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03.銀世界での拾いモノ
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「……へ?」
頭上から何か大きなものが落ちてきている。
それは徐々に地上へと近づいており、やがて翼を持った巨大な生物であることが分かった。
しかし、翼を持っている割に上手く飛行出来ている様子はなく、もがくようにして動いているが空をかいているだけで、殆ど落下している状態だ。
みるみるうちに私たちの方へと落下してくるそれは、このままだと私たちを押しつぶしてしまう。
「ちょ、ちょっとまって! 潰されちゃう!」
私がそう声を上げた瞬間、その生き物と目が合った。
グギャアと心臓に響く低い鳴き声を上げたその生き物は、片方の翼を思いっきり羽ばたかせ、ぐるりと身を反転させる。落下地点を調整してくれたらしいその生き物は、私たちから数歩先の場所に落下した。
雪をまき散らしながら落ちてきたもの。
それはドラゴンだった。
黒い鱗を持つドラゴンは、落下による衝撃が落ち着くと、私たちの間にあった距離を一気に詰める。
人を丸呑みできそうな大きな口が近づいてきて、私は無意識に息を止めていた。少しでも動けば食われるんじゃないかと、必死に震えそうになる体を抑え込み、ドラゴンの一挙手一投足に気を配る。
ドラゴンは少し私を見つめたかと思うと、フイと視線を逸らし、隣に倒れる男性へと鼻先を押しつけた。
ぐぅ、ぐぅ、と喉を鳴らすような鳴き声は、やたら低音だが何となく甘えているような響きを感じさせる。
「あ、の……、もしかしてその人のことを知っているの?」
ドラゴンに話しかけるなんて正気の沙汰じゃないとは思いつつ、気付けばそう口に出していた。
ドラゴンは私の声に反応して落下地点を調整してくれたみたいだし、今は男性を心配しているように見える。もしかしたら、精霊さんと同じく話の通じる相手なのかもしれない。
どうか話の通じる相手であってくれと願いながら、縦長の瞳孔が特徴的なドラゴンの瞳をじっと見つめる。
しかし、ふと視界に入ったドラゴンの翼を見た瞬間、私は声を荒げてしまった。
「あなた、すごい怪我してるじゃないの!」
ドラゴンは片方の翼を失っていた。
正確に言えば、向かって右側の翼がほぼ半分以上無い。
何かに引っ掛けてちぎれてしまったのだろうか? いや、それにしては血らしいものは流れていない。
まともに飛行できていなかったのはこの翼が原因だろう。こんな状態ではまともに飛べるはずがない。
「血は流れていないけど、痛くはないの?」
「グルゥ」
ドラゴンの言っている言葉は分からないけど、ドラゴンは私の言葉に対して肯定するように頷いた。
確かに痛みを感じているようには見えないが……ドラゴンって翼に感覚がないものなのだろうか。いや、それならそもそも翼を使って飛ぶなんてことも出来ないってことになってしまうからあり得ないか。
ドラゴンの怪我?は早急に手当てをしなければならない類のものではないようなので、ひとまずドラゴンのことは置いておくとして。真っ先に救助が必要なのは気絶している男性の方だ。
私の言葉に肯定したことから、ドラゴンはどうやらこちらの言っていることを理解しているらしい。
ドラゴンは男性の知り合いみたいなので、頼めば男性を運ぶのを手伝ってくれるかもしれない。
「あの、この男の人ここに倒れていて……。このままだと凍死してしまうし、どこか休める所に連れて行こうと思っていたんだけど、あなたどこか場所に心当たりはある?」
私の質問に、ドラゴンは頭上に視線を向け、自分の翼を見、そして首を横に振った。
「そっか……。知っている場所に連れて行った方がこの人も安心して休めるかなと思ったんだけど、それじゃあ仕方ないね。私の家に通じる扉が近くにあるの。そこまで連れていければこの人を休ませてあげることが出来るんだけど、私一人じゃ彼を運べなくて……。あなたが良ければ手を貸してくれない?」
「グルゥ」
私の言葉を聞いたドラゴンは、大きな口で男性の首元の服を器用に咥えると、長い首を曲げて男性を背中に乗せた。男性に大きな振動を与えないようそっと背中に乗せていた姿を見て、このドラゴンは知性があるだけでなく、とても優しい生き物なのだと察した。
そしてドラゴンは私に背を向け、巨体を屈めるようにして地面に伏した。
「……もしかして私にも乗っていいよって言ってくれてる?」
「グルゥ」
肯定の頷きが返ってくる。
私は恐る恐るドラゴンに足を掛け、なんとかよじ登ることに成功した。男性が落ちないよう腕の中に抱え込んだ所でドラゴンに声を掛ける。
「ありがとう。それじゃあこの紐が続いている所へ向かってくれる?」
手首に巻き付けていた命綱を振ってドラゴンに見せれば、心得たと言わんばかりに一つ鳴き声を上げてドラゴンは歩きだす。
背中に乗せている私と男性に気を使っているのか、ドラゴンは駆け足で走り出すことはなく、極力背中に振動を与えないようにしっかりと足を踏みしめて歩いてくれている。お陰でそれほど揺れることはなく、ずり落ちてしまう心配はなさそうだ。
ゆっくり歩いている、とはいえ、ドラゴンの一歩は私の何倍もある。
私の足で片道二十分かかった道のりは、ドラゴンの足だと物の数分だった。
視界に赤い紐で繋がった我が家の扉が見えてほっと息を吐く。
「ありがとう。ここで少し待っていて」
滑り台の要領でドラゴンから降り、扉を開く。扉の先は見慣れた我が家だ。
背後を振り返るとドラゴンがきょとんとしたように目を瞬かせていた。一見すると強面なんだけど、こういう姿はなんとも愛嬌がある。
ドラゴンに手伝ってもらい、男性を咥えた状態で首だけ家の中に入ってもらうことで、なんとか男性を家の中へ運ぶことが出来た。
ドラゴンは巨体過ぎてかろうじて頭部をくぐらせるのが限界だ。
「ごめんね、あなたは体が大きすぎて入れてあげられないんだけど……」
「グルゥア」
ドラゴンはそっと首を引っこ抜くと、裏口のドアの真ん前に腰を下ろした。男性の容体が落ち着くまでここで待つつもりなのかもしれない。
冷気と雪が入ってくるので普段は開けっ放しにはしないのだが、ドラゴンを一人で待たせるのは申し訳ない。今夜くらいはドアを開けたままにしておこう。
「それじゃあ、私は彼を寝かせてくるね」
このままだと部屋まで運べないし、寝苦しいだろうと、私は早速男性の装備品を外しにかかる。四苦八苦しながらなんとか軽装にすることが出来た。
幸い装備品があったお陰で下に着ていた服は濡れていないようなので、雪で濡れた髪と顔の部分だけをタオルで拭う。
本当はお風呂にでも入れた方がいいのだろうが、意識のない男性を入浴させるのは難しい。せめて少しでも温まるようにと冷え切った体を毛布で包み込み、何とか布団の中に寝かせることに成功した。
そもそもの気温が高いこと、そして布団に入れたことが幸いしたのか、小刻みに震えていた体が落ち着き、真っ青だった唇に少し熱が宿り始める。
装備品を脱がせたときに確認してみたが、凍傷を起こしていた様子もなかったので、このまま寝かせていればその内目を覚ましてくれるだろう。
ホッと一息つき、漸く状況が落ち着いた所で、私は改めて男性を観察する。
男性はアッシュがかった少し暗めの金髪をしており、顔の彫りは深い。どう見ても西洋風の顔立ちだ。
しかも、乱れ髪に血の気の引いた顔色というバッドコンディションであっても隠しきれない美貌の持ち主だ。出会った場所があそこでなければ、映画撮影中のハリウッド俳優と勘違いしていたに違いない。
「精霊、ゲームから登場してきたような恰好の男性にドラゴン、か……。んー……、なるほどなぁ……」
裏口が変なところに繋がるという超常現象に見舞われた時点で、あの雪原地帯は地球上に存在しない場所なのではと考えていた。
今日会った人達のことを思い出してみれば疑惑は確信へと変わる。
どうやら我が家は異世界と繋がったらしいです。
頭上から何か大きなものが落ちてきている。
それは徐々に地上へと近づいており、やがて翼を持った巨大な生物であることが分かった。
しかし、翼を持っている割に上手く飛行出来ている様子はなく、もがくようにして動いているが空をかいているだけで、殆ど落下している状態だ。
みるみるうちに私たちの方へと落下してくるそれは、このままだと私たちを押しつぶしてしまう。
「ちょ、ちょっとまって! 潰されちゃう!」
私がそう声を上げた瞬間、その生き物と目が合った。
グギャアと心臓に響く低い鳴き声を上げたその生き物は、片方の翼を思いっきり羽ばたかせ、ぐるりと身を反転させる。落下地点を調整してくれたらしいその生き物は、私たちから数歩先の場所に落下した。
雪をまき散らしながら落ちてきたもの。
それはドラゴンだった。
黒い鱗を持つドラゴンは、落下による衝撃が落ち着くと、私たちの間にあった距離を一気に詰める。
人を丸呑みできそうな大きな口が近づいてきて、私は無意識に息を止めていた。少しでも動けば食われるんじゃないかと、必死に震えそうになる体を抑え込み、ドラゴンの一挙手一投足に気を配る。
ドラゴンは少し私を見つめたかと思うと、フイと視線を逸らし、隣に倒れる男性へと鼻先を押しつけた。
ぐぅ、ぐぅ、と喉を鳴らすような鳴き声は、やたら低音だが何となく甘えているような響きを感じさせる。
「あ、の……、もしかしてその人のことを知っているの?」
ドラゴンに話しかけるなんて正気の沙汰じゃないとは思いつつ、気付けばそう口に出していた。
ドラゴンは私の声に反応して落下地点を調整してくれたみたいだし、今は男性を心配しているように見える。もしかしたら、精霊さんと同じく話の通じる相手なのかもしれない。
どうか話の通じる相手であってくれと願いながら、縦長の瞳孔が特徴的なドラゴンの瞳をじっと見つめる。
しかし、ふと視界に入ったドラゴンの翼を見た瞬間、私は声を荒げてしまった。
「あなた、すごい怪我してるじゃないの!」
ドラゴンは片方の翼を失っていた。
正確に言えば、向かって右側の翼がほぼ半分以上無い。
何かに引っ掛けてちぎれてしまったのだろうか? いや、それにしては血らしいものは流れていない。
まともに飛行できていなかったのはこの翼が原因だろう。こんな状態ではまともに飛べるはずがない。
「血は流れていないけど、痛くはないの?」
「グルゥ」
ドラゴンの言っている言葉は分からないけど、ドラゴンは私の言葉に対して肯定するように頷いた。
確かに痛みを感じているようには見えないが……ドラゴンって翼に感覚がないものなのだろうか。いや、それならそもそも翼を使って飛ぶなんてことも出来ないってことになってしまうからあり得ないか。
ドラゴンの怪我?は早急に手当てをしなければならない類のものではないようなので、ひとまずドラゴンのことは置いておくとして。真っ先に救助が必要なのは気絶している男性の方だ。
私の言葉に肯定したことから、ドラゴンはどうやらこちらの言っていることを理解しているらしい。
ドラゴンは男性の知り合いみたいなので、頼めば男性を運ぶのを手伝ってくれるかもしれない。
「あの、この男の人ここに倒れていて……。このままだと凍死してしまうし、どこか休める所に連れて行こうと思っていたんだけど、あなたどこか場所に心当たりはある?」
私の質問に、ドラゴンは頭上に視線を向け、自分の翼を見、そして首を横に振った。
「そっか……。知っている場所に連れて行った方がこの人も安心して休めるかなと思ったんだけど、それじゃあ仕方ないね。私の家に通じる扉が近くにあるの。そこまで連れていければこの人を休ませてあげることが出来るんだけど、私一人じゃ彼を運べなくて……。あなたが良ければ手を貸してくれない?」
「グルゥ」
私の言葉を聞いたドラゴンは、大きな口で男性の首元の服を器用に咥えると、長い首を曲げて男性を背中に乗せた。男性に大きな振動を与えないようそっと背中に乗せていた姿を見て、このドラゴンは知性があるだけでなく、とても優しい生き物なのだと察した。
そしてドラゴンは私に背を向け、巨体を屈めるようにして地面に伏した。
「……もしかして私にも乗っていいよって言ってくれてる?」
「グルゥ」
肯定の頷きが返ってくる。
私は恐る恐るドラゴンに足を掛け、なんとかよじ登ることに成功した。男性が落ちないよう腕の中に抱え込んだ所でドラゴンに声を掛ける。
「ありがとう。それじゃあこの紐が続いている所へ向かってくれる?」
手首に巻き付けていた命綱を振ってドラゴンに見せれば、心得たと言わんばかりに一つ鳴き声を上げてドラゴンは歩きだす。
背中に乗せている私と男性に気を使っているのか、ドラゴンは駆け足で走り出すことはなく、極力背中に振動を与えないようにしっかりと足を踏みしめて歩いてくれている。お陰でそれほど揺れることはなく、ずり落ちてしまう心配はなさそうだ。
ゆっくり歩いている、とはいえ、ドラゴンの一歩は私の何倍もある。
私の足で片道二十分かかった道のりは、ドラゴンの足だと物の数分だった。
視界に赤い紐で繋がった我が家の扉が見えてほっと息を吐く。
「ありがとう。ここで少し待っていて」
滑り台の要領でドラゴンから降り、扉を開く。扉の先は見慣れた我が家だ。
背後を振り返るとドラゴンがきょとんとしたように目を瞬かせていた。一見すると強面なんだけど、こういう姿はなんとも愛嬌がある。
ドラゴンに手伝ってもらい、男性を咥えた状態で首だけ家の中に入ってもらうことで、なんとか男性を家の中へ運ぶことが出来た。
ドラゴンは巨体過ぎてかろうじて頭部をくぐらせるのが限界だ。
「ごめんね、あなたは体が大きすぎて入れてあげられないんだけど……」
「グルゥア」
ドラゴンはそっと首を引っこ抜くと、裏口のドアの真ん前に腰を下ろした。男性の容体が落ち着くまでここで待つつもりなのかもしれない。
冷気と雪が入ってくるので普段は開けっ放しにはしないのだが、ドラゴンを一人で待たせるのは申し訳ない。今夜くらいはドアを開けたままにしておこう。
「それじゃあ、私は彼を寝かせてくるね」
このままだと部屋まで運べないし、寝苦しいだろうと、私は早速男性の装備品を外しにかかる。四苦八苦しながらなんとか軽装にすることが出来た。
幸い装備品があったお陰で下に着ていた服は濡れていないようなので、雪で濡れた髪と顔の部分だけをタオルで拭う。
本当はお風呂にでも入れた方がいいのだろうが、意識のない男性を入浴させるのは難しい。せめて少しでも温まるようにと冷え切った体を毛布で包み込み、何とか布団の中に寝かせることに成功した。
そもそもの気温が高いこと、そして布団に入れたことが幸いしたのか、小刻みに震えていた体が落ち着き、真っ青だった唇に少し熱が宿り始める。
装備品を脱がせたときに確認してみたが、凍傷を起こしていた様子もなかったので、このまま寝かせていればその内目を覚ましてくれるだろう。
ホッと一息つき、漸く状況が落ち着いた所で、私は改めて男性を観察する。
男性はアッシュがかった少し暗めの金髪をしており、顔の彫りは深い。どう見ても西洋風の顔立ちだ。
しかも、乱れ髪に血の気の引いた顔色というバッドコンディションであっても隠しきれない美貌の持ち主だ。出会った場所があそこでなければ、映画撮影中のハリウッド俳優と勘違いしていたに違いない。
「精霊、ゲームから登場してきたような恰好の男性にドラゴン、か……。んー……、なるほどなぁ……」
裏口が変なところに繋がるという超常現象に見舞われた時点で、あの雪原地帯は地球上に存在しない場所なのではと考えていた。
今日会った人達のことを思い出してみれば疑惑は確信へと変わる。
どうやら我が家は異世界と繋がったらしいです。
応援ありがとうございます!
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