【R18】君に触れる、全てのものから

すぐる

文字の大きさ
77 / 144
第1部

取り戻せない過去

しおりを挟む
『ーーー前にも感じたことがある。
優しいけど、血の味がするキス…』

宮原はゆっくりと目蓋を上げ、水の中のように不鮮明に映る沢海の輪郭をひとつひとつ、辿る。

薄く引き締まった唇から覗く舌が何度も宮原の口内に入り込み、求められる事に躊躇う宮原の舌の上を撫でていく。
宮原の舌を食むように沢海の口唇が動くと、溢れる唾液がお互いの顎を伝い、喉元に垂れていく。

それでもまだ足りないと更に深い口付けを貪り、沢海の歯が甘く宮原の舌に噛み付く。

自傷で血の滲む宮原の唇に沢海の舌が労るように這うと破傷した箇所に体液が滲み、僅かな痛みを伴う。
その痺れは啄むように優しい口付けを欲し、吐息までも飲み込まれていく。

「ーーー沢海、せんぱ……い
……んっ……」

お互いの絡み合う唇が離れた瞬間に宮原は沢海の名前を呼ぶが、声音ごと沢海に掻き消されてしまう。

沢海は宮原から求められる全てのものを分け与える為に宮原の身体に絡む見えない柵を解き、閉ざされていた鍵を開けていく。
絶え間なく注がれる沢海の温もりを肌で感じ、口付けの合間に伝わる沢海の呼吸の息遣いが、宮原の頬を擽る。

何度も何度も繰り返し自分に触れている筈の沢海の指は微かに震え、ガラス細工を扱うようにゆっくりと手を伸ばしてくる。

宮原は慣れない深い口付けに呼吸をする方法も分からなくなってしまい、溺れた人のように息を吸い込む。

「ーーー宮原……
…宮原・・・
宮原……」

宮原の存在を確かめるように沢海は名前を呼び、与えられる温もり中に潜んでいる、切ないような沢海の声遣いに宮原は意識を向けた。
無条件で求められていく、不安定な感情に翻弄される事もなく、ただ只管に沢海を追い求める。

「…そ、そう・・・み……せんぱ、い……」

触れ合う唇が宮原の身体の強張りを解いていく。

彷徨う宮原の血だらけの指が沢海の胸元を掴み、縋るように沢海のピステを握り締める。
だが、宮原はその一瞬だけ沢海の身体に触れると直ぐに腕を引いた。

『汚れ、る……
先輩が……汚れちゃうよ・・・
ーーーオレ、汚れているんだ…
消えないんだ…
ーーーだから…
こんな汚れた手で、沢海先輩を触れない…
…触らないで…
もう、オレに触らないでほしい……』

宮原は自分の頬に触れる沢海の手をかぶりを振って逃れ、沢海から顔を背ける。

宮原の顔に、身体に触れる事で沢海の中の色彩が濁り、汚染されていく情景が脳裏を過る。
侵食されてしまう沢海の存在を払い、これ以上、沢海を汚さない為に距離を取ろうとする。

蝕まれていく存在は自分1人だけでいい。
ーーー沢海先輩だけは汚れてほしくない。
壊れていく存在は自分1人だけでいい。
ーーー沢海先輩だけは穢れてほしくない。

「ーーー触らないで…
…汚れる……
汚れちゃうよ…」

沢海は自分から離れようとする宮原の身体をもう一度腕の中に抱き締め、その体温を感じる。

全身を緊張させたままの宮原の肢体は硬く強張り、抵抗をしない無防備な背中を撫でる。
宮原を安心して落ち着かせる為に、沢海は宮原の指を重ねるように握ると、絡み合う指に口付けを降らしていく。

「……触ん、な……よ……
もう、やだ……
・・・もう、やだ、ぁ……」

否定の言葉だけを羅列する宮原の口唇を沢海は指でなぞり、真正面から宮原の表情を覗き込む。
視線を感じた宮原は首を竦め、沢海の視界の中から消えようとする。

宮原は俯いたまま首を横に振ると、沢海は拒絶ばかりを繰り返す口唇を黙らせる為にそっと口付ける。

「ーーー宮原、触って、いい?
触りたい。
……触らせてーーーもっと。
オレ、宮原を触りたい…
もっと、もっと触りたい……
ーーーだから、オレのところに、いて…・・・
逃げないで……
……汚れてなんていない……
宮原は汚れていないよ…」

沢海は宮原の視線を捕らえようと頬に手を添えると何度も角度を変えて口付けをしてくる。
宮原が沢海を見詰め返してくれるまで、唇を重ねては宮原の眸を引き寄せ、離れているお互いの空間を詰めていく。

「…そう、み……先輩……」

ゆっくりと顔を上げ、宮原の黒い眸が落ち着かずに揺れ動くと睫毛の先に溜まっていた雫が頬を滑る。
それを追い掛けるように沢海は自分の唇で辿り、軽く吸い上げる。

大切に、大事にしたい行為が宮原の不安な心を救い、沢海の胸の中に甘えるように寄り掛かってくる。
弛緩する宮原の身体を沢海は両手でしっかりと支えると、宮原は沢海の心音を聞いているかのように胸にピッタリと耳を寄せ、目を閉じていく。

沢海は宮原の額に掛かる前髪を指で払うと、漸く宮原は沢海に視線を動かしてくれた。

宮原の眸の中に沢海の輪郭を捉えると、宮原の後ろ髪を梳きながら後頭部を支え、上を向かせる。

「ーーーい、た……ぃ……」

鏡面に激しく打ち付けられた箇所が響き、疼痛に声が漏れ、下顎が空いてしまい、その空いた唇の隙間に沢海は舌を入れてくる。
最初は口唇の縁を辿るように、お互いの唇を合わせるように、舌で歯をなぞるように、咽喉の奥深くにまで貪るように、愛おしさの中に自分1人だけのものにしたいという独占欲が見え隠れする。

自分の手に入らないのなら壊してしまいたいという壊滅的な考え方と自分の手の中で大切に秘匿してしまいたい考え方が綯い交ぜになる。

責っ付くように沢海は宮原の舌に触れると宮原はその愛撫に素直に応え、おずおずと舌を出してくると、慣れない深い口付けに宮原は掠れた吐息が漏れ始める。

沢海は宮原の舌を軽く吸うと唾液が絡み、クチュクチュと淫猥な音が漏れてしまう。
羞恥を煽る粘着音に宮原は頬を染め、触れている宮原の体温が上がっていくのを感じる。

沢海が態とらしく唇を外すと宮原の耳元に息を吹き掛ける。
宮原にとって擽ったい行為でさえも快感と紙一重に咽喉を震わせてしまう。

「ーーー宮原……
目、開けて・・・こっち向いて…」

宮原が赤い目を開けると沢海は宮原の額に自分の額を祈るように合わせ、呼吸を落ち着かせると口角を少し上げた。

「宮原…よく見て。
ーーーよく感じて…
これが、オレ、だよ…」

もう一度、沢海は宮原の唇に軽く触れ、そして宮原が不安に縛られない距離間だけ置くともう一度、宮原の顔を見詰める。

「ーーーね?……宮原……
…分かる?」

宮原は数センチだけ離れた沢海の身体を自ら腕を伸ばして引き寄せ、鍛えられた背中に手を回す。
沢海を離さないように、沢海が離れていかないように、握り締めた両手は沢海の躯幹を搔き抱いていた。

「ーーー分かんない…
分かんないよ・・・先輩……
……そう、み…先輩……」

緩まない宮原の緊張が混乱を招くと、沢海は優しく包み込むように宮原の背中を摩っていく。

「いいよ。
ーーーもっと教えてあげる…
オレにとって、宮原は……
…宮原、以外には何も変わりはないんだ…
宮原じゃないと、ダメなんだ…
ーーーオレは宮原の事が……」

耳元で囁く告白の言葉が、甘く宮原を閉じ込めていく。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

スライムパンツとスライムスーツで、イチャイチャしよう!

ミクリ21
BL
とある変態の話。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

寝てる間に××されてる!?

しづ未
BL
どこでも寝てしまう男子高校生が寝てる間に色々な被害に遭う話です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...