもわかってるけど、今後はもうちょっと色んなことに気をつけて過ごすべきだと思うよ」
圭吾さんに呆れたようにそう言われ、俺はまたしても謝るしかなかった。
「……申し訳ありませんでした」
確かに今日のことにしても、あれだけ皆に気をつけろと言われてたのに、うっかりスマホを忘れた挙げ句、あっさり佐伯の事を信用してしまったことからこうなったのだ。
自業自得の面もある。
俺が猛烈に自分の行動を反省していると。
「その服、さっき光里ちゃんが届けてくれたんだよ。光里ちゃんには今回の事のあらましをちゃんと話しておいたから、夏休みに帰省したらたっぷり叱られておいで」
爽やかな笑顔でとんでもない爆弾発言をされ、俺は危うく手に持っていたカトラリーを落としそうになってしまったのだった。
その後、無事に気不味い食事が終わり、姉が着替えと一緒に届けてくれたウィッグと眼鏡を再び装着した俺は、圭吾さんの車で寮まで送ってもらった。
何とか消灯時間ギリギリの十一時ちょっと前に部屋に戻って来た俺は、変装アイテムを全て取り去ると部屋着に着替え、自分の部屋のベッドへ突っ伏した。
あれだけ寝たにも関わらず、すぐに睡魔に襲われる。
男同士のセックスって、受け入れる側は半端なく身体に負担がかかるもんなんだな……。
そうぼんやり考えながらウトウトしていると。
ガチャリと入り口の扉のロックが解除される音がして、俺は慌てて飛び起きた。
「光希。寝てるのか?」
俺の部屋の扉をノックする音と共に颯真の声がする。
俺は仕方なしに起き上がると、扉を開けた。
「……寝ようと思ってたとこ。 颯真が帰ってくるのって明日の夜じゃなかったっけ?何でいんの?」
眠いところを邪魔されて不機嫌だった俺の対応が迷惑そうな感じになったのは仕方ないと思うのだが、颯真にはあからさまにムッとした表情をされてしまった。
「予定変更した。遅くなるけど今日帰るって光希に連絡した筈だけど」
そう言われて俺はようやくスマホを入れたままの鞄が生徒会室に置きっぱなしになっていることを思い出す。
ヤベ。色々ありすぎて、その事自体すっかり忘れてた。
しかし、そんな事を馬鹿正直に話す訳にもいかないので、ここは素直に謝っておくことにする。
「あー、悪りぃ。見てない」
「……既読つかなかったからそんなことだろうと思ってた」
だったら聞くなよ、と思ったが、それを口に出して颯真と言い合いになるのも面倒なので、俺はあえて何も言わなかった。
もう日付が変わる時間だし、疲れてるからもう寝たい。
ところが、颯真はそんな俺の希望も虚しく苦々しい表情で俺を見据えると、こんな時間にわざわざ帰って来た理由について話し出した。
「生徒会役員達のゲームに決着が付いたって聞いたんだけど」
「は?何ソレ。 そもそも誰に聞いたわけ?」
ゲームの決着について、一応当事者であるはずの俺が知らないってどういう事だろう?
それにここ二週間ほど実家の用事で学園内にはいなかったはずなのに俺より詳しいっておかしくね?
「俺の親衛隊の隊長をしてくれている八神先輩が連絡くれたんだ。各親衛隊に通達がきて、今回のゲームの勝者は生徒会長だって。
──光希は生徒会長のこと好きなのか?」
「は?」
ないない。絶対にないって!
なんで俺があの生徒会長様のこと好きにならないといけないんだ?!
むしろ好きになれそうな要素が無さすぎて、その話自体にビックリするレベルなんだけど。
っていうか、そんなこといちいち周知すんのかよ。恐るべし、親衛隊。
驚きで何と言ったらいいのかわからない俺に、颯真は更に言葉を続けた。
「光希に限ってそんなことあり得ないって思ってたけど、まさか俺がいない時にこんなことになるなんてな……。光希は会長と付き合うつもりか?
──それとも親衛隊に入るのか?」
何故か悔しさを滲ませた表情の颯真に、俺はポッカーン状態だ。
ちょっと待て。
何で俺がアイツと付き合うことになってんだ?しかも何で親衛隊に入るっていう選択肢が出てくんだよ!?
そもそもどうしてゲームの決着が付いたことになってんだ?
俺は首を傾げながら佐伯に聞かされた勝利条件を思い出した。
俺がアイツらのうちの誰かを好きになるか、合意で抱かれれば成立するんだっけ。
………。
──ということは、もしかしなくても必要に迫られて会長様とヤッちゃったあれが、合意ってことになったって事か……!?
事の一部始終を思い出せる範囲で思い返してみる。
……うん。確かに切羽詰まって色々恥ずいこと言った中に、合意ととられても仕方ない台詞もあったような。
「で、どうなんだよ?」
「どうもこうもねぇよ。そもそも俺は会長のこと好きになってねぇし、付き合うなんて絶対ない。 親衛隊なんて論外だ」
イラついたように聞いてきた颯真に、俺は脱力感で一杯になりながら否定した。
「じゃあ、なんで会長が勝者になんだよ?」
「あー、それねー。成り行きでもうひとつの勝利条件が成立しちゃったからかなー」
冗談めかした答えに、颯真の眦が上がる。
「………まさか、会長と寝たのか?」
「まあ、そういうこと」
全然寝るような体勢でしてもらった覚えもないが、世間一般で使われてる意味で言うなら間違いじゃない。
肯定した途端、険しい表情をした颯真に肩を強く掴まれた。
「何でだよ!」
「何で、って。さっきも言っただろ?成り行きだよ。成り行き。それにこれでゲームが終了してアイツらと関係なくなったっていうんなら、結果オーライじゃね?」
俺の発言を聞いた颯真は信じられないといった表情をして固まっている。
俺だってさすがに釈然としない感じはあるけど、これでこれからアイツらと関わることもなく、煩わしい思いをしなくて済むんなら良かったと思うのも本当だ。
まあ、役員補佐の仕事も嫌じゃなかったけどな……。
そう考えたところで、今更ながらに俺のために怒ってくれた壬生先輩と、佐伯を殴った朝比奈の事が気になった。
ゲームが終わって生徒会役員補佐という役目じゃなくなったとはいえ、二人にはあらためてちゃんと御礼が言いたい。
圭吾さんからは風紀に連れて行かれた三人について何の話もなかったし、正直自分の事で手一杯で今の今まですっかり失念していたが、その後どうなったのか非常に気になる。
佐伯も大概悪いけど、原因俺のうっかりのせいもあるしな……。
連絡先を知っている壬生先輩はともかく、朝比奈とはもう接点がないだけにどうするべきか考えていると、肩を掴んだままだった颯真の手の力が段々と強まっていった。
はっきり言って超痛い。
俺は颯真を睨むように見上げた。
すると。
「なあ、光希。まさかとは思うけど、初めての相手だからって会長のこと好きになったりしてないだろうな?」
は?何言っちゃってんの、コイツ。
まさかの乙女思考に唖然としながらも、俺は即座に否定の言葉を返した。
「……ねぇよ」
「ホントかよ?」
颯真が俺に疑いの目を向けてくる。
俺はうんざりだと云わんばかりに大袈裟ともいえるため息を吐いた。
「はぁ……、マジでねぇって。しつこいぞ」
ところが、暗にこれで話は終わりだという態度を取った俺に、颯真は尚も食い下がってきたのだ。
「何の根拠があってそう言い切れるんだよ!絶対にないって言い切れるんだったら俺にわかるように説明してみろよ!!」
こういう言い方。何か責められてるみたいでイラッとするし、アレコレ詮索されんの好きじゃない。
「……会長が初めてじゃねぇからだよ。だからお前の言うところの特別だの何だのって理屈は俺には当てはまらないってこと」
面倒臭くなって本当の事を答えてやると、颯真の目が一瞬驚愕したように見開かれ、みるみるうちに据わっていった。
「──へぇ。光希って生徒会長が初めてじゃなかったんだ。……知らなかったなぁ」
低く呟かれた声にドキリとさせられるが、その一方で何で颯真にそんな事を言わなきゃいけないんだという反発心がムクムクと湧いてくる。
颯真は俺のこと何でも知りたいらしいが、俺は他人に逐一自分の事を報告したい性格じゃない。
「セックス覚えたてのガキじゃあるまいし、いちいち誰とヤッたとかって報告するわけねぇだろ。 そもそも何でお前に言わなきゃなんねぇんだよ」
そう言った途端。
颯真の表情が無表情になった。
長い付き合いだが、こんな颯真は見たことない。
ヤバい。もしかして俺、颯真の地雷踏んじゃった?
内心焦りだす俺を他所に、颯真は突然肩に置いていた手を離すと、片手で俺の腕を掴んで歩きだした。
「ちょ……っ!どこ行くんだよ!!」
颯真は俺の問い掛けには一切答えず、俺を引っ張ってバスルームに入っていく。
「俺達が腹を割って話す場所っていえば、やっぱり風呂だろ? 俺の知らない間にどこの誰と初体験したのかじっくり聞かせてもらおうと思って」
ニコリともせずにそう言われ、俺は早くも自分の発言を後悔する羽目になったのだった。
30
あなたにおすすめの小説
全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話
みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。
数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品
男子寮のベットの軋む音
なる
BL
ある大学に男子寮が存在した。
そこでは、思春期の男達が住んでおり先輩と後輩からなる相部屋制度。
ある一室からは夜な夜なベットの軋む音が聞こえる。
女子禁制の禁断の場所。
【完結】愛され少年と嫌われ少年
透
BL
美しい容姿と高い魔力を持ち、誰からも愛される公爵令息のアシェル。アシェルは王子の不興を買ったことで、「顔を焼く」という重い刑罰を受けることになってしまった。
顔を焼かれる苦痛と恐怖に絶叫した次の瞬間、アシェルはまったく別の場所で別人になっていた。それは同じクラスの少年、顔に大きな痣がある、醜い嫌われ者のノクスだった。
元に戻る方法はわからない。戻れたとしても焼かれた顔は醜い。さらにアシェルはノクスになったことで、自分が顔しか愛されていなかった現実を知ってしまう…。
【嫌われ少年の幼馴染(騎士団所属)×愛され少年】
※本作はムーンライトノベルズでも公開しています。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語
お姉ちゃんを僕のお嫁さんにするよ!「………私は男なのだが」
ミクリ21
BL
エリアスの初恋は、森で遊んでくれる美人のお姉ちゃん。エリアスは、美人のお姉ちゃんに約束をした。
「お姉ちゃんを僕のお嫁さんにするよ!」
しかし、お姉ちゃんは………実はお兄ちゃんだということを、学園入学と同時に知ってしまった。
悪役令息シャルル様はドSな家から脱出したい
椿
BL
ドSな両親から生まれ、使用人がほぼ全員ドMなせいで、本人に特殊な嗜好はないにも関わらずSの振る舞いが発作のように出てしまう(不本意)シャルル。
その悪癖を正しく自覚し、学園でも息を潜めるように過ごしていた彼だが、ひょんなことからみんなのアイドルことミシェル(ドM)に懐かれてしまい、ついつい出てしまう暴言に周囲からの勘違いは加速。婚約者である王子の二コラにも「甘えるな」と冷たく突き放され、「このままなら婚約を破棄する」と言われてしまって……。
婚約破棄は…それだけは困る!!王子との、ニコラとの結婚だけが、俺があのドSな実家から安全に抜け出すことができる唯一の希望なのに!!
婚約破棄、もとい安全な家出計画の破綻を回避するために、SとかMとかに囲まれてる悪役令息(勘違い)受けが頑張る話。
攻めズ
ノーマルなクール王子
ドMぶりっ子
ドS従者
×
Sムーブに悩むツッコミぼっち受け
作者はSMについて無知です。温かい目で見てください。
姉が結婚式から逃げ出したので、身代わりにヤクザの嫁になりました
拓海のり
BL
芳原暖斗(はると)は学校の文化祭の都合で姉の結婚式に遅れた。会場に行ってみると姉も両親もいなくて相手の男が身代わりになれと言う。とても断れる雰囲気ではなくて結婚式を挙げた暖斗だったがそのまま男の家に引き摺られて──。
昔書いたお話です。殆んど直していません。やくざ、カップル続々がダメな方はブラウザバックお願いします。やおいファンタジーなので細かい事はお許しください。よろしくお願いします。
タイトルを変えてみました。
俺の体に無数の噛み跡。何度も言うが俺はαだからな?!いくら噛んでも、番にはなれないんだぜ?!
汀
BL
背も小さくて、オメガのようにフェロモンを振りまいてしまうアルファの睟。そんな特異体質のせいで、馬鹿なアルファに体を噛まれまくるある日、クラス委員の落合が………!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる