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本編
16.交流
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オーナーに一服盛られ、新しい扉を開いた日の昼過ぎ。
俺は『月下楼』滞在三日目にして漸く、他の男娼さん達と顔を合わせることが出来ていた。
初日はここに面接に来た直後に水揚げが決まり、誰にも会わないままセドリックと朝まで過ごし、昨日は起きてすぐにオーナーに呼ばれ、その後結局なんやかんやで時間が取れないままセドリックの相手をし、挙げ句朝までオーナーとのフルコースを体験したのだ。
新参者のくせに三日目にして漸く先輩方に挨拶するなんて、どんな失礼な人間だよとは思うが、そんな事を今更言っても仕方ないので、あえて考えない事にする。
今日は週に一度の『月下楼』の休館日。
大抵の男娼はどこにも行かずに自室にいるか、サロンと呼ばれる共有スペースにいると事前にネイトさんから情報をもらっていたため、俺は先ず人が多く集まるであろうサロンへと向かった。
「あー!噂の新人さんだー!」
一歩足を踏み入れるなり指を差され、俺は一瞬固まった。
おい、ひとのこと指差すってどういうつもりだ?お前。
とは思ったものの、ここは異世界。常識が違って当たり前。
いちいち気にすることじゃないと思い直し、笑顔を作り挨拶する。
「はい。新しくこちらでお世話になることになりました。コウキです。よろしくお願いいたします」
しかし、俺を指差したやんちゃなガキといった感じの紺色の髪を、たおやかな美人といった感じの薄紫の長髪が即座に窘めたことから、この世界でもひとを指差す行為がNGなのだということがよくわかった。
こんな失礼な真似するヤツが高級娼館の男娼かよ?
この店のレベル大丈夫?
いくつか疑問が浮かんだものの、俺はそれをおくびにも出さず素早く室内に視線を巡らせた。
ここにいるのは七人。男娼は全部で十八人。
思ったよりここいる人数が少なかったことにガッカリする。
ってことはあとは個別訪問か……。
結構時間かかりそうだな。
早く終わったら勉強がてらネイトさんの手伝いに行こうと思っていただけに、完全当てが外れた形だ。
とりあえずひとりひとりと軽く挨拶を交わし、自己紹介しあう。
赤、水色、オレンジ、緑、ピンク。
皆目が痛くなるほど色とりどりの髪の人間ばかりで、容姿も可愛い系から男前まで豊富なラインナップではあったが、やはり黒髪、黒い瞳という人間はひとりもいなかった。
この中にいると俺の髪、結構地味だな。
そんな事を考えながら、次に紺色の髪のヤツの前に立つと。
「コウキって異世界人だってホント?」
先程自分の言動を窘められたばかりにも関わらず、挨拶も何もかもすっ飛ばし、いかにも興味津々という表情を隠すことなくそう聞かれてしまった。
その途端。室内に俄に緊張が走る。
「ハル!おやめなさい!むやみに他人を詮索するような真似は禁止されているはずです!」
どうやらこの好奇心旺盛というか空気読まないガキの名前は『ハル』というらしい。
「だって、異世界人なのにわざわざ男娼になるくらいだから何か事情があるのかなーって思うじゃん。
俺と一緒で悪徳商人に騙されて売り飛ばされたんだったら、話が合うかなって思ってさー」
ハルは今もまた注意されたばかりだというのに、全く気にする様子もみせず、白い歯を見せてニカリと笑った。
悲壮感も悪意もないことがよく分かる言動に、こういう言い方はなんだがコイツはバカなのだと確信する。
薄紫の長髪はそんなハルを見て、こめかみを抑えながら大きな溜息を吐いていた。
「よろしく。ハル。コウキです。悪徳商人に騙されたわけじゃないけど、色んな事情があってここに来ました。よろしくお願いします」
俺はあえて明確な返答はせずにハルに挨拶すると、すぐに普段から相当ハルの自由な発言に悩まされているらしい薄紫の長髪へと歩み寄った。
「コウキです。よろしくお願いいたします」
「ルロイです。ここの最年長でハルの教育を任されております。今ほどはハルが無作法な真似をして申し訳ございませんでした」
頭を下げるルロイは、見るからに根っからの善人といった風に感じる。
もしかして、コイツも騙されて売り飛ばされてきたクチだったりして……。
普通教育はネイトさんのような幹部クラスの内勤スタッフの仕事だったりするらしいのだが、男娼であるルロイがそれをしているということは、このお人好しそうな性格が災いして厄介事を押し付けられた可能性が高い。
「いえ。ルロイさんのせいではないので」
さすがにあんな真似をされて気にしないで欲しいとは言えない。
それはルロイにも伝わったようで。
「ただ無駄に年を取ってるだけであまりお役に立てないでしょうけど、何かあったら自分だけでは悩まずに私に相談して下さいね」
苦笑いしながらも、俺を気遣うような言葉を掛けてくれた。
……俺のほうが年上なんどけどな。
その時。
入り口の扉が乱暴に開き、やや小柄な人物が和やかな雰囲気をぶち壊すような勢いで飛び込んできた。
少しゆるふわな金髪に、零れ落ちそうなほど大きな緑色の瞳。
全く外に出ないのか透き通るような白い肌はまさにザ・美少年といった感じ。
その金髪美少年は緑色の瞳で俺をロックオンすると、ツカツカと歩み寄り、開口一番。さっきのハル以上にとんでもない事を言い出した。
「この泥棒猫ッ!」
「おっと!……危ねぇな。──何すんだよ」
ドロドロとした人間関係が繰り広げられるドラマでしか聞いたことがないセリフと同時に、振りかざした白い手が飛んでくる。
俺はそれを腕を掴むことで難なく受け止めると、十センチ以上下にある緑色の瞳をしっかりと見据えた。
「……お前、今自分が何したかわかってんの?」
自然と低い声になってしまうのは仕方ない。俺は今、猛烈に腹が立っているのだ。
どうやら俺の怒りは目の前のコイツにもしっかり伝わっているようで、その勝ち気そうな瞳が少しだけ怯んだような様子を見せた。
「ひとの大事なものを掠め取る卑怯な人間に思い知らせてやろうと思っただけだけど?」
その一言でピンときた。
コイツ、セドリックに惚れて指名変えされた男娼だ。
名前は確か『コリン』だったか……?
悪びれた様子の欠片もない態度に俺は怒りを通り越して無表情になった。
客に惚れた挙げ句、指名変えされたことを逆恨みしてその相手に殴りかかるなんて……。
俺はコイツのプロ意識の低さが絶対に許せない。
「おい、お前」
「なんだよ?」
「お前にはプロ意識ってもんはねぇのか?」
「自分がやりたくてやってるんじゃない仕事にそんなもんある訳ないだろ!」
吐き捨てるように言われた言葉に、俺は最早コイツに何を言っても無駄だと判断し腕を離した。
相手にするだけ時間の無駄だ。
「お騒がせしました。これからよろしくお願いいたします」
俺はコリンを無視し最初にここにいたメンバーに向かって頭を下げると、速やかにここを後にすることに決めた。
ところが。
「おやめなさいッ!」
ガツン!
ドサッ!
「「「ルロイさん!」」」
背後から聞こえてくる音の数々に驚いて振り返ると。
その辺にあったガラス製の器ような物を手に立ち尽くすコリンと、苦悶の表情を浮かべて倒れているルロイが目に飛び込んでくる。
マジかよ……。あれで殴りかかってくるなんて、コイツ頭イカれてんのか?
俺はコリンの存在をガン無視してルロイの前に膝を着く。
「ルロイさん。大丈夫ですか?」
「……ええ、何とか。……ちょっと踏ん張りきれなくて倒れちゃいました」
意識があることにホッとしつつ、まずはルロイの状態を確認した。
顔や頭に傷はないが、咄嗟に防御本能が働いたのか、腕であのガラスの器をまともに受けたらしく、当たった箇所が徐々に腫れてきている。
「おい、ハル!ネイトさん呼んでこい!」
誰かの声にハルが弾丸のように部屋を飛び出していく。
俺はその後ろ姿を見送りながら、こっそり念話の魔法を使ってネイトさんに呼び掛けていた。
『ネイトさん。スミマセン。ちょっとサロンでトラブルがあって、ケガ人がでたんですけど』
『わかりました。すぐそちらにむかいますので、コウキさんはくれぐれも魔法を使わないようお願いします』
『了解です。 今ハルがネイトさんを呼びに飛び出して行ったので、もし途中で会ったら回収してきて下さい』
『はい。では会えたらそうしますね』
とりあえずはこれでヨシ。さて、と。
俺はルロイを姫抱っこすると、高級そうなビロード張りのソファーに座らせる。
そしてすぐに、まだ呆然と立ち尽くしているコリンの前に立った。
「な、何だよ……」
「お前にプロ意識が全くねぇのはよくわかった。
だからって自分の価値観振りかざして簡単に他人を巻き込んでんじゃねぇよ」
「……ケガくらい魔法で簡単に直せるだろ」
「とことん甘い考えのお坊ちゃんだな」
「何だと!?」
「テメェが使える訳でもねぇくせに、勝手なことほざいてんじゃねぇよ」
「ぐ…ッ……」
これ以上コイツと話しても無駄だと判断した俺は、間髪入れずにコリンの腹に拳を入れた。
大分手加減はしたつもりだったが、コリンには相当効いたらしく、その場に蹲ったまま動かない。
「例え治せたとしても、痛ェもんは痛ェんだよ。──それにな、死んだ人間に魔法は効かない。
ここにいる人間は皆何らかの事情を抱えてここにいるヤツばかりだ。身体が資本の商売である以上、それを安易に傷つけようなんて考えは許されない。
お前の考えがどうであれ、もしお前のせいで相手が働けなくなったら、お前にその責任が取れるのか?
それともそれも誰かがどうにかしてくれるなんて甘えた考えしてんじゃねぇだろうな。
少なくとも俺にはお前にそんな価値があるとは思えねぇけど」
俺は言いたいことだけ言うと、いつの間にかこの場に到着していたネイトさんに場を譲った。
すれ違い様、念話で『コウキさんも熱くなることがあるんですね』という、どこか微笑ましいものでも見たようなコメントをされたのがいたたまれない。
──まさかこんなとこで元ヤンキーの顔を出すことになるとは……。
ま、コリンは既にプロじゃない、っていうかプロだと認めないからこれはわざとだけどな。
俺は部屋の端っこに移動すると、ネイトさんがルロイに治癒魔法をかけ、続いてコリンにも魔法をかけるのを黙って見守った。
程なくして。
この騒ぎを聞き付けたらしい他の男娼達とスタッフがわらわらとやってきて、結構広い室内はあっという間に満員状態となってしまった。
その結果。
俺は計らずも、個別に訪問しなくても一回で全員と顔を合わせることが出来たのだった。
俺は『月下楼』滞在三日目にして漸く、他の男娼さん達と顔を合わせることが出来ていた。
初日はここに面接に来た直後に水揚げが決まり、誰にも会わないままセドリックと朝まで過ごし、昨日は起きてすぐにオーナーに呼ばれ、その後結局なんやかんやで時間が取れないままセドリックの相手をし、挙げ句朝までオーナーとのフルコースを体験したのだ。
新参者のくせに三日目にして漸く先輩方に挨拶するなんて、どんな失礼な人間だよとは思うが、そんな事を今更言っても仕方ないので、あえて考えない事にする。
今日は週に一度の『月下楼』の休館日。
大抵の男娼はどこにも行かずに自室にいるか、サロンと呼ばれる共有スペースにいると事前にネイトさんから情報をもらっていたため、俺は先ず人が多く集まるであろうサロンへと向かった。
「あー!噂の新人さんだー!」
一歩足を踏み入れるなり指を差され、俺は一瞬固まった。
おい、ひとのこと指差すってどういうつもりだ?お前。
とは思ったものの、ここは異世界。常識が違って当たり前。
いちいち気にすることじゃないと思い直し、笑顔を作り挨拶する。
「はい。新しくこちらでお世話になることになりました。コウキです。よろしくお願いいたします」
しかし、俺を指差したやんちゃなガキといった感じの紺色の髪を、たおやかな美人といった感じの薄紫の長髪が即座に窘めたことから、この世界でもひとを指差す行為がNGなのだということがよくわかった。
こんな失礼な真似するヤツが高級娼館の男娼かよ?
この店のレベル大丈夫?
いくつか疑問が浮かんだものの、俺はそれをおくびにも出さず素早く室内に視線を巡らせた。
ここにいるのは七人。男娼は全部で十八人。
思ったよりここいる人数が少なかったことにガッカリする。
ってことはあとは個別訪問か……。
結構時間かかりそうだな。
早く終わったら勉強がてらネイトさんの手伝いに行こうと思っていただけに、完全当てが外れた形だ。
とりあえずひとりひとりと軽く挨拶を交わし、自己紹介しあう。
赤、水色、オレンジ、緑、ピンク。
皆目が痛くなるほど色とりどりの髪の人間ばかりで、容姿も可愛い系から男前まで豊富なラインナップではあったが、やはり黒髪、黒い瞳という人間はひとりもいなかった。
この中にいると俺の髪、結構地味だな。
そんな事を考えながら、次に紺色の髪のヤツの前に立つと。
「コウキって異世界人だってホント?」
先程自分の言動を窘められたばかりにも関わらず、挨拶も何もかもすっ飛ばし、いかにも興味津々という表情を隠すことなくそう聞かれてしまった。
その途端。室内に俄に緊張が走る。
「ハル!おやめなさい!むやみに他人を詮索するような真似は禁止されているはずです!」
どうやらこの好奇心旺盛というか空気読まないガキの名前は『ハル』というらしい。
「だって、異世界人なのにわざわざ男娼になるくらいだから何か事情があるのかなーって思うじゃん。
俺と一緒で悪徳商人に騙されて売り飛ばされたんだったら、話が合うかなって思ってさー」
ハルは今もまた注意されたばかりだというのに、全く気にする様子もみせず、白い歯を見せてニカリと笑った。
悲壮感も悪意もないことがよく分かる言動に、こういう言い方はなんだがコイツはバカなのだと確信する。
薄紫の長髪はそんなハルを見て、こめかみを抑えながら大きな溜息を吐いていた。
「よろしく。ハル。コウキです。悪徳商人に騙されたわけじゃないけど、色んな事情があってここに来ました。よろしくお願いします」
俺はあえて明確な返答はせずにハルに挨拶すると、すぐに普段から相当ハルの自由な発言に悩まされているらしい薄紫の長髪へと歩み寄った。
「コウキです。よろしくお願いいたします」
「ルロイです。ここの最年長でハルの教育を任されております。今ほどはハルが無作法な真似をして申し訳ございませんでした」
頭を下げるルロイは、見るからに根っからの善人といった風に感じる。
もしかして、コイツも騙されて売り飛ばされてきたクチだったりして……。
普通教育はネイトさんのような幹部クラスの内勤スタッフの仕事だったりするらしいのだが、男娼であるルロイがそれをしているということは、このお人好しそうな性格が災いして厄介事を押し付けられた可能性が高い。
「いえ。ルロイさんのせいではないので」
さすがにあんな真似をされて気にしないで欲しいとは言えない。
それはルロイにも伝わったようで。
「ただ無駄に年を取ってるだけであまりお役に立てないでしょうけど、何かあったら自分だけでは悩まずに私に相談して下さいね」
苦笑いしながらも、俺を気遣うような言葉を掛けてくれた。
……俺のほうが年上なんどけどな。
その時。
入り口の扉が乱暴に開き、やや小柄な人物が和やかな雰囲気をぶち壊すような勢いで飛び込んできた。
少しゆるふわな金髪に、零れ落ちそうなほど大きな緑色の瞳。
全く外に出ないのか透き通るような白い肌はまさにザ・美少年といった感じ。
その金髪美少年は緑色の瞳で俺をロックオンすると、ツカツカと歩み寄り、開口一番。さっきのハル以上にとんでもない事を言い出した。
「この泥棒猫ッ!」
「おっと!……危ねぇな。──何すんだよ」
ドロドロとした人間関係が繰り広げられるドラマでしか聞いたことがないセリフと同時に、振りかざした白い手が飛んでくる。
俺はそれを腕を掴むことで難なく受け止めると、十センチ以上下にある緑色の瞳をしっかりと見据えた。
「……お前、今自分が何したかわかってんの?」
自然と低い声になってしまうのは仕方ない。俺は今、猛烈に腹が立っているのだ。
どうやら俺の怒りは目の前のコイツにもしっかり伝わっているようで、その勝ち気そうな瞳が少しだけ怯んだような様子を見せた。
「ひとの大事なものを掠め取る卑怯な人間に思い知らせてやろうと思っただけだけど?」
その一言でピンときた。
コイツ、セドリックに惚れて指名変えされた男娼だ。
名前は確か『コリン』だったか……?
悪びれた様子の欠片もない態度に俺は怒りを通り越して無表情になった。
客に惚れた挙げ句、指名変えされたことを逆恨みしてその相手に殴りかかるなんて……。
俺はコイツのプロ意識の低さが絶対に許せない。
「おい、お前」
「なんだよ?」
「お前にはプロ意識ってもんはねぇのか?」
「自分がやりたくてやってるんじゃない仕事にそんなもんある訳ないだろ!」
吐き捨てるように言われた言葉に、俺は最早コイツに何を言っても無駄だと判断し腕を離した。
相手にするだけ時間の無駄だ。
「お騒がせしました。これからよろしくお願いいたします」
俺はコリンを無視し最初にここにいたメンバーに向かって頭を下げると、速やかにここを後にすることに決めた。
ところが。
「おやめなさいッ!」
ガツン!
ドサッ!
「「「ルロイさん!」」」
背後から聞こえてくる音の数々に驚いて振り返ると。
その辺にあったガラス製の器ような物を手に立ち尽くすコリンと、苦悶の表情を浮かべて倒れているルロイが目に飛び込んでくる。
マジかよ……。あれで殴りかかってくるなんて、コイツ頭イカれてんのか?
俺はコリンの存在をガン無視してルロイの前に膝を着く。
「ルロイさん。大丈夫ですか?」
「……ええ、何とか。……ちょっと踏ん張りきれなくて倒れちゃいました」
意識があることにホッとしつつ、まずはルロイの状態を確認した。
顔や頭に傷はないが、咄嗟に防御本能が働いたのか、腕であのガラスの器をまともに受けたらしく、当たった箇所が徐々に腫れてきている。
「おい、ハル!ネイトさん呼んでこい!」
誰かの声にハルが弾丸のように部屋を飛び出していく。
俺はその後ろ姿を見送りながら、こっそり念話の魔法を使ってネイトさんに呼び掛けていた。
『ネイトさん。スミマセン。ちょっとサロンでトラブルがあって、ケガ人がでたんですけど』
『わかりました。すぐそちらにむかいますので、コウキさんはくれぐれも魔法を使わないようお願いします』
『了解です。 今ハルがネイトさんを呼びに飛び出して行ったので、もし途中で会ったら回収してきて下さい』
『はい。では会えたらそうしますね』
とりあえずはこれでヨシ。さて、と。
俺はルロイを姫抱っこすると、高級そうなビロード張りのソファーに座らせる。
そしてすぐに、まだ呆然と立ち尽くしているコリンの前に立った。
「な、何だよ……」
「お前にプロ意識が全くねぇのはよくわかった。
だからって自分の価値観振りかざして簡単に他人を巻き込んでんじゃねぇよ」
「……ケガくらい魔法で簡単に直せるだろ」
「とことん甘い考えのお坊ちゃんだな」
「何だと!?」
「テメェが使える訳でもねぇくせに、勝手なことほざいてんじゃねぇよ」
「ぐ…ッ……」
これ以上コイツと話しても無駄だと判断した俺は、間髪入れずにコリンの腹に拳を入れた。
大分手加減はしたつもりだったが、コリンには相当効いたらしく、その場に蹲ったまま動かない。
「例え治せたとしても、痛ェもんは痛ェんだよ。──それにな、死んだ人間に魔法は効かない。
ここにいる人間は皆何らかの事情を抱えてここにいるヤツばかりだ。身体が資本の商売である以上、それを安易に傷つけようなんて考えは許されない。
お前の考えがどうであれ、もしお前のせいで相手が働けなくなったら、お前にその責任が取れるのか?
それともそれも誰かがどうにかしてくれるなんて甘えた考えしてんじゃねぇだろうな。
少なくとも俺にはお前にそんな価値があるとは思えねぇけど」
俺は言いたいことだけ言うと、いつの間にかこの場に到着していたネイトさんに場を譲った。
すれ違い様、念話で『コウキさんも熱くなることがあるんですね』という、どこか微笑ましいものでも見たようなコメントをされたのがいたたまれない。
──まさかこんなとこで元ヤンキーの顔を出すことになるとは……。
ま、コリンは既にプロじゃない、っていうかプロだと認めないからこれはわざとだけどな。
俺は部屋の端っこに移動すると、ネイトさんがルロイに治癒魔法をかけ、続いてコリンにも魔法をかけるのを黙って見守った。
程なくして。
この騒ぎを聞き付けたらしい他の男娼達とスタッフがわらわらとやってきて、結構広い室内はあっという間に満員状態となってしまった。
その結果。
俺は計らずも、個別に訪問しなくても一回で全員と顔を合わせることが出来たのだった。
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