どうやら我が家は異世界と繋がったらしい

持原 奏真

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24.料理人ブルーノ

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 竜騎士団の本部にはドラゴンを着陸させるための場所が確保されており、私達はそこに到着した。

 着地地点に隣接している大きな建物が竜騎士団の本部らしい。黒い木製の柱や梁が一部外側へ露出しており、壁の隙間は石……というか煉瓦で埋められている。半木骨造、所謂ハーフティンバー様式で建てられた本部は、アーチ形の窓枠や、外壁を彩る白と黒のコントラストがとてもオシャレだ。
 所々に青色の旗が飾られており、マティアスさんが着ているマントと同じマークが刺繍されている。恐らくあれは竜騎士団のシンボルマークなのだろう。

 建物だけ見るとヨーロッパ感マシマシって感じで海外旅行にでも来た気分になるけど、建物の規模が大きすぎるし、何より上空をドラゴンが飛んでいるので、「あ、やっぱりここ異世界だわ」と再認識。

「それでは参りましょう」

 完全おのぼりさん状態できょろきょろしていた私を静かに待ってくれていたマティアスさんは、私が落ち着いたのを見計らって声をかける。……すみません、お待たせしました。

「……ここからは人に会う可能性があるので……」

 シィ、と人差し指を口に当てたマティアスさんに、了解ですと力強く頷く。ここから私は言葉が話せない精霊さんの振りをしなくてはならないので、間違って声を出さないように気を付けなくては。

 今の私の服装は、家にあったロングワンピース姿だ。着古されたものじゃなく、ちゃんと外出用のやつだよ! 仕事のイベントでも来たことがある、私が持っている服の中じゃかなりお高い上等なやつだよ!
 色は明るく澄んだ空のような青色なんだけど、竜騎士団のシンボルマークが刺繍されている旗と色が被ってしまった。建物の至る所に青色を見かけるので、もしかすると竜騎士団のシンボルカラーは青なのかもしれない。そういえば、このワンピースを着て見せた時、マティアスさんちょっと嬉しそうだったような気がする。

 一歩先を歩くマティアスさんに付いていくと、鎧姿の騎士たちとすれ違った。

「ガウェイン隊長! お疲れ様です! ……て、え?……あ、あのガウェイン隊長、そちらの方は……?」

 はきはきとした声でマティアスさんに挨拶をした竜騎士さんは、私の姿に気付くと驚いたように双眸を見開く。そんなに目を見開くと目が乾くんじゃないかな、などとくだらない事を考えつつ、凝視されている現状にタラリと冷や汗をかく。

 マティアスさん! めっちゃ怪しまれてるみたいなんですけど、本当に大丈夫ですかねぇ!

「この方は俺がお世話になっている精霊様だ」
「……あぁ! やはり精霊様だったのですね! 大変失礼いたしました」
(……ええぇぇ……そんな簡単に納得しちゃって大丈夫……?)

 疑われても困るけど、簡単に精霊だと納得されるのもなんだか腑に落ちない。やはりって何なんだ、やはりって。……が、今の私は何もしゃべることが出来ないので、とりあえず竜騎士さんにはにっこり笑って濁しておいた。


 その後、食堂に辿り着くまでにすれ違った竜騎士さん達は皆同じ反応を見せ、そのたびに私は焦って内心冷や汗をかき、マティアスさんが「この方は精霊様だ」と紹介する。マティスさん、スゴイわ。清廉潔白ですって真面目な顔して、堂々と嘘ついてやがるぜぇ……。

 それにしてもマティアスさん、ここに来てからなんかいつもと雰囲気が違う気がする。話し方もぶっきら棒というか、感情に左右されない一本調子な声色というか。表情も殆ど動いていないし。
 お腹鳴って恥ずかしそうに赤面していたり、会話の合間に優しく微笑んだり、「歓迎しますよ、“精霊さん”」と言った時のちょっと悪戯な笑顔を見せたマティアスさんは一体何処へ消えたんだろうか。

 マティアスさんって口数はそんなに多くないけど、代わりに表情や目が割と感情豊かな人だと思っていたんだけど……。仕事中とプライベートでは結構性格が変わるタイプ?

 マティアスさんの新たな一面を垣間見つつ、私とマティアスさんは目的地である竜騎士団本部の食堂に辿り着いた。

 大きな両開きの扉を開くと、広い食堂内では数名の竜騎士さんが食事を取っている所だった。お昼時だと座る席を確保するのが大変なくらい混雑するらしい。多分マティアスさんは、少しでも私が人目に付かないようにと、あえて混雑する時間帯を避けたんだと思う。

 マティアスさんはそのまま裏口っぽい所へ向かっていき、コンコンとドアをノックする。

「ブルーノ。連れてきたぞ」

 マティアスさんがそういうのが早いか、扉が開いたのが早いか。
 声かけとほぼ同時に勢いよく扉が開き、そこにはがっしりとした体型の男性が立っていた。年の頃は三十代にも四十代にも見え、短く整えられた髪や、綺麗に剃った髭は清潔感がある。
 この人が、マティアスさんに土下座してカレー考案者を連れてきてくれと懇願した例の料理人なのか。外見で判断するなら、料理人というより騎士っぽく見える。

「隊長、待ってたぜ! ……お、おぉ! こ、こちらの方が……⁉」
「カレーの考案者であり、あのレシピを書いてくださった精霊様だ」

 マティアスさんがそう言った瞬間、私の頭の中で試合開始のゴングが鳴り響いた。

『開始と同時にブルーノ選手、そのまま頭突き攻撃を繰り出さんばかりの勢いで私に飛びかかるー!おーっと、だがマティアス選手がそれを鮮やかなアイアンクローで阻止ー!しかし、頭を止められたブルーノ選手、まだ諦めていない!いや、ただ勢いが殺しきれなかっただけなのかー⁉︎今度は私の両肩に掴みかかろうと腕を上げたー!……が、マティアス選手の絶対的防御力の前ではあまりにも無力!マティアス選手、即座に私達の間に割って入り、ブルーノ選手の両腕を拘束!完全に動きを封じられたブルーノ選手、戦意喪失ー!カンカンカン!ここで、試合終了ー!』

 突然目の前で始まった攻防戦に、私は無意識の内に脳内実況をしていた。

 もちろんブルーノさんに私への攻撃意思があった訳じゃないし、二人が試合をしていた訳でもない。驚きのあまり、つい訳の分からない実況をしてしまったのだ。ちなみにこの一連の流れは、私が瞬きをする間に始まり、そして終わった。……この世界の人は素早さがカンストしているのかな?

「不必要に近づくな。触るな」
「……お、おぅ……」

  ≪精霊の落とし穴≫にいるかのような寒気を感じさせる声色に、ブルーノさんは顔を青くしながらそっと両腕を下ろした。一歩後ずさったのは、近づくなと言われたからなのか、マティアスさんが怖かったからなのかは分からない。

「ブルーノがどうしてもというから連れて来たんだ。失礼のないように」
「わ、わかった、わかった。……え、えぇと精霊様、ほ、本日はお日柄もよく……」

 ブルーノさん。マティアスさんが言いたかったのはそういうことじゃないと思うよ。

 余程マティアスさんが怖かったのか、結婚式のスピーチみたいなことを言い出したブルーノさんに内心でツッコミを入れていると、マティアスさんは自分主導で話した方が早いと思ったのか、早速本題に入る。

「それでブルーノ。すぐにカレーの調理に入れるか? 料理過程と味を見てもらいたかったんだろう?」
「あ、はっ! そうだ! 俺は今からでも問題ないぜ」
「分かった。それでは始めよう。精霊様、よろしくお願いします」
「よ、よろしくお願いします!」

 風を切る勢いで頭を下げたブルーノさんに、私はとりあえず微笑みを返しておいた。





 食堂の厨房は掃除がキチンとされている綺麗なキッチンだった。夕食の下ごしらえをしているのか、作業をしていた料理人が私とマティアスさんを見て驚き、ブルーノさんを見て納得したような表情を見せる。多分、今日私が来ると言うことは知っていたんだろう。……じろじろと観察するような視線は、気にしないようにしよう。

 ブルーノさんは私が見ていることに緊張しているのか、最初は手が小刻みに震えていたが、次第に視線にも慣れてきたのか、動きのぎこちなさが取れていった。

 ブルーノさんは食堂の料理長らしく、作業に無駄がない。流石はプロって感じだ。そのプロの料理人相手に、ド素人な私が合否判定を下すなんて烏滸がまし過ぎるんだけど……。そもそも、カレーって私が考案したものじゃないし……。でも、異世界の存在を明かす訳にはいかないし、そういうことにしておくしかないんだよなぁ……。

 遠い目をしながらそんなことを考えている内に、ブルーノさんは素早い作業でさっさとカレーを作っていく。火の調整も問題ないし、玉ねぎの飴色加減もばっちり。
 元々心配していなかったけど、全ての工程を問題なくこなしていったブルーノさんは、アッと言う間にカレーを完成させた。



「お、お待たせしました」

 ホカホカと白い湯気が立つカレーを前に、私はスプーンを持つ。ゴクリと正面に座るブルーノさんから生唾を呑む音が聞こえた。……そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。絶対美味しいから、これ。

 パクリと口に含んだ瞬間、鼻に抜けるスパイスの風味。絶妙な辛さのスパイシーさは、食欲を駆り立てる。

 うん、美味しいわ。私が作ったものよりちょっと辛さが増してる気がするけど、私は元々ミズガルド人がどれくらいの辛さなら大丈夫なのかボーダーラインが分からず、あえて辛さ控えめで作ったのだ。試作品を食べた竜騎士たちからは絶賛されたって話だったし、ミズガルド人はこれくらいの辛さなら全然オッケーってことね。勉強になりました。

「ど、どうっすかね……?」

 不安そうに聞いてきたブルーノさんに、私は満面の笑みを浮かべてサムズアップ。この動作は「オッケー」とか「グッド!」という肯定的な意味合いで、精霊さんがよく使う仕草だ。今の私は精霊と言うことになっているので、参考にすべきは彼女である。

「お、おぉ……、よ、よかった……」

 ブルーノさんはぐたりと全身の力を抜いて椅子に深く腰掛ける。

 私は隣に座っているマティアスさんに新しいスプーンを手渡す。カレーの入った器を二人の間に置き、マティアスさんにニコニコと笑って見せる。

「え? わ、私も食べろと……?」

 コクンと頷いて返す。
 以前も思ったことだけど、これは食料不足なこの世界の食材を使っているので、私は極力食べるべきではない。ただ、全部渡してしまうと折角作ってくれたブルーノさんに申し訳ないし、美味しくなかったと誤解させてしまうかもしれないので、間を取って「一緒に食べましょう!」ってことだ。

 マティアスさんが困惑しているのが分かるが、今の私は喋れないのでニコニコ笑顔を浮かべるだけ。結局私の笑顔攻撃に負けたマティアスさんは、少々気恥ずかしそうにしながら、私と同じ皿でカレーを食べ始めた。

 その光景を正面に座っていたブルーノさんや、厨房にいた料理人たちが驚愕の眼差しで見ていたことなど露知らず。私はブルーノさんが作ったカレーをゆっくりと味わった。
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