異世界転移した現役No.1ホストは人生設計を変えたくない。

みなみ ゆうき

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本編

49.回復

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やがて空がオレンジ色から群青に変わる頃、それまで身動ぎせずに日が沈むのを見つめていたツバサが大きく息を吐き出した。


「名残惜しいですけど、そろそろお別れの時間ですね……」

「ああ、そうみたいだな」


俺とツバサの身体は周囲の暗さとは反対に徐々に光を帯びながら段々と消えかかっている。


「俺、コウキさんに会えて良かったです」

「俺もツバサと話が出来て良かったよ」

「……魔王との決戦、頑張って下さいね」

「ああ、死なない程度に頑張るさ」


そう言ったところで、俺はスゴく大事な事を聞きそびれていることに気が付いた。

そうだよ!肝心なこと聞いてないじゃん!!


「ちょっと待った!」

「え!?」


既に身体が光に飲み込まれるように半分以上消えかけ、すっかりお別れモードになっていたところで呼び止められたツバサは驚いた顔をしている。


「ツバサ!お前、魔力の回復ってどうしてた? ポーションみたいなもの持ってたりする?」

「え?ポーション?」

「俺、今、魔王決戦に向けてゲームでいうところのMPの回復方法探してるんだ」

「ああ、なるほど。え~と、ポーションは持ってないですけど回復する方法なら……」


光の威力が強くなってきてほとんどその表情が見えないものの、心なしか恥ずかしそうな雰囲気が伝わってくる事から、ツバサが知ってる方法も俺がやってる方法と同じものだと確信した。


「直接魔力をもらう方法なら知ってる!その他の方法っていうか、戦闘中に使える方法!!」


もう声しか聞こえない状況に焦りつつ、一縷の望みをかけて何とかそう言うと。


「あ、それなら!」


何か心当たりがあると確信できるツバサの声がしたことに喜んだ俺は、その情報を聞き逃すまいと必死に耳を澄ませた。


しかし。

その方法を聞く前に無情にもツバサは眩い光となって消え、俺もまた光となって幻の故郷を強制的に後にする羽目になったのだった。



◇◆◇◆



目を覚ますとそこは意識を失う前と同じく、光輝く財宝に囲まれた宝物庫の中だった。

たださっきと違うのは、剣に魔力を食われて倒れたらしい俺を、もう離さないと云わんばかりの密着度でセドリックがしっかりと抱き締めていることだ。

そしてパッと見た感じ、俺とセドリック以外の人間はここにいない。

国王様どこ行った……?


「セド…ケホッ…!ケホッ!」


セドリックの名前を呼ぼうとしたところで魔力だけでなく水分も失われているのか、喉が貼り付く感じがして思い切り咳き込んだ。


「コウキッ!大丈夫か!?」

「セドリック!コウキ殿にこれを!」


どうやら国王様は俺からは死角の位置にいたらしく、突然声が聞こえてきたことに少しだけ驚いてしまう。

その国王様はその辺に置かれていた見るからに高そうな宝石が埋め込まれている金杯を無造作に掴み取ると素早く浄化の魔法をかけ、魔法で作った水を注いでからセドリックへと手渡していた。


宝物庫に置かれてるくらいだから相当高価な代物の筈なのにそんな扱いしていいのかよ……。

なんて思っていたら、セドリックはそれを当然のような顔をして受け取り、おもむろに金杯を呷ったのだ。
そしてすぐに俺に口付け、冷たい水と共に自分の魔力を流し込んでくる。

俺はそれを微妙な気持ちで嚥下した。


何年も使ってないっていうか、むしろ使うものではないからこそずっとここに納められていた金杯をこんな使い方するなんて、色んな意味でスッゲー複雑な気分なんですけど。

お陰で喉は潤ったし、僅かとはいえ魔力ももらえたから結果としては良かったと思うべきか……。

でもまだ自由に身体を動かせるほど回復したわけじゃないしなぁ……。


こう言っちゃなんだけど、やっぱりセドリックが相手だとキスだけじゃ効率が悪い。

すぐにでもツバサが残した箱の中身を確認したい俺としては、もうちょっと手っ取り早い手段での回復を希望したいところだ。

魔力欠乏によるダルさと、後一歩のところで時間切れとなりツバサに肝心な事を確認出来なかった悔しさで、若干他所行きの仮面が外れかかっていた俺は、効率重視の手段を選ぶ事にした。


「……国王陛下。申し訳ありませんが、こちらに宰相様を呼んでいただくことは可能でしょうか……?」


途端に場の空気が凍りつく。

無表情になるセドリックに、何やら動揺を隠せない様子の国王様。

俺はというと、自分の発言がこの空気を作り出したのだということはわかっても、何が悪かったのかということまでは判断付きかねていた。

──もしかして、ここに宰相様を呼ぶのマズかった?
王族と王の承認がある者は入っていいって話だから、宰相様が入れないってことはなさそうだけど。


「コウキ殿。それは何故なにゆえに、と聞いてもよいか?」

「……え?」


俺のこの状態を見ても察しのついていないらしい国王様に驚きつつも、時間の無駄を省くため端的に説明する。


「私が先程倒れた原因は魔力切れです。なのですぐに魔力の譲渡をしていただきたくて」

「それはわかっておる。私が聞きたいのは何故セドリックではなくジェロームなのかということなのだが……」


国王様がチラチラとセドリックの表情を窺っているっぽいのが気にかかる。


もしかしてこれって、セドリックのプライドを傷つけちゃったパターンかな……?
でもこれは純粋に相性の問題で、セドリックよりも宰相様のほうが優秀だとか、信頼してるわけじゃないんだけどなぁ。
さて、どう言おう。


「セドリック様とは身体を深く繋げる行為でないとある程度の魔力の補給は出来ないのですが、宰相様は口移しという手段だけで他の方よりも多くの魔力を補給していただけるので……。
まさかこのような場所でセドリック様との行為に及ぶ訳にもいきませんし、ちょっと急いで確認したいものもありまして」


すると、どうにか納得してくれたらしい国王様はまだ窺うようにセドリックのほうを見ているものの、渋々といった感じで了承の意を示してくれた。



待つこと数分。

おそらく念話の魔法で呼び出しを受けたのであろう宰相様が険しい表情で宝物庫へと入ってきた。

その顔にははっきりとこれ以上手間かけさせんなと書いてある。

それが向けられてるのは俺に対してではなく、国王様ってのがこの二人の陰の力関係を表してるようで興味深い。

……まあ、うっすらわかってたけどさ。


「ジェローム。文句は後で聞く。今は先にコウキ殿に魔力の譲渡を」

「……かしこまりました」



宰相様は軽く目を眇めて俺をしっかりと抱き抱えているセドリックを見てから、俺と視線を合わせてニヤリと笑う。


「コウキさん。これで今回の件は全て精算ってことでよろしいですか?」


どうやらさっきの護衛騎士の処分についてのやり取りで、王太子殿下が今日勝手に俺のところに来た分しかチャラにならなかったことを根に持っていたらしい。

この人に善意を期待しちゃダメだってことがよくわかる。
まあ、俺もタダ働き嫌いだけどさ。

貸しが一個無くなったのは気に食わないが、ツバサと会ってこの世界の秘密を知った今、いざという時に交渉を有利に進めるカードはまだ充分手元にあるから余裕っちゃ余裕なんだけどな。


でもあっさり了承すると色々と勘繰られる可能性がありそうなので、ちょっとだけ考える振りをしてから、俺は切羽詰まってる感じを演出するためにあえて縋るような視線を向けてみた。


「……頼んで来ていただいたのは私なので、仕方ありませんね……。……その条件でお願いします……」

「では交渉成立ですね」


宰相様は俺のすぐ前に跪くと、俺を全く離そうとしないセドリックに生温かい視線を向けてから身を屈め、俺の上に覆い被さるようにして口付けてきた。

そして唇が重なったと思ったら、すぐに舌を絡める濃厚なものへと変えていき、俺の身体に魔力を送り込んでくる。


「ん……ッ……」


これはあくまでも魔力の譲渡だというのに、何故か宰相様の舌はいつもよりも丹念に口腔内をまさぐり、俺の奥底に眠る官能の熾火に火を着けようとしているように感じた。


コイツ。完全に面白がってやがるな……。

若干恨めしい気持ちになりながらも、俺はセドリックに抱き抱えられたままというある意味自由が効かない体勢のまま、うっかり身体がおかしな変化を見せてしまわないよう必死に宰相様から流れてくる魔力を受け取ることに集中した。


国王様とセドリックに見守られながら、まるで見せつけるようにたっぷりと濃厚なキスをしてもらった結果。

何とか起き上がれるまでに回復した俺は、身体を捩って宰相様の唇から逃れると、心なしか剣呑とも思えるような表情で俺を抱き抱えているセドリックにもう大丈夫だということを告げ、さっさと立ち上がった。

その時、微妙に居心地の悪そうな顔をしている国王様と目があったけど気にしなーい。


「ご迷惑をおかけして誠に申し訳ございませんでした。皆様のご助力のお陰でこのとおり回復致しました。本当にありがとうございます」


俺はこの場にいる三人に向かって腰を折って丁寧に礼を言うと、ツバサの残した物を確認するため、もう一度箱へと近付いた。
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