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番外SS
コミカライズ連載完結記念SS『繋がる糸』1
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「この度は急なお願いにもかかわらず、訪問をお許しくださりありがとうございます。──ジェラリア・セレナート・リンドバルでございます」
表面上は穏やかな笑みを浮かべているものの、内心では緊張がピークに達している状態のまま、最近ようやく口に馴染んできた名前を口にする。
目の前にいるのは二人の人物。
ある意味、これまでの人生で会った人の中で、一番緊張する相手を前にして、俺はどう振る舞うのが正解か必死に考えを巡らせていた。
俺の来訪をわざわざエントランスで出迎えてくれた二人は、腰を落として頭を下げ、身分が上の者を出迎える体勢をとったまま口を開く。
「ようこそお越しくださいました。ヴァンクレール伯爵家当主、セオドア・ヴァンクレールでございます」
「お初にお目にかかります。メアリー・ヴァンクレールと申します」
俺が今訪れているのは、ドルマキア王都の貴族街にあるヴァンクレール伯爵邸。
そして目の前にいるのは、ユリウスの育ての親であるヴァンクレール伯爵夫妻だったりする。
ユリウスと生涯を共にすると誓った俺にとっては、義理の両親ともいえる相手。
本来ならば、頭を下げて畏まった態度をとらなきゃいけないのは俺のほうなのに……
だけどジェラリア・セレナート・リンドバルは一般的には元王族で、今は他国の上位貴族という扱いの人物。
ジェイドではなくジェラリアとして正式に訪問伺いを出した以上、これが正しいやり取りだってわかってるけれど、ユリウスの両親ともいえる二人に頭を下げられるのは、正直いたたまれない。
「お二人にお会いする機会をいただき光栄です。今日はただのジェラリアとしてこちらに伺っておりますので、気楽に接していただければ幸いです」
身分は関係なしに、俺個人として接してほしい。
むしろ兄上たちがユリウスにしたみたいに、『大事な息子を誑かしやがって』くらいのことを言われる覚悟で来てるから、貴族らしく表面だけを取り繕われたまま終わるほうが困るのだ。
そんな思いを込めて口元に笑みを浮かべ、二人の反応を待つ。
ヴァンクレール伯爵夫妻は、俺が口先だけではなく本心からそう思っていることを感じ取ったのか、顔を上げ、それぞれ真っ直ぐに俺と視線を合わせてくれた。
俺は二人の表情にあからさまな負の感情がなかったことにホッとしつつも、ここからが本番だと気を引き締め直してこの屋敷の主人であるヴァンクレール伯爵の反応を待つ。
するとヴァンクレール伯爵は俺に微笑ましいものを見るような視線をむけると、笑顔と共に口を開いた。
「ようこそヴァンクレール伯爵家へ。ジェラリア様のご訪問を心より歓迎いたします。さあ、中にお入りください」
少しだけくだけた態度になったヴァンクレール伯爵に促され、俺は初めて身代わり屋としての仕事に向かった時以上の緊張感を味わいながら、かつてユリウスが過ごしたヴァンクレール伯爵邸に足を踏み入れた。
◇
マレニセン帝国との同盟と条約の締結から一年以上が過ぎ、前国王の崩御と新国王の即位で慌ただしかったドルマキア国内は、徐々に落ち着きを取り戻しつつあった。
ドルマキアとリンドバルという二つの国の王族の血を引く元王子である俺は、ジェイドとして気ままに過ごしたドルマキアでの日々に別れを告げ、マレニセン帝国皇帝ブルクハルト・ヴァルター・マレニセンに仕えることになったのだが。
ブルクハルト陛下とドルマキアのクラウス陛下との間で色んな話し合いをした結果、俺は現在マレニセンとドルマキアの同盟関係の軸になるための在ドルマキア大使という役目に任命され、結局住み慣れたドルマキア王都から離れることなく暮らしている。
ユリウスは、近衛騎士団長の座を辞した後、王弟として主に外交関係を担う役目を果たしていて、ほとんど国内にいられないような多忙な日々を送っており、せっかくこれから先の人生を共に歩んでいくことを決めたのに、相変わらずずっと一緒にはいられない日々が続いていた。
俺も俺で慣れない業務に追われて毎日があっという間に過ぎていってるからお互い様だとは思ってるけど、あまりに会えな過ぎて、最近はもっと強い絆というか、指輪以上の確かな証がほしいなって、ふと思ったりする時もあるのだ。
俺たちの立場では色々難しいことが多いのもわかってるから、口にはしない。
その望みを叶えるために、ユリウスとの時間が減るのは困るし。
今日のヴァンクレール伯爵邸への訪問も、本来ならばユリウスと一緒のはずだった。
しかしまたしてもユリウスの帰国が遅れ、俺の予定的にどうしても日にちをずらすことができなかったため、俺は急遽ひとりでヴァンクレール伯爵邸を訪れることにした。
ユリウスと一緒に生きていくって決めた以上、ちゃんとケジメもつけたいし、何よりユリウスの大事な人たちに直接会って俺たちの関係を認めてもらいたい。
そう思いながらもお互いの多忙を理由になかなか実現しなかったヴァンクレール伯爵夫妻との顔合わせ。
後ろめたさを感じながらも後回しにしてきた結果、結構な時間が過ぎてしまった。
しかし、クラウス陛下の婚姻が内定し、ユリウスが正式に臣籍降下することが決まった今、いよいよ後回しにできない状況に焦りを覚えた俺は、ユリウスに頼み込み、ユリウスの育ての親であるヴァンクレール伯爵夫妻に対し、正式に挨拶をする場を設けてもらうことにしたのだ。
表面上は穏やかな笑みを浮かべているものの、内心では緊張がピークに達している状態のまま、最近ようやく口に馴染んできた名前を口にする。
目の前にいるのは二人の人物。
ある意味、これまでの人生で会った人の中で、一番緊張する相手を前にして、俺はどう振る舞うのが正解か必死に考えを巡らせていた。
俺の来訪をわざわざエントランスで出迎えてくれた二人は、腰を落として頭を下げ、身分が上の者を出迎える体勢をとったまま口を開く。
「ようこそお越しくださいました。ヴァンクレール伯爵家当主、セオドア・ヴァンクレールでございます」
「お初にお目にかかります。メアリー・ヴァンクレールと申します」
俺が今訪れているのは、ドルマキア王都の貴族街にあるヴァンクレール伯爵邸。
そして目の前にいるのは、ユリウスの育ての親であるヴァンクレール伯爵夫妻だったりする。
ユリウスと生涯を共にすると誓った俺にとっては、義理の両親ともいえる相手。
本来ならば、頭を下げて畏まった態度をとらなきゃいけないのは俺のほうなのに……
だけどジェラリア・セレナート・リンドバルは一般的には元王族で、今は他国の上位貴族という扱いの人物。
ジェイドではなくジェラリアとして正式に訪問伺いを出した以上、これが正しいやり取りだってわかってるけれど、ユリウスの両親ともいえる二人に頭を下げられるのは、正直いたたまれない。
「お二人にお会いする機会をいただき光栄です。今日はただのジェラリアとしてこちらに伺っておりますので、気楽に接していただければ幸いです」
身分は関係なしに、俺個人として接してほしい。
むしろ兄上たちがユリウスにしたみたいに、『大事な息子を誑かしやがって』くらいのことを言われる覚悟で来てるから、貴族らしく表面だけを取り繕われたまま終わるほうが困るのだ。
そんな思いを込めて口元に笑みを浮かべ、二人の反応を待つ。
ヴァンクレール伯爵夫妻は、俺が口先だけではなく本心からそう思っていることを感じ取ったのか、顔を上げ、それぞれ真っ直ぐに俺と視線を合わせてくれた。
俺は二人の表情にあからさまな負の感情がなかったことにホッとしつつも、ここからが本番だと気を引き締め直してこの屋敷の主人であるヴァンクレール伯爵の反応を待つ。
するとヴァンクレール伯爵は俺に微笑ましいものを見るような視線をむけると、笑顔と共に口を開いた。
「ようこそヴァンクレール伯爵家へ。ジェラリア様のご訪問を心より歓迎いたします。さあ、中にお入りください」
少しだけくだけた態度になったヴァンクレール伯爵に促され、俺は初めて身代わり屋としての仕事に向かった時以上の緊張感を味わいながら、かつてユリウスが過ごしたヴァンクレール伯爵邸に足を踏み入れた。
◇
マレニセン帝国との同盟と条約の締結から一年以上が過ぎ、前国王の崩御と新国王の即位で慌ただしかったドルマキア国内は、徐々に落ち着きを取り戻しつつあった。
ドルマキアとリンドバルという二つの国の王族の血を引く元王子である俺は、ジェイドとして気ままに過ごしたドルマキアでの日々に別れを告げ、マレニセン帝国皇帝ブルクハルト・ヴァルター・マレニセンに仕えることになったのだが。
ブルクハルト陛下とドルマキアのクラウス陛下との間で色んな話し合いをした結果、俺は現在マレニセンとドルマキアの同盟関係の軸になるための在ドルマキア大使という役目に任命され、結局住み慣れたドルマキア王都から離れることなく暮らしている。
ユリウスは、近衛騎士団長の座を辞した後、王弟として主に外交関係を担う役目を果たしていて、ほとんど国内にいられないような多忙な日々を送っており、せっかくこれから先の人生を共に歩んでいくことを決めたのに、相変わらずずっと一緒にはいられない日々が続いていた。
俺も俺で慣れない業務に追われて毎日があっという間に過ぎていってるからお互い様だとは思ってるけど、あまりに会えな過ぎて、最近はもっと強い絆というか、指輪以上の確かな証がほしいなって、ふと思ったりする時もあるのだ。
俺たちの立場では色々難しいことが多いのもわかってるから、口にはしない。
その望みを叶えるために、ユリウスとの時間が減るのは困るし。
今日のヴァンクレール伯爵邸への訪問も、本来ならばユリウスと一緒のはずだった。
しかしまたしてもユリウスの帰国が遅れ、俺の予定的にどうしても日にちをずらすことができなかったため、俺は急遽ひとりでヴァンクレール伯爵邸を訪れることにした。
ユリウスと一緒に生きていくって決めた以上、ちゃんとケジメもつけたいし、何よりユリウスの大事な人たちに直接会って俺たちの関係を認めてもらいたい。
そう思いながらもお互いの多忙を理由になかなか実現しなかったヴァンクレール伯爵夫妻との顔合わせ。
後ろめたさを感じながらも後回しにしてきた結果、結構な時間が過ぎてしまった。
しかし、クラウス陛下の婚姻が内定し、ユリウスが正式に臣籍降下することが決まった今、いよいよ後回しにできない状況に焦りを覚えた俺は、ユリウスに頼み込み、ユリウスの育ての親であるヴァンクレール伯爵夫妻に対し、正式に挨拶をする場を設けてもらうことにしたのだ。
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