異世界転移した現役No.1ホストは人生設計を変えたくない。

みなみ ゆうき

文字の大きさ
46 / 73
本編

45.試練

しおりを挟む
うっすらと目を覚ますと、見覚えのある天井が目に飛び込んできた。


あれ? 俺、いつの間に寝てたんだっけ……?

ベッドから起き上がり、記憶が曖昧になっている自分の行動を振り返ろうとするものの、頭の中に靄がかかったようになっていて思い出せないことが多すぎる。

──まさかなんかヤバいことやらかしてないだろうな……。


恐る恐る自分の着ているものを確認すると、昨夜・・と同じ格好だったことにホッとする。

自分の誕生日営業のために某高級ブランドに特別にオーダーしていたスリーピースの白いスーツ。
これを着こなせる俺ってさすがとか思ってたんだけど。

いくら似合ってたからってこのまま寝てたとかあり得ねぇ……。


部屋に帰ってきたところまでは記憶にある。でもそっから先の記憶がない。

確かに自分の誕生日営業ってことで浴びるほど飲んだ覚えはあるけど、こんな風に記憶が飛ぶなんてことは初めてのことだ。
しかも頭が鈍く痛んでいることから軽い二日酔いになっていることがわかる。

酒には強いと自負してたけど、昨夜はさすがに飲み過ぎだったか……。それとももう俺も若くないってことなのかな……。

すっかりシワになったスーツと酒臭さが染み着いてしまった気がするベッドを見ながら、自分の衰えに苦笑いしつつバスルームへと向かう。

後でマンションのコンシェルジュに連絡して全部クリーニングしてもらおう。

そう考えながら着ていたものを全て脱ぎ去り熱めのシャワーを浴びたのだった。



ここは都内の一等地に建てられた超高級タワーマンションにある俺の部屋。

昨夜は俺の24歳の誕生日を祝う誕生日営業で過去最高の売り上げを叩きだし、いい気分で帰宅した、……はず。

で、部屋の扉を開けたら……。

…………。

そこから先の記憶が全くない。

今まで一度だって酔って記憶を無くすということがなかっただけに、自分のこの状態に微かに違和感を覚えるが、実際にこういう状況になってしまっているのだから酔って記憶を無くしてしまったことを認めざるを得ないだろう。

俺は軽いため息を吐きつつ髪と身体を洗って酒の臭いを落とすと、バスタオルで水気を拭い、毎朝(もう昼すぎだが)の日課である自分の身体の状態を鏡に映して確認するということを行う為にリビングへと移動した。

ところが。


「え……。嘘だろ。これなんの罰ゲームだよ」


鏡に映る自分の姿を見て絶句する。
体型自体はいつもどおりで変化はない。

しかし、全身の至るところが違和感だらけで、自分のことながらどこからツッコんでいいのか途方に暮れた。


ミルクティ色にカラーリングしていた髪は地毛の黒髪に戻ってるし、アソコの毛も含めてどこもかしこもツルツルに脱毛されてるし、挙げ句の果てに乳首もチンポもやたらとピンクで初々しい。

突然童貞感丸出しの身体になってしまったことに驚きつつも、頭の片隅に『これでいいんだ』という妙な確信が過り混乱する。


何でこれでいいと思うんだろう……?
昨夜俺の記憶にないところで何かあったのか?

猛烈な不安に駆られた俺は、昨夜マンションの入り口まで送ってくれた後輩に連絡を入れることにしたのだが──。


──上着の内ポケットに入れておいたはずのスマホが見つからない。


まさか無くしたとか……?

そう考えた時、不意にスマホが別の場所に保管してあるという事実・・を思い出す。

あ……。俺のスマホ、ここ・・にはねぇ。


【はい。せいかーい!!】


「え!?」


俺以外誰もいないはずの部屋で全く聞き覚えのない声が聞こえてきたことに驚いた瞬間。
頭の中にあった靄が晴れ、何かに引っ張られるような感覚と共に再び意識が遠退いた。



◇◆◇◆



「コウキッ!しっかりしろッ!!」


目を開けると、必死の形相で俺を呼ぶセドリックがいた。


「セドリック……様……?」


何で俺の部屋にセドリックが?と考えて、すぐにこっちが現実だったことを思い出した。


「コウキ!無事で良かった!勇者の剣に触れた途端突然倒れたと聞いて呪いが発動したのではないかと焦ってしまった」

「呪い……?」


そういえば俺、あのいかにも伝説の剣って感じのあれに触れた途端、意識が薄らいでいったんだっけ?

自分のおかれている状況を把握するためゆっくりと周りを見回すと、どうやらここはまだ宝物庫の中だったらしく、キラキラ光輝く金銀財宝に取り囲まれるようにして床に寝かされている状態だった。

ゆっくりと身体を起こして立ち上がり、腕や足を動かして四肢の感覚を確認する。

変な痺れや痛みがないことにホッとしつつも、俺はもう一度勇者の持ち物が納められている箱へと近付いた。


先程は触れただけで昏倒してしまった剣。

完全に呪われたと思ったが、あれは呪いなんかじゃなく、まだ正当な持ち主じゃない俺への拒絶ってことだったんじゃないだろうか。

今度はたぶん触れても大丈夫な気がする。

だって、俺の意識をあっちに飛ばしたのもコイツなら、ここに戻したのもコイツだと思うから。


「で? 俺はアンタのお眼鏡に叶ったのか?」


そう聞きながら指先で優しく愛撫するように血のように赤い宝石を撫でる。
するとその赤い宝石が突如輝きを増し、触れていた指先から一気に俺の魔力が流れ込んでいった。


「うわッ」


その感覚に驚いた俺は思わず声をあげる。

これ、結構キツいな……。

宝石に魔力を吸いとられるというよりも、ごっそり食われるっていったほうが合ってる感じで。
俺の魔力は信じられないほど急激に減っていき、それをたらふく食っているらしい伝説の剣は赤い宝石だけじゃなく全体が輝き出していた。


「コウキッ!」


異様な光景にセドリックが堪らず俺の名前を呼び触れてこようとするが、生憎俺にはそれに答えてやれるだけの余裕もそれを制するだけの余力もないので超アセる。

すると。


「セドリック。コウキ殿に触れてはならん」

「兄上!」


これがどういう状態か正確に理解しているらしい国王様がセドリックを止めてくれた。

ナイス。国王様。

今、俺コイツに試されてる最中だから下手に邪魔立てされると困るんだわ。
その代わり後でたっぷり役に立ってもらうからさ。

俺は心の中だけでそう言いつつセドリックに向かって薄く微笑む。

セドリックは唇を固く引き結ぶと、俺のほうに伸ばしかけていた腕を力なく下ろし、見ているこちらが切なくなるほど悲愴な面持ちで俺のすることを見つめ始めた。


さて、こっからが本番ってとこかな……?

これが何者だかわかんねぇし、どこに連れてくつもりか知らねぇけど。俺、負ける勝負はしねぇから。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)  インスタ @yuruyu0   Youtube @BL小説動画 です!  プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです! ヴィル×ノィユのお話です。 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけのお話を更新するかもです。 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

処理中です...