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05.眠り姫の目覚め
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「……まだ寝てるなぁ」
あの雪の中にいたのだから風邪でも引かないか心配で何度か様子を見に行ったが、マティアスさんは全く起きる気配がなく、静かに爆睡していた。
昨日は私も遅い時間まで起きていたが、マティアスさんが目覚める様子は一切なく。
結局仮眠を取って、現在の時刻は朝六時。
寸分たがわぬ私の体内時計は今日もばっちり機能しており、目覚ましがなくともいつもの時間に起床してしまった。
起きて早々簡単に身支度を終えた私はすぐにマティアスさんの様子を見に行ったが、殆ど昨日と同じ体勢で眠ったままだった。
かれこれ12時間以上は寝ていることになるんだけど、本当に大丈夫だろうか。眠っているように見えて何か体に異常が起きているんじゃないかと心配になる。
「ヴァイスハイト、おはよう」
「クキャア」
眠っていなかったのか、扉を開く音で起きてしまったのか、枕元にいたヴァイスハイトがトットットと軽い足音を鳴らしながら近づいてきた。挨拶を交わしながら鼻先を撫でると控えめな鳴き声が返ってくる。
小型化の影響なのか、声が高くなっている。元の姿だといかにも強者!最強!って感じだったけど、今は思わず愛でたくなる愛らしさが前面に出ている気がする。
今まではどちらかというともふもふした動物が好きで、爬虫類系は特別好きって訳でもなかったんだけど、これを機に鞍替えしてしまいそうだ。
「……ねぇ、ヴァイスハイト。マティアスさん大丈夫かな? ずっと眠ってるままで心配になってきたんだけど……」
「クキャウ、カゥ」
私の質問にヴァイスハイトは元気いっぱいにぴょんぴょんと飛び跳ねて何かをアピールする。
元気いっぱい……、え、マティアスさんも元気だよってアピールだったりする?
んー、大丈夫ってことだと捉えていいのかな。少々の不安を残しつつそう納得しようとした時、ふとヴァイスハイトの翼に目がいった。
「あれ? 翼が……伸びてる?」
最初に見た時は片方の翼が半分以上無くなっていたはずなのに、今では殆ど左右同じ大きさになっている。
小型化したから怪我が治ったってはずもない。昨日の時点では小型化した後も、ヴァイスハイトの片翼は無いままだった。
マティアスさんに聞いたら何か分かるだろうか。
でもぐっすり眠ってるし、起こすもの忍びないしなぁ。
そう考えていると、ヴァイスハイトはクルリと身を反転させて、タタタっとマティアスさんの元へ向かう。そしてべろり、と細く長い舌でマティアスさんの頬を舐めた。
「ん、んん……、ヴァイス……?」
気だるげな声を上げ、マティアスさんの腕が持ち上がる。起床を促すヴァイスハイトの頭を宥めるように撫でながら、ゆっくりと目を開き――
「っ⁉」
ものすごい勢いで飛び起きた。
一体どんな腹筋してるんだ。私は絶対にあんなに勢いよく上半身を起こすことは出来ない。
「えっ、あ……、い、いつからそこに……?」
「つい先ほどですよ。寝ている所をすみませんでした。昨日も何度か様子を見に来ていたんですが、ずっと眠ったようだったので、少し心配になってしまって……」
「何度も様子を見に来ていた……? え、き、昨日?」
「はい、マティアスさん昨日のこと覚えていますか? ヴァイスハイトと会った後、もう一度布団に入ったらすぐに眠ってしまって。かれこれ12時間以上眠っていたんですよ」
「…………」
絶句。
マティアスさんは何かに衝撃を受けたのか、唖然としている。
12時間以上眠っていたというのがショックだったのだろうか。確かに想像以上に寝てしまっていた時って、なんか損したような気分になったりするよね。
うんうんと頷いていると、ふと静かな室内にぐぅぅという低音が響いた。
一瞬ヴァイスハイトの鳴き声かと思ったけど、今のヴァイスハイトは高音バージョンだ。こんなに低い音は出せないだろう。
ふとマティアスさんを見ると、項垂れるようにして片手で額を抑えている。そして、もう片方の手は腹部を抑えていた。
……そうですよね、お腹、すきましたよね。
「朝食の用意をするので良ければ食べて行ってください」
「あ、いや、そこまでお世話になるわけには……」
「私はここに一人で住んでいるので、誰かと朝食を食べることもないんです。良ければ一緒に食べてもらえませんか?」
「…………はぃ」
マティアスさんはコクリと頷いた。申し訳なさそうな表情を浮かべ、耳が真っ赤に染まっている。お腹が鳴ったことがそんなに恥ずかしかったんだろうか。
朝食が出来上がるまでに少し時間がかかるので、その間マティアスさんにはお風呂に入ってもらうことにした。
浴室に案内すると、マティアスさんは祖父自慢の檜風呂に感嘆の声を上げた。
知っているかどうか不安だったので一応シャワーの使い方を説明する。
「この家には見たことのない魔道具が多いみたいですが、まさかシャワーまであるとは。シャワーは王家や貴族が使うような高級魔道具のはずですが……」
大体の一般家庭にはあるはずのシャワーがまさかの高級品扱い。
そしてそれより気になったのが『魔道具』という言葉だ。言葉の通り魔法で動くものだったりするんだろうか。
興味がそそられて魔道具のことについて詳しく教えてもらおうとしたが、その瞬間、浴室に響いた唸り声。先ほどぶりですね。
再度項垂れてしまったマティアスさんにシャンプーやらボディソープやらの説明を終え、私は急いでキッチンへ向かった。
気分は腹をすかせた子供を待たせる親のそれである。
色々聞きたいことはあるけど、とりあえず今は泣いているマティアスさんのお腹を宥めることに専念しよう。
あの雪の中にいたのだから風邪でも引かないか心配で何度か様子を見に行ったが、マティアスさんは全く起きる気配がなく、静かに爆睡していた。
昨日は私も遅い時間まで起きていたが、マティアスさんが目覚める様子は一切なく。
結局仮眠を取って、現在の時刻は朝六時。
寸分たがわぬ私の体内時計は今日もばっちり機能しており、目覚ましがなくともいつもの時間に起床してしまった。
起きて早々簡単に身支度を終えた私はすぐにマティアスさんの様子を見に行ったが、殆ど昨日と同じ体勢で眠ったままだった。
かれこれ12時間以上は寝ていることになるんだけど、本当に大丈夫だろうか。眠っているように見えて何か体に異常が起きているんじゃないかと心配になる。
「ヴァイスハイト、おはよう」
「クキャア」
眠っていなかったのか、扉を開く音で起きてしまったのか、枕元にいたヴァイスハイトがトットットと軽い足音を鳴らしながら近づいてきた。挨拶を交わしながら鼻先を撫でると控えめな鳴き声が返ってくる。
小型化の影響なのか、声が高くなっている。元の姿だといかにも強者!最強!って感じだったけど、今は思わず愛でたくなる愛らしさが前面に出ている気がする。
今まではどちらかというともふもふした動物が好きで、爬虫類系は特別好きって訳でもなかったんだけど、これを機に鞍替えしてしまいそうだ。
「……ねぇ、ヴァイスハイト。マティアスさん大丈夫かな? ずっと眠ってるままで心配になってきたんだけど……」
「クキャウ、カゥ」
私の質問にヴァイスハイトは元気いっぱいにぴょんぴょんと飛び跳ねて何かをアピールする。
元気いっぱい……、え、マティアスさんも元気だよってアピールだったりする?
んー、大丈夫ってことだと捉えていいのかな。少々の不安を残しつつそう納得しようとした時、ふとヴァイスハイトの翼に目がいった。
「あれ? 翼が……伸びてる?」
最初に見た時は片方の翼が半分以上無くなっていたはずなのに、今では殆ど左右同じ大きさになっている。
小型化したから怪我が治ったってはずもない。昨日の時点では小型化した後も、ヴァイスハイトの片翼は無いままだった。
マティアスさんに聞いたら何か分かるだろうか。
でもぐっすり眠ってるし、起こすもの忍びないしなぁ。
そう考えていると、ヴァイスハイトはクルリと身を反転させて、タタタっとマティアスさんの元へ向かう。そしてべろり、と細く長い舌でマティアスさんの頬を舐めた。
「ん、んん……、ヴァイス……?」
気だるげな声を上げ、マティアスさんの腕が持ち上がる。起床を促すヴァイスハイトの頭を宥めるように撫でながら、ゆっくりと目を開き――
「っ⁉」
ものすごい勢いで飛び起きた。
一体どんな腹筋してるんだ。私は絶対にあんなに勢いよく上半身を起こすことは出来ない。
「えっ、あ……、い、いつからそこに……?」
「つい先ほどですよ。寝ている所をすみませんでした。昨日も何度か様子を見に来ていたんですが、ずっと眠ったようだったので、少し心配になってしまって……」
「何度も様子を見に来ていた……? え、き、昨日?」
「はい、マティアスさん昨日のこと覚えていますか? ヴァイスハイトと会った後、もう一度布団に入ったらすぐに眠ってしまって。かれこれ12時間以上眠っていたんですよ」
「…………」
絶句。
マティアスさんは何かに衝撃を受けたのか、唖然としている。
12時間以上眠っていたというのがショックだったのだろうか。確かに想像以上に寝てしまっていた時って、なんか損したような気分になったりするよね。
うんうんと頷いていると、ふと静かな室内にぐぅぅという低音が響いた。
一瞬ヴァイスハイトの鳴き声かと思ったけど、今のヴァイスハイトは高音バージョンだ。こんなに低い音は出せないだろう。
ふとマティアスさんを見ると、項垂れるようにして片手で額を抑えている。そして、もう片方の手は腹部を抑えていた。
……そうですよね、お腹、すきましたよね。
「朝食の用意をするので良ければ食べて行ってください」
「あ、いや、そこまでお世話になるわけには……」
「私はここに一人で住んでいるので、誰かと朝食を食べることもないんです。良ければ一緒に食べてもらえませんか?」
「…………はぃ」
マティアスさんはコクリと頷いた。申し訳なさそうな表情を浮かべ、耳が真っ赤に染まっている。お腹が鳴ったことがそんなに恥ずかしかったんだろうか。
朝食が出来上がるまでに少し時間がかかるので、その間マティアスさんにはお風呂に入ってもらうことにした。
浴室に案内すると、マティアスさんは祖父自慢の檜風呂に感嘆の声を上げた。
知っているかどうか不安だったので一応シャワーの使い方を説明する。
「この家には見たことのない魔道具が多いみたいですが、まさかシャワーまであるとは。シャワーは王家や貴族が使うような高級魔道具のはずですが……」
大体の一般家庭にはあるはずのシャワーがまさかの高級品扱い。
そしてそれより気になったのが『魔道具』という言葉だ。言葉の通り魔法で動くものだったりするんだろうか。
興味がそそられて魔道具のことについて詳しく教えてもらおうとしたが、その瞬間、浴室に響いた唸り声。先ほどぶりですね。
再度項垂れてしまったマティアスさんにシャンプーやらボディソープやらの説明を終え、私は急いでキッチンへ向かった。
気分は腹をすかせた子供を待たせる親のそれである。
色々聞きたいことはあるけど、とりあえず今は泣いているマティアスさんのお腹を宥めることに専念しよう。
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