どうやら我が家は異世界と繋がったらしい

持原 奏真

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21.かまくら作り

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 どうやら精霊さんはかまくらというものを知らなかったようなので、パソコンで画像を見せてみれば、キラキラとした輝かしい笑顔を浮かべた。「これ作るの? 楽しそう!」という声が聞こえてきそうだ。

 俄然乗り気である。

 ちなみに何故かまくらを作ろうなどと言い出したかというと、≪精霊の落とし穴≫に避難するにしても、あそこは寒いを通り越して極寒なので、長時間滞在できる環境ではない。せめて雪や風がしのげるようなものを作れば、いい感じに涼めるんじゃないかと考えた結果、考え付いたのがかまくらだった。

「あ、かまくら作りの前に」

 私は今にも裏口に向かって飛んでいきそうな精霊さんをちょいちょいと呼ぶ。近づいてきた精霊さんに後ろを向いてもらい、風に揺れる精霊さんの長い髪を結ってあげた。

 精霊さんの髪の毛は、精霊さんの体と同じくらいの長さがあるから、前から邪魔じゃないのかなと思ってたんだよね。

 光の加減で七色に輝いて見える不思議な髪の毛を、後頭部の高い位置で一つにまとめる。小さな精霊さん相手だと凝った髪型にはしてあげられないのが残念だ。
 ゴムで留めた結び目にピンク色のリボンを巻いてあげれば、精霊さんポニーテールバージョンの完成だ。

「精霊さん、ポニーテール似合うね」

 精霊さんに鏡を見せてあげれば、彼女は嬉しそうな声を上げた。
 そして、自分と私を指さして見せる。

「あ、そうだね。私もポニーテールだからお揃いだ」

 私の場合、手櫛で梳いて雑に縛っただけだし、今日はニット帽をかぶっているので首元で緩く結んでいるだけだけど、形状的には精霊さんとお揃いだ。私も精霊さんのように髪が長く、今は背中の中間辺りまで伸びている。

 ちなみに私の髪が長い理由は、近所に美容室がないから。ただそれだけだ。女性らしさの欠片もない理由で大変申し訳ない。一応ケアはしているので許してもらいたい。

 そういえば、マティアスさんの髪の毛は綺麗だったよなぁ。男性だし、何となくマティアスさんはまめまめしくケアするようなタイプの人ではなさそうなので、あれは彼自身が持つ素質なのか。大変羨ましい限りである。

 精霊さんは余程ポニーテールが気に入ったのか、にこにこと笑いながら何度も鏡を覗き込む。全身で喜びを表現しようとしているのか、くるくると回ってダンスのようなものを踊っていた。

 回転する精霊さんの後を追いかけるように、ポニーテールが靡く。……自分の尻尾を追い掛け回す犬に見えたのは多分気のせいだ。気のせいに違いない。

「よし、それじゃあ早速かまくら作りに行こうか!」

 私の声掛けにより漸く鏡から離れた精霊さんを連れ、私たちは徒歩0分の≪精霊の落とし穴≫へと向かった。



 かまくら作りの第一歩は、まず雪山を作る所から始まるのだが、この過程はほぼ終わっていると言っても過言ではない。

 以前、ヴァイスハイトに桃をあげた時のことを覚えているだろうか。

 ヴァイスハイトは初めて食べる桃に興奮したのか、この雪原地帯の中で嬉しそうに尻尾を大振りし、その時に裏口付近は彼の尻尾によって一気に雪かきされたような状態になった。

 その時の名残が残っており、裏口付近には既に雪の小山が出来ているのだ。これを元にかまくらを作れば大人2~3人は入れるくらいの大きさのものが出来るだろう。

 本日の≪精霊の落とし穴≫の天候は、曇り時々雪。風も落ち着いているので、作業するにはもってこいだ。

「お、よかった。いい感じに固まってるね」

 かまくらを作ろうと思い立った昨日の時点で、私は下準備として、小山をスコップで叩き、周りに水をかけておいた。一晩置いたお陰で、雪の小山はしっかりと固まっている。

 私は持っていた木の棒を雪山に刺していった。この木の棒は壁の厚みを統一させるためのものだ。印がないと、内側を掘る時にどこまで掘り進めていいかわからなくなってしまうからね。

 棒を刺し終わった所で、今度は入口となる部分にシャベルで印をつけ、山が崩れないように削っていく。

 精霊さんにはスプーンを渡し、外側の雪をぺしぺしと叩いて整える係をやってもらうことにした。

 精霊さんをかまくら作りに誘ったのは、単純に一緒に楽しみながら作りたかっただけなので、正直労力としてカウントしていない。両手でスプーンを持って楽しそうに雪を叩いている精霊さんの姿が見られただけで、精霊さんを誘った甲斐があったというものだ。

 ……と思っていた時期が私にもありました。



 粗方入口の雪を掘った所で、入り口付近に集まった雪を退かそうとした時のこと。バケツに入れて外に出そうかなと考えていると、精霊さんが雪を指さし、外を指さす。

「あ、うん。この雪は今から外に退かすんだよ」
「リリリ!」

 ポンと自分の胸を叩いた精霊さんは、私の背中を押して雪山から離れさせる。一体どうしたんだろうかと精霊さんのことを見守っていると、精霊さんが緑色に光りだした。

 突然発光し始めた精霊さんを唖然としながら見守っていると、局地的な突風が発生し、退かすつもりだった雪が風によって遠くへ運ばれていった。

「……精霊さん、まさか魔法使えたの?」
「リ? リリリリリ!」

 え、当たり前じゃん!と言われた気がした。

 ……そうだよね、精霊さんだもんね。魔法、使えるよね。≪地上≫と≪精霊の落とし穴≫を繋ぐ穴を作り、そこに制限まで設けることが出来るのだから、不思議な力が使えるのは知っていたけど、こう目に見えて分かりやすい如何にも魔法です!って感じのものも使えるとは知らなかった。

 結局、掘り出した雪は全て精霊さんの魔法によって外に出してもらった。労力としてカウントしていないとか言って、本当にごめんね。精霊さんは癒しであると同時に、とっても有能な方でした。

 精霊さんと共同作業の末、予定よりも早くかまくらは完成した。中は結構広さを持たせたので、私と精霊さんくらいなら余裕で入れる。

 完成したかまくらを見上げて満足げに微笑む私の隣で、精霊さんも私と同じように両腕を組んでうんうんと頷いていた。一仕事終えたぜ!と言わんばかりに額を拭っているけど、精霊さん汗かくような動きはしてないよね。というか、精霊さんは寒さも暑さも感じないようだし、多分汗とかもかかない体質だと思うんだけど。……満足そうなのは間違いないので、そんな野暮なツッコミはしないでおこう。

「精霊さん、中に入ってちょっと待っててね」

 私は裏口から家に戻り、準備していたものを取って、再び雪の中へ戻る。

 かまくらの中でごそごそしだした私を、精霊さんは不思議そうに見ている。

「かまくらの中で晩酌って一度はやってみたかったんだよねぇー!」

 今はお昼過ぎなので晩酌ではないし、そもそも昼からお酒ってどうなの?って感じだけど、今日くらいは許してほしい。私は毎日お酒を飲むタイプの人間ではないけど、お酒は好きだし、ついでに言うとザルを超えたワクだ。どれだけ度数の高い酒を飲んでも、酔わないし、二日酔いになったこともない。祖母もワクだったので多分遺伝だ。

 いくら飲んでも酔わないのでお酒の消費量には気を付けているんだけど、今日くらいは気にせず飲んじゃおう。かまくらの中でお酒を飲む機会なんて滅多にないんだし。

 私は七輪を設置し、その上にアルミホイルを二つ置いた。一つは、めんつゆと塩コショウで下味をつけたえのきの上にチーズをのせたもの。もう一つは、味噌とみりんで和えたイカだ。どちらもホイル焼きにして頂くつもりだ。完全に酒のつまみである。

「リリ?」
「あ、精霊さんの分はちゃんと別に用意してあるんだよ」

 七輪の隣にカセットコンロを設置し、その上に小さな鍋を置く。鍋の中はチョコレートと牛乳だ。

「精霊さんはおつまみ系より甘い物が好きだからね。今日のおやつはチョコレートフォンデュだよ」
「リ、リリリリ!」
「マシュマロやフルーツに溶けたチョコレートをつけて食べるんだよ」

 マシュマロやフルーツは四分の一にカットしているので、精霊さんでも食べられるサイズだ。鍋の縁に当たらないように気を付ける必要があるけど、これなら精霊さん一人でも食べることが出来る。
 マシュマロなどが入った入れ物を精霊さんの傍に置き、つまようじを渡してあげると、キラキラとした眼でチョコレートと私を見つめる。

「チョコレートはもう少し溶かしてからじゃないとダメだから、ちょっと待とうね」
「リリ!」

 良い子の返事を返した精霊さんは、それから暫くじっと鍋を見続けた。チョコレートが溶け、艶が出始めた所で私がオッケーを出せば、飛び掛からんばかりにマシュマロが刺さったつまようじを手に鍋へ特攻した。羽を使って上手に鍋の上で浮遊を続け、マシュマロをチョコレートに浸す。ふぅふぅと息を吹きかけてからパクリと食べた瞬間、精霊さんの顔がチョコレートのように甘く溶けた。

「リリリリ! リリリリ!」
「あはは、気に入ってもらえてよかった。今日は暫くここでゆっくりするつもりだから、精霊さんもあせらず食べていいからね」
「リリー!」

 そうこうしている間に、ホイル焼きの方も完成しており、アルミホイルを開けるとトロリとしたチーズが顔を出す。イカの方もいい感じに火が入っていて、漂う味噌の香りだけで酒が飲めそうだ。

「ふ、はふ、あち……、ゴク…………、はぁ、おいしぃ……」

 溶けたチーズで舌を火傷しそうになるも、煽った日本酒が口の中を冷まし、同時にずっしりとした旨味が体中に染みわたる。この日本酒は、桃の件でお世話になった鈴木のおじいちゃんから「度数が高くて、自分では飲めないから」と頂いたものなんだけど、すごく美味しい。銘柄には詳しくないのでこの日本酒は知らなかったんだけど、もしかして結構お高い奴なのかもしれない。


 温かいつまみと美味しいお酒を片手に過ごすかまくらでの一日は、控えめに言っても最高で、非常に満足のいくものだった。突発的な計画だったけど、頑張ってかまくらを作ってよかった。


 ちなみにこの日以降、すっかりかまくらが気に入った精霊さんから度々かまくらデートに誘われるようになるのだが、それはまた別のお話。
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