異世界転移した現役No.1ホストは人生設計を変えたくない。

みなみ ゆうき

文字の大きさ
36 / 73
本編

35.補充

しおりを挟む
「え……? 俺これ着るの? マジで?」


シャワーを浴びて出てきた俺は準備されていた服を見て、思わずそう確認せずにはいられなかった。

……だってさ、この服。どこからどう見てもアレじゃん?


「はい。仕立屋に依頼しておりましたものが漸く仕上がって参りましたので、今回はお召しになるよい機会かと。
それにこちらは勇者にのみ着用が許されている特別なデザインでございますので、王太子殿下にもコウキ様が勇者であるという認識を強く持っていただけると思いますよ?」

「……そうだといいけどな」


力なく答えた俺に、アイザックの斜め後ろから心配そうな視線が向けられる。

俺は軽いため息と共にその衣装を手に取ると、視線の主を安心させるために大丈夫だというつもりで軽く頷いた。


俺の身を按じるあまり、考えている事が全部表情に出てしまっている正直者の執事見習いの名はコリン。

執事服に身を包んだこの金髪碧眼のザ・美少年は、かつて月下楼で俺と色々あった末、男娼を辞めた(っていうか俺が辞めさせた)あのコリンだ。


ブライアンのせいで男娼を辞めざるを得なくなり、月下楼を出ていく事が決まった日。

『僕はコウキさんに身請けされたも同然の身です。お願いします。僕をコウキさんのお邸で雇って下さい!何でもしますから!!』

口先だけでなく本気だということがひしひしと伝わってくるような必死の形相で懇願され、自分の右腕とまではいかなくとも将来的に色々任せられるような人材に育てるのも悪くないかなと思った俺は、コリンを新しい邸に連れて行くことに決めたのだった。


あのコリンがこんな風に俺を心配する日がくるとはなぁ……。
人間どうなるかわからないもんだ。
どうなるかわからないのは人間関係だけじゃないけどさ。

──まさかこの歳になってまたコレを着る羽目になろうとは……。


俺はアイザックが用意してくれた勇者にしか着用を許されていないという特別仕様の服を見て苦笑いするしかなかった。

詰襟の黒い上着に黒いズボン。
以前この世界に来た勇者が着ていた服を細部まで再現したというそれは、この世界にはないという桜の花の模様の細工が施された金ボタンが前袷部分と袖に付けられている。


うん。これ、どこからどう見ても学ランじゃん。

前にこの世界に来た勇者様はこういうの着る歳の子だったに違いない。

学ランなんて中学生以来だけど、俺が着て大丈夫か?
AVとかに出てくる見るからにお前高校生じゃないだろう感満載の不自然さが滲み出たりしない?


上下黒で金ボタンが勇者の標準服だっていうのなら、俺としてはもっと軍服チックに加工してもらったほうがありがたかった。こんな風にまんま学ランじゃなく。
いくら何でも恥ずかし過ぎるだろ。

まあ、この世界に日本人は俺しかいない訳だから、素知らぬ顔で着てればいいんだろうけどさ。


ちなみにこの桜というのは勇者を表す特別な紋様なので、他の人間が何かの意匠として使用することは固く禁じられている。


こうして複雑な思いを抱きつつ自分の中で何とか折り合いをつけた俺は、学ランを着るために羽織っていたバスローブを潔く床へと落とした。

するとすぐにコリンがズボンを手渡してくれた後、すかさず俺の背後に回り上着を拡げて待機してくれた。

数ヶ月とはいえ娼館の内勤スタッフとして働いた経験もあるだけにその辺は慣れたものらしい。

俺的にはこうして他人に何もかもしてもらうのは正直気恥ずかしいし慣れないのだが、これも使用人教育の一貫で主人としての務めだとアイザックに言われれば大人しく従うしかない。


「やはりコウキ様には高貴な黒が一番お似合いですな」


学ラン姿になった俺を見てアイザックが満足そうな表情で褒めてくれるが、やっぱり俺は落ち着かない。

照れ隠しに完全地毛の黒髪を無造作に掻き上げると、何故かコリンが頬を染めながら俺を見ていて、益々落ち着かない気持ちにさせられた。

勇者だってバレた時にはプリン状態になっていた俺の髪だが、勇者ブランドを最大限に利用するにはやっぱり黒髪のほうがいいだろうと判断した結果、勝手に勇者認定されて王宮に連れて行かれることになったその日に成長促進的な魔法を使って一気に髪を伸ばし、色がついてた部分は全てネイトさんにカットしてもらった。

おかげで今の俺は黒目黒髪に黒い衣装という、この世界の人が思い描く勇者様そのものの姿になっている。


「さて。準備完了。じゃ、面倒臭いけどちょっと行ってくるわ」

「「はい。いってらっしゃいませ」」


俺は笑顔で見送ってくれる二人に苦笑いすると、王宮のとある場所に行くために転移魔法を使ったのだった。



◇◆◇◆



「ご連絡いただきありがとうございます。お待ち致しておりました」


俺が転移した先は宰相様の執務室。

苦虫を噛み潰したかのような表情で俺を迎えた宰相様に、俺はわざとらしくニッコリ微笑みながら距離を縮めてやった。


「ごきげんよう。宰相閣下。早速で申し訳ないけど、時間もないのでさっき手紙で頼んでおいた件、よろしくお願いいたします」

「……わかりました。では移動しながら説明させていただきます」


仕事中だったらしい宰相様はニコリともしないまま立ち上がると、俺の方へと歩み寄ってきた。


俺がさっきの手紙で宰相様に頼んだ事は二つ。

まずは王太子殿下がどういうつもりで俺を呼び出したのかということを本人に会う前にある程度調べておく事。そしてもうひとつは王太子殿下との謁見の場に宰相様からも立ち会って欲しいというものだ。

さーて、どんな話が飛び出すかな。


すぐに件の王太子殿下のもとへと向かうつもりでいると。


「その前に」


宰相様はそっと俺の肩に手を置き、少し身を屈めてから触れるだけのキスを落としてきたのだ。

そしてそれはすぐに深いものへと変わっていく。


言っとくけど、俺たちは別に特別な関係じゃない。
実はこの宰相様も俺の魔力アップに協力してくれているひとりなのだ。

宰相様の事を個人的にどうこう思ってなんていないものの、魔力の相性が良いらしく少ない接触で効率的に魔力の補給をしてもらえる貴重な相手だけに、他の魔力提供者より有り難みがある気がする。

短時間でガッツリ回復させるには精液をもらうのが一番なのだろうが、ちょっと使った分を取り戻す程度のことだったら、宰相様と濃厚なキスをするだけで事足りるからホントに助かっているのだ。

他の人間とじゃこうはならないもんなー。

となると、セックスで得られる魔力回復がどの程度なのか大いに気になるところではあるが、いくら仕事とはいえ既に息子のほうとアレコレ致している仲だけに、所謂『親子どんぶり』という状態は正直言って避けたいところだ。

──避けたいって思ってるんだけど……!


舌を絡める濃厚なキスをしていると、宰相様の魔力がゆっくりと俺の中に流れ込んできて、転移魔法で消費した分が再び体内に戻ってくるのがわかる。

それはまるで俺の中の快感の扉を無理矢理抉じ開けようとしているかのような感覚で。
口腔内を隈無く擽られ、舌を絡めて吸われると段々おかしな気分にさせられるのだから困ったものだ。


ヤベェ……。魔力の相性ってこういうのにも直結してんのかな……?
それともコイツがやたらと慣れてんのか。


年季の差をまざまざと思い知らされるような官能的なキスに、俺はどこかに引き込まれそうになる感覚に必死に抗うようにして、合わせた唇から流れてくる宰相様の魔力を享受した。


「ん……ッ……」


ある程度の魔力をもらったところでやや強引に顔を背けて唇を離すと、宰相様はいかにも事務的な行為だったと云わんばかりにいともあっさり俺から離れていった。


「ここに来るまでに消費した分の魔力はこれで足りたでしょうか? もし足りないようなら後程またたっぷりお返しさせていただきますから遠慮なく仰って下さい」


王太子殿下の勝手な呼び出しという大きなアドバンテージを抱えてる今。宰相様がちょっとでも俺に借りを作りたくないらしい事がその言葉から窺える。

でもな。


「ただ話をする程度で終わるのならこれで充分です。でも万が一予想以上に魔力を使う事態になった場合はまたお願いするかもしれません」


俺は俺で。『これ以上王太子殿下とやらが面倒な事を言い出さないようしっかり見張っておけよ。そうじゃないとどうなるか保証できないぞ』ということをやんわりと警告してやった。

途端に宰相様の片眉がピクリと上がる。

もしかして気に障ったかな?

ところが俺の予想に反し、宰相様はかなり素直な反応を返してくださった。


「……コウキさんが時間の無駄だと判断するのは仕方ないとして、この国の為に魔王と対峙する事がバカバカしくなってしまわない事を祈るばかりです」


まだ何も聞いていない状態でのあまりの言い様に。

俺は早くもボディトークの必要性を感じずにはいられなかった。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

聖女召喚の巻き添えで喚ばれた「オマケ」の男子高校生ですが、魔王様の「抱き枕」として重宝されています

八百屋 成美
BL
聖女召喚に巻き込まれて異世界に来た主人公。聖女は優遇されるが、魔力のない主人公は城から追い出され、魔の森へ捨てられる。 そこで出会ったのは、強大な魔力ゆえに不眠症に悩む魔王。なぜか主人公の「匂い」や「体温」だけが魔王を安眠させることができると判明し、魔王城で「生きた抱き枕」として飼われることになる。

オメガに転化したアルファ騎士は王の寵愛に戸惑う

hina
BL
国王を護るαの護衛騎士ルカは最近続く体調不良に悩まされていた。 それはビッチングによるものだった。 幼い頃から共に育ってきたαの国王イゼフといつからか身体の関係を持っていたが、それが原因とは思ってもみなかった。 国王から寵愛され戸惑うルカの行方は。 ※不定期更新になります。

弟がガチ勢すぎて愛が重い~魔王の座をささげられたんだけど、どうしたらいい?~

マツヲ。
BL
久しぶりに会った弟は、現魔王の長兄への謀反を企てた張本人だった。 王家を恨む弟の気持ちを知る主人公は死を覚悟するものの、なぜかその弟は王の座を捧げてきて……。 というヤンデレ弟×良識派の兄の話が読みたくて書いたものです。 この先はきっと弟にめっちゃ執着されて、おいしく食われるにちがいない。

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話

gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、 立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。 タイトルそのままですみません。

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

ざこてん〜初期雑魚モンスターに転生した俺は、勇者にテイムしてもらう〜

キノア9g
BL
「俺の血を啜るとは……それほど俺を愛しているのか?」 (いえ、ただの生存戦略です!!) 【元社畜の雑魚モンスター(うさぎ)】×【勘違い独占欲勇者】 生き残るために媚びを売ったら、最強の勇者に溺愛されました。 ブラック企業で過労死した俺が転生したのは、RPGの最弱モンスター『ダーク・ラビット(黒うさぎ)』だった。 のんびり草を食んでいたある日、目の前に現れたのはゲーム最強の勇者・アレクセイ。 「経験値」として狩られる!と焦った俺は、生き残るために咄嗟の機転で彼と『従魔契約』を結ぶことに成功する。 「殺さないでくれ!」という一心で、傷口を舐めて契約しただけなのに……。 「魔物の分際で、俺にこれほど情熱的な求愛をするとは」 なぜか勇者様、俺のことを「自分に惚れ込んでいる健気な相棒」だと盛大に勘違い!? 勘違いされたまま、勇者の膝の上で可愛がられる日々。 捨てられないために必死で「有能なペット」を演じていたら、勇者の魔力を受けすぎて、なんと人間の姿に進化してしまい――!? 「もう使い魔の枠には収まらない。俺のすべてはお前のものだ」 ま、待ってください勇者様、愛が重すぎます! 元社畜の生存本能が生んだ、すれ違いと溺愛の異世界BLファンタジー!

処理中です...