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第1部
オレの家、帰ろう
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ユニフォームの上にジャージの上着だけを羽織ると沢海は宮原の左腕を引き、部室を出て行く。
部室を出ると校舎に向かうの通路を通り、沢海に左腕を引っ張られ続け、宮原は半ば引き摺られるように歩いていた。
宮原は何度も足がもつれてしまいバランスを崩すが、沢海は構わずに歩き続ける。
怪我をしている右腕ではなく、左腕を掴まれてはいるが、その分身体の重心が左膝に掛かってしまい、宮原は何度も顔を顰めてしまう。
「ーーー先輩……
…沢海、先輩……
ーーーいた、ぃ……痛いよ」
部室を出てから一切話そうとしない沢海の態度に、最初は不遜な態度に出ていた宮原も、自分の言動を落ち着いてに振り返る事が出来ると、段々と居た堪れない気持ちになっていく。
沢海との形の見えない大切な繋がりでさえも壊れてしまいそうで、宮原は混乱した。
自分の気持ちだけを執拗に守ってしまい、硬質した自分の感情を抑え切れずに沢海を傷付けた。
自分自身に否定された心を擁護する為に沢海の存在を利用してしまった。
「…沢海先輩…
ーーー左膝、左膝が痛、い……
痛い…」
左膝の患部が炎症で熱を発し、疼くような鈍い痛みが増してきたが、それ以上に自分の卑しい醜態を晒してしまい、沢海が自分に対して辟易としていないかが気掛かりだった。
自分が原因で毀損してしまったにも関わらず、自分が沢海から嫌悪を抱かれてしまったのではないかと
いう、身勝手な不安が巡ってしまう。
ーーー沢海に嫌われたくない。
ーーー沢海から離れたくない。
ーーー沢海の傍にいたい。
でも、宮原は沢海の手を振り解いてしまった。
「ーーー!……」
トレーニングゲームの後という事もあり、満身創痍の上、特に左膝の可動が軋むように痛み始める。
力の入らない四肢がバランスを崩し、前のめりに転倒しそうになり、左膝から地面に崩れ落ちる。
沢海は全てを察しているかのように、寸前に宮原の身体を支え、そのまま強く抱き締めた。
突然の事で宮原は驚いたが、それ以上に抱き締められた沢海の体温の暖かさに一瞬で涙腺が緩んでしまう。
「沢海先輩…」
背中に回された沢海の腕の強さに、宮原は安心したように細い息を吐き、宮原も沢海の背中にゆっくりと腕を回す。
そのまま沢海の胸の中に抱かれるように包まれ、沢海の胸に宮原は頬を寄せた。
宮原の耳元に沢海の規則正しい鼓動が聞こえる。
「すみま、せん…
ーーーすみません、沢海先輩……
オレ、自分が悪いのに沢海先輩に八つ当たりした……
…ごめん、なさい…」
「ーーーいいんだよ。
宮原が抱え切れないこと、全部オレに話してよ。
ーーー全部、受け止めてあげる。
それくらいは、オレの特権だろ?
……ね?」
沢海は宮原の黒髪を愛しむように撫でると、そのまま宮原の目元に口唇を落としていく。
その無条件に優しくされる感覚に、宮原は抑え切れない感情を吐露する。
「ーーー悔しい……悔しいんだ。
…すっごく悔しいんだ……
ちくしょう……
オレだってトップチームに入りたい!
沢海先輩と同じトップチームでプレイしたい!
これから、もっと一生懸命に頑張ってトップチームに選ばれるように、必死にやっているんだ…
ーーーそれでも、まだ自分に実力がないのは分かっている。
今はまだトップチームに選ばれる力がないって事ぐらい、オレだって分かってるんだ。
でも、オレだって……」
宮原はそこまで言いかけると、我慢し切れなかった涙がボロボロと頬を伝ってしまう。
日々真摯に、懸命に練習をしてきたサッカーを全て否定をされてしまったかのようで、宮原は自分を一心に責めた。
自分の実力の無さを分かっていた筈でも、やはり突き付けられた現状に愕然とし、改めて自分と沢海との間にある、目に見えない高い壁がある事に気付いてしまう。
「ーーー宮原。
オレだって、サッカーが人一倍上手い訳じゃない。
上手くないから毎日厳しい練習をして、毎日精一杯に努力をして、それで今のこの状況、トップチームを維持しているんだ。
オレだって、少しでも油断したらトップチームを簡単に外されてしまうんだ」
沢海は宮原の顎のラインに手を添えると、親指で止まらない涙を払う。
「オレのポジション、センターバックって、1枚後ろが直ぐにキーパーだろう?
だから、何度も『お前のミスが原因で失点に繋がった』『お前のビルドアップのコントロールが出来ていないから負けた』ってさ。
負ける度に同じような事を何度も言われてーーー何度も本気で、サッカーを辞めようと思った。
ーーーでもさ…
勝負の世界って、勝つか負けるかのどっちしかないんだよ。
勝つ事もあれば、負ける事だってある。
自分自身に負けたくなかったから、自分自身に勝つしかなかった。
ここで負けてしまったら、もう勝つ事もなくなってしまうんじゃないかって、思った。
だから、途中で諦めることは絶対にしなかった。
ーーー宮原。
これからでもいいんだ。
一緒に頑張っていこう。
その為の練習なんだし、その為のチームだ」
宮原は沢海の言葉をひとつずつ確かめるように頷き、頷く度に涙が頬を伝っていく。
「ーーー待っているから、トップチームまで上がって来いよ」
沢海は宮原の前髪を分けると、そのまま唇を寄せ、額に口付けをする。
それは甘く、優しく、そして温かく宮原を包んでいく。
「ーーー約束だよ。
大丈夫。
宮原なら頑張れるよ」
宮原はぎこちなく笑うと一度目を伏せ、もう一度沢海の顔を見詰めると屈託のない笑顔をする。
「うん」
沢海は宮原の無垢な表情を見て、少し安心したように、「オレの家、帰ろう」と囁いた。
部室を出ると校舎に向かうの通路を通り、沢海に左腕を引っ張られ続け、宮原は半ば引き摺られるように歩いていた。
宮原は何度も足がもつれてしまいバランスを崩すが、沢海は構わずに歩き続ける。
怪我をしている右腕ではなく、左腕を掴まれてはいるが、その分身体の重心が左膝に掛かってしまい、宮原は何度も顔を顰めてしまう。
「ーーー先輩……
…沢海、先輩……
ーーーいた、ぃ……痛いよ」
部室を出てから一切話そうとしない沢海の態度に、最初は不遜な態度に出ていた宮原も、自分の言動を落ち着いてに振り返る事が出来ると、段々と居た堪れない気持ちになっていく。
沢海との形の見えない大切な繋がりでさえも壊れてしまいそうで、宮原は混乱した。
自分の気持ちだけを執拗に守ってしまい、硬質した自分の感情を抑え切れずに沢海を傷付けた。
自分自身に否定された心を擁護する為に沢海の存在を利用してしまった。
「…沢海先輩…
ーーー左膝、左膝が痛、い……
痛い…」
左膝の患部が炎症で熱を発し、疼くような鈍い痛みが増してきたが、それ以上に自分の卑しい醜態を晒してしまい、沢海が自分に対して辟易としていないかが気掛かりだった。
自分が原因で毀損してしまったにも関わらず、自分が沢海から嫌悪を抱かれてしまったのではないかと
いう、身勝手な不安が巡ってしまう。
ーーー沢海に嫌われたくない。
ーーー沢海から離れたくない。
ーーー沢海の傍にいたい。
でも、宮原は沢海の手を振り解いてしまった。
「ーーー!……」
トレーニングゲームの後という事もあり、満身創痍の上、特に左膝の可動が軋むように痛み始める。
力の入らない四肢がバランスを崩し、前のめりに転倒しそうになり、左膝から地面に崩れ落ちる。
沢海は全てを察しているかのように、寸前に宮原の身体を支え、そのまま強く抱き締めた。
突然の事で宮原は驚いたが、それ以上に抱き締められた沢海の体温の暖かさに一瞬で涙腺が緩んでしまう。
「沢海先輩…」
背中に回された沢海の腕の強さに、宮原は安心したように細い息を吐き、宮原も沢海の背中にゆっくりと腕を回す。
そのまま沢海の胸の中に抱かれるように包まれ、沢海の胸に宮原は頬を寄せた。
宮原の耳元に沢海の規則正しい鼓動が聞こえる。
「すみま、せん…
ーーーすみません、沢海先輩……
オレ、自分が悪いのに沢海先輩に八つ当たりした……
…ごめん、なさい…」
「ーーーいいんだよ。
宮原が抱え切れないこと、全部オレに話してよ。
ーーー全部、受け止めてあげる。
それくらいは、オレの特権だろ?
……ね?」
沢海は宮原の黒髪を愛しむように撫でると、そのまま宮原の目元に口唇を落としていく。
その無条件に優しくされる感覚に、宮原は抑え切れない感情を吐露する。
「ーーー悔しい……悔しいんだ。
…すっごく悔しいんだ……
ちくしょう……
オレだってトップチームに入りたい!
沢海先輩と同じトップチームでプレイしたい!
これから、もっと一生懸命に頑張ってトップチームに選ばれるように、必死にやっているんだ…
ーーーそれでも、まだ自分に実力がないのは分かっている。
今はまだトップチームに選ばれる力がないって事ぐらい、オレだって分かってるんだ。
でも、オレだって……」
宮原はそこまで言いかけると、我慢し切れなかった涙がボロボロと頬を伝ってしまう。
日々真摯に、懸命に練習をしてきたサッカーを全て否定をされてしまったかのようで、宮原は自分を一心に責めた。
自分の実力の無さを分かっていた筈でも、やはり突き付けられた現状に愕然とし、改めて自分と沢海との間にある、目に見えない高い壁がある事に気付いてしまう。
「ーーー宮原。
オレだって、サッカーが人一倍上手い訳じゃない。
上手くないから毎日厳しい練習をして、毎日精一杯に努力をして、それで今のこの状況、トップチームを維持しているんだ。
オレだって、少しでも油断したらトップチームを簡単に外されてしまうんだ」
沢海は宮原の顎のラインに手を添えると、親指で止まらない涙を払う。
「オレのポジション、センターバックって、1枚後ろが直ぐにキーパーだろう?
だから、何度も『お前のミスが原因で失点に繋がった』『お前のビルドアップのコントロールが出来ていないから負けた』ってさ。
負ける度に同じような事を何度も言われてーーー何度も本気で、サッカーを辞めようと思った。
ーーーでもさ…
勝負の世界って、勝つか負けるかのどっちしかないんだよ。
勝つ事もあれば、負ける事だってある。
自分自身に負けたくなかったから、自分自身に勝つしかなかった。
ここで負けてしまったら、もう勝つ事もなくなってしまうんじゃないかって、思った。
だから、途中で諦めることは絶対にしなかった。
ーーー宮原。
これからでもいいんだ。
一緒に頑張っていこう。
その為の練習なんだし、その為のチームだ」
宮原は沢海の言葉をひとつずつ確かめるように頷き、頷く度に涙が頬を伝っていく。
「ーーー待っているから、トップチームまで上がって来いよ」
沢海は宮原の前髪を分けると、そのまま唇を寄せ、額に口付けをする。
それは甘く、優しく、そして温かく宮原を包んでいく。
「ーーー約束だよ。
大丈夫。
宮原なら頑張れるよ」
宮原はぎこちなく笑うと一度目を伏せ、もう一度沢海の顔を見詰めると屈託のない笑顔をする。
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