8 / 33
第8話 Time to Say Goodbye
しおりを挟む
――伊原邸。執務室。
「――そういうわけだ。カナとマサキを会わせてやりたいと思う」
ウラトは、先の電話でのゲンジロウとのやり取り――コフタ=マサキという刑事が、火鳥会が行っている捜査の協力に加わったこと。
それと、マサキの娘が、カナであるということ。
そのカナを、ウラトの方で預かっているということ――をレイハに説明した。
「行方不明だった娘が見つかったんだ。会いたいと思わない親がいるのか? 余とて、人の心を捨てておらんわ」
「かしこまりました。早速手配いたします」
レイハは一礼する。
「それにしても、警察に圧力がかけられている状態にも関わらず、刑事とのパイプを作り上げるとは。流石ですねウラト様」
レイハはこんなことを言い残し、部屋を後にした。
後ろ姿を見送った後、ウラトは呟いた。
「レイハは、アサトみたく真面目腐ってると思っていたが、気の利いた世辞を言うとはな。もっとも、地方警察の刑事なんかアテにならんが」
***
一階の応接室のソファーにカナが座っていた。レイハから「ここで座って待っているように」と言われたからである。
カナがそわそわしながらソファーの上で待っている。少し時間が経ってから、レイハが、マサキを連れて入ってきた。
マサキを見たカナは、喜びのあまり言葉を失ってしまった。
「カナ?」
マサキは、呆然としているカナに呼びかける。
「お父さん?……お父さん!」
カナはマサキに駆け寄り、抱きついた。
カナに抱きつかれたマサキも、お返しにとカナを抱きしめる。
マサキは、感極まって目に涙を浮かべた。
涙を拭うため、サングラスを外す。
不意に視界が赤くなり、カナを殺してしまうかもしれない――カナの方を見ないようにと、細心の注意を払いながら。
その様子を見て、カナは何やら胸騒ぎがした。
「お父さん、大丈夫?」
娘の思わぬ一言に、マサキは内心気が気でなかった。
「カナ、話があるんだ」
気を取り直し、サングラスをかけ直してから、カナの方を向く。
「お父さんはな、今、お母さんを殺してカナをさらった奴を探しているんだ」
「お父さん、そいつは死んだわ」
カナの一言に、マサキは驚きを隠せない。
「なんでそうって言えるのかっていうことは、ごめんなさい、話せないの。でも、死んだのは確かよ」
カナは『リュクス』にて、ジェイに血を与えられ、ここに連れてこられた。
そもそも、リュクスにいたのは、何者かに連れていかれたからだ。
カナをリュクスに連れてきたものこそ、ケイコを殺し、カナを連れさった犯人であった。
犯人はヴァンパイアであった、ということは言うまでもない。
カナは犯人の毒牙にかかり――正確には『スロートバイト』を飲まされて――ヴァンパイアになった、というわけである。
もっとも、犯人は容疑者となる前に、ジェイの手にかかったわけだが。
「私も色々あって、ここから離れられない状態になっちゃったけど、皆、いい人よ。イハラさん、わかるでしょ? 頼めば、お父さんも一緒にいられると思うの。
だから……」
カナは言い淀む。
マサキはカナの無事を心の底から喜んでいた。
しかし、マサキは火鳥会と取引をしてしまった。オマケに法に触れるような罪まで犯したという有様だ。
マサキはカナと一緒にいたかった。でも、もう後戻りができないところまで来てしまったのだ。
何も言わずに俯いているカナに対し、マサキは肩に手を置いた。
「……そうか。とにかく、カナが無事で良かった。でもな、お父さんはカナやお母さんみたいな目に合う人を、これ以上増やしたくないんだ」
それを聞いたカナは顔を上げ、マサキの顔を見た。マサキの顔からは迷いが見られなかった。
「カナに会えてよかった。じゃあ、お父さんは行ってくるね」
そう言い残し、マサキは部屋を後にした。
「お父さん!? お父さん!!」
カナは、自分の元を去っていくマサキの後ろ姿を、目で追いかけた。
「――そういうわけだ。カナとマサキを会わせてやりたいと思う」
ウラトは、先の電話でのゲンジロウとのやり取り――コフタ=マサキという刑事が、火鳥会が行っている捜査の協力に加わったこと。
それと、マサキの娘が、カナであるということ。
そのカナを、ウラトの方で預かっているということ――をレイハに説明した。
「行方不明だった娘が見つかったんだ。会いたいと思わない親がいるのか? 余とて、人の心を捨てておらんわ」
「かしこまりました。早速手配いたします」
レイハは一礼する。
「それにしても、警察に圧力がかけられている状態にも関わらず、刑事とのパイプを作り上げるとは。流石ですねウラト様」
レイハはこんなことを言い残し、部屋を後にした。
後ろ姿を見送った後、ウラトは呟いた。
「レイハは、アサトみたく真面目腐ってると思っていたが、気の利いた世辞を言うとはな。もっとも、地方警察の刑事なんかアテにならんが」
***
一階の応接室のソファーにカナが座っていた。レイハから「ここで座って待っているように」と言われたからである。
カナがそわそわしながらソファーの上で待っている。少し時間が経ってから、レイハが、マサキを連れて入ってきた。
マサキを見たカナは、喜びのあまり言葉を失ってしまった。
「カナ?」
マサキは、呆然としているカナに呼びかける。
「お父さん?……お父さん!」
カナはマサキに駆け寄り、抱きついた。
カナに抱きつかれたマサキも、お返しにとカナを抱きしめる。
マサキは、感極まって目に涙を浮かべた。
涙を拭うため、サングラスを外す。
不意に視界が赤くなり、カナを殺してしまうかもしれない――カナの方を見ないようにと、細心の注意を払いながら。
その様子を見て、カナは何やら胸騒ぎがした。
「お父さん、大丈夫?」
娘の思わぬ一言に、マサキは内心気が気でなかった。
「カナ、話があるんだ」
気を取り直し、サングラスをかけ直してから、カナの方を向く。
「お父さんはな、今、お母さんを殺してカナをさらった奴を探しているんだ」
「お父さん、そいつは死んだわ」
カナの一言に、マサキは驚きを隠せない。
「なんでそうって言えるのかっていうことは、ごめんなさい、話せないの。でも、死んだのは確かよ」
カナは『リュクス』にて、ジェイに血を与えられ、ここに連れてこられた。
そもそも、リュクスにいたのは、何者かに連れていかれたからだ。
カナをリュクスに連れてきたものこそ、ケイコを殺し、カナを連れさった犯人であった。
犯人はヴァンパイアであった、ということは言うまでもない。
カナは犯人の毒牙にかかり――正確には『スロートバイト』を飲まされて――ヴァンパイアになった、というわけである。
もっとも、犯人は容疑者となる前に、ジェイの手にかかったわけだが。
「私も色々あって、ここから離れられない状態になっちゃったけど、皆、いい人よ。イハラさん、わかるでしょ? 頼めば、お父さんも一緒にいられると思うの。
だから……」
カナは言い淀む。
マサキはカナの無事を心の底から喜んでいた。
しかし、マサキは火鳥会と取引をしてしまった。オマケに法に触れるような罪まで犯したという有様だ。
マサキはカナと一緒にいたかった。でも、もう後戻りができないところまで来てしまったのだ。
何も言わずに俯いているカナに対し、マサキは肩に手を置いた。
「……そうか。とにかく、カナが無事で良かった。でもな、お父さんはカナやお母さんみたいな目に合う人を、これ以上増やしたくないんだ」
それを聞いたカナは顔を上げ、マサキの顔を見た。マサキの顔からは迷いが見られなかった。
「カナに会えてよかった。じゃあ、お父さんは行ってくるね」
そう言い残し、マサキは部屋を後にした。
「お父さん!? お父さん!!」
カナは、自分の元を去っていくマサキの後ろ姿を、目で追いかけた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる