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第23話 Mad Tea Party(3/18 '23 改

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 カナは、サトシと和解した。あれから、サトシとやり取りをしているわけではないが。

 これ以上話すこともないのだ。それなのにやたらと近づくのも、かえって拗らせることになる。特にトラブルもないのだ。今くらいの距離が丁度いいのだろう、カナはそう思うことにした。

 次は――。

「セントウダさんとミコトさん、このままじゃよくないわよね……」
 二人はどうにか和解できないだろうか。最近のカナは、そのことばかり考えている。

『アタシ、そういうのは無理だし。だって、ヒトの気持ちわかんないもん』
 リリーが頭の中で話しかけてきた。

「リリーも一緒に考えてくれたのね。ありがとう」
 カナは礼を言う。

 ――リリーもジェイと同じくパラサイトである。カナはジェイに吸血される。それと同時に、血を与えられた。
 リリーはそのとき、カナに寄生したのだろうか。しかし、同じように互いの血を吸ったウラトには、パラサイトはいなかった。

 ウラトにはいないのに、なぜ自分にはいるのだろう? カナは度々、そのことに思いを巡らせている。

 それは、単純に気になったからであり、リリーのことを嫌悪しているわけではない。
 カナは、ジェイに寄生されたサトシのことが頭に浮かんできた。

 ――ジェイは拒絶されて可哀想だ。けれど、あっさりとリリーを受け入れるというのも、それはそれで変なのではないか――。

「ごめんなさいっ。別にリリーの事が変だって言いたいんじゃなくて……」
『何の話?アタシ、カナが話すこと以外はわからないよ』

「それって、『私が頭の中で考えてることはわからない』という事ね?」

『そういうことになるのかなぁ。あたし、別に脳を乗っ取ってないし。借りてるようなもんだからね。だから、『何を考えてるか』まではわかんないよ。
 ……て、アタシの話はどうでもよくない? セントウダとミコトはどうするのって話でしょ』

「……どうしよう……」
 カナは困り果ててしまった。

「まず、ミコトさんの話を聞いた方がいいわよね……」
 ――エリの助けを得られないか。エリの元でミコトと共に、お茶をするのがいいのではないか――。
 カナは、こんなことを思いつく。

 ただ、エリはともかく、ミコトはどうやって誘えばいいのだろうか。まるで検討がつかない。

「だって、ミコトさんと私、お互いのことをよく知らないし……」

 カナはどちらかというと、引っ込み思案な性格である。友人の遊びの誘いは相手から持ちかけられてばかりだ。自分から誘うことは殆どない。
 友人でさえこれなのだ。素性がしれないミコトを誘うのに抵抗感が拭えない。

「……でも、私はこれくらいのことしか出来ないし!」
 カナは勇気を振り起こした。


***

「ほほう。エリを交えてミコトと話がしたいとな」
「こんな事を頼んで申し訳ありません。でも、どうしてもミコトさんと話がしたくて……」

 カナは腹をくくる。ウラトにミコトのことを相談することにしたのだ。エリの協力を得たいので、どっちにせよウラトの元にいかないといけないのだが。

「イハラさんとしては、あまりエリさんのところに行かせたくないとは思うのですが……」

 なにせ、ミコトは人を銃で撃ったのだ。親の仇であるとはいえ、暴挙という他ない。エリに危害を加える理由はないとはいえ、ミコトは危険だ。エリに会わせてなるものかと言っても別におかしくはない。

「別に構わんぞ。銃は没収したからな」

 カナは面食らった。あっさりと承諾をしたからだ。カナは困惑した表情を浮かべる。

「なにか言いたそうな顔をしておるな」
 カナの困惑した顔を見て、ウラトはこう言った。

「……なんで、ミコトさんは銃を持っていたのですか?」
 考えていることは筒抜けということか。カナは観念したかのように尋ねた。

「当然の質問だな。それがな、余も知らなんだ。余が渡したわけではないし」

「……本当に、知らないんですか?」
 あくまでもウラトは白を切るつもりか。カナにはそう見えて仕方がなかった。

「ミコトさんが撃ったのは、セントウダさんが犯人だとわかっていたからですよね……セントウダさんの話もしたんですか……?」

 証拠がない以上、これ以上の追求は不可能だ。カナは話を変えることにした。話し終えたとき、カナの身体はわなわなとし始めた。

「『誰が銃を渡したのか』というのは置いておきます。でも、銃を持っていたことは知ってたんですよね?」

「どうだったかな……でも、セントウダのことを言わんというのもどうだろうな、と思ってな」
 ウラトはトボケるように答える。カナにはそう見えて仕方がなかった。

 その有様を見て、カナは絶句した。ウラトに向けた眼差しは、信じられないというものに変わっていく。

「……そういうことでしたか……わかりました……」
 カナは自分を抑えるように答えた。

「ミコトを誘いたいのであれば、お前さんが頼んだ方がいいんじゃないのか。同じようにセントウダと因縁があるのだし。まぁ、きっかけ作りくらいならしてやらんでもないが」

「……イハラさん、相談に乗っていただき、ありがとうございます……」
 カナはウラトと目を合わせないように俯いていた。ウラトは何も言わなかった。

「では、これで失礼します……」
 カナは執務室を出る時も、俯いていた。

 ――カナはこの時ほど、ウラトに怒りを覚えたことはなかった。

 エリが大事なのはわかる。だが、それ以外のものに対してあまりにも冷淡ではないか。とはいえ、世話になっている。何より、ここで怒りを爆発させれば、ミコトと話す機会を失ってしまうかもしれない――。

 だから、カナは必死になって自らを律したのである。

『カナ? 大丈夫?』
 カナの様子がいつもと違う。リリーはそれを感じ取った。

 その時、カナの目から血が流れた。
「ありがとう、リリー。私は大丈夫よ……」
 カナの目からとめどなく血涙が流れる。

『大丈夫そうには見えないよ。やっぱりヒトってよくわかんない』


***

 ――翌日。
 
 カナは階段で三階に上がる。上がった先にミコトがいた。ミコトとは、ここで待ち合わせをしていたのである。

「来ていただき、ありがとうございます」
 カナは、ミコトに一礼した。
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
 ミコトは丁寧にお辞儀を返す。

 カナは緊張していた。ミコトとサトシの和解がかかっているからである。

 今回、無関係であるエリを巻き込む形になってしまった。はたしてそれが正しかったのか。とはいえ、二人きりでは話が進まないだろう。カナはエリに対して申し訳ない気持ちが湧いてくる。

「お二人さん、来てくれたっすね。エリ様が待っておられるっす」
 マキがエリのいる部屋から出てくる。その中にカナとミコトを迎え入れた。

「失礼します」
 二人は頭を下げる。

「エリさん、面倒なことに巻き込んで、申し訳ありません……」
 カナは申し訳なさいっぱいであった。

「謝らないでください。私こそ、力になれてなによりです」
 エリはカナに微笑みかける。それを見たカナは、ほっとした。

「カナさん……と、イチジョウ=ミコトさんでしたね?」
「は、はい」
 エリに呼びかけられたミコトは恐縮してしまう。
「お二人とも、こちらにおかけください」
 エリはカナとミコトを誘導する。二人はエリと向かい側にあるソファーに座った。

「お茶は、なにがいいでしょうか?」
「では、エリさんのオススメのものを」
「かしこまりました」

 エリはマキに紅茶の用意を命じる。マキは言われた通り、紅茶の準備を始めた。

「……えーと……」
 ミコトは相変わらず緊張している。

「ミコトさん、よろしかったらミルクと砂糖もお使いください。この紅茶は、ミルクティーにしても美味しいんですよ」

「あ、ありがとうございます」
 カナはミコトの様子を見ている――そういえば、初めてエリと会った時、自分も緊張していたな――ふと、そんなことを思い出した。

「ふふふ」
 カナは含み笑いをする。それを聞いたミコトはカナの方を振り返った。

「ごめんなさい。別にミコトさんのことを笑ってたわけじゃないの。ただ、初めてエリさんとここで会ったことを思い出して……」
 カナは慌てて弁明する。

「お二人共、紅茶をどうぞ」
 エリは二人のカップに紅茶を注ぐ。

「ありがとうございます。ミコトさん、エリさんの紅茶はとても美味しいんですよ」

 ミコトは紅茶にミルクと砂糖を入れて飲んだ。
「本当だ、美味しい」

「お口に合ったようで、なによりです」
 エリは微笑む。

 カナはミコトを観察する。ミコトの表情がほぐれたように見えた。
「えーと、ちょっと、いいですか? ミコトさんにお聞きしたいことがあるのですが……」
 カナは、チャンスとばかりに話を切り出した。

「お話というのは……」
 ミコトは声を詰まらせる。

「ミコトさん、とにかく、ミコトさんが怪我しなくて、よかったです」
 カナはミコトのフォローをした。

「……ごめんなさい。俺、母さんにも迷惑かけた……」
 ミコトは項垂れる。
「でも……、やっぱり、俺、許せないよ……」

「ミコトさん」
 エリはミコトを見据える。
「ミコトさんの気持ちは分かります。実は私も……」
 カナは自分のことを話した。悲痛な面持ちが浮かぶ。

「――でも、聞いてください、ミコトさん。私はセントウダさんを赦すことにしました」

 それを聞いたミコトは驚愕した。
「なんでそんな奴赦すんだ! 死んでしまえって思わないのか!?」
 ミコトは声を荒らげる。

「私だって、セントウダさんのことをよくは思っていないわ。でも、殺したって、お父さんは帰ってこない……」

 個人的な復讐心を晴らしたところで、それで父が戻って来る訳では無い 。他にもジェイのことがある。ただ、ジェイのことを説明すると余計ややこしくなりそうだ。これについては黙ることにする。

「あいつは化け物だ! 他の人も殺すかもしれないんだぞ!」

 それを聞いたカナは内心ショックだった。ミコトにしたら、サトシは紛うことなき化け物だろう。だが、それを言うならカナだって化け物なのだ。
 カナは深く深呼吸をし、とにかく心を落ち着かせようと務める。

「セントウダさんは化け物ですか……確かに、そうかもしれません。でも、それを言うなら私だって同じなんです」

「ええ?」
 とつとつと話すカナを、ミコトは信じられないという目で見た。

「私も、ヴァンパイアだったんです。今は違いますけど。でも、今も人間ではないことに変わりはありません」

「ごめんなさい。そういうつもりで言ったんじゃ……」
 ミコトは慌てて訂正する。

「そうだ! いなくなった方がいいんだ!」
 ――突如、エリは叫んだ。狂気めいた笑顔を浮かべながら。

「エリさん!?」
 突然のことに、カナとミコトはびくりとなる。

「なんでお前はジェイのことを話さないんだ!」

「あなた、エリさんじゃないわね!?」
 エリがエヌと化した。それにも関わらず、カナは毅然とした態度を取る。

「僕の質問に答えろ! ジェイのことなんかどうでもいいのか」
 エヌはカナに詰め寄った。

「何を言ってるの。あなたには関係ないでしょう」
 カナは負けじと突っぱねる。

「……僕だったらジェイを救ってあげられるんだけど……」
 エヌは、優しく語りかけるかのような声色に変わった。

「考えてもみろ、ジェイは望まれて生まれた存在じゃない。ただ、人を殺させる為に生み出されたんだ。しかも、他者を犠牲にしなければ、存在さえ出来ない。
 なんて哀れな存在だ。可哀想なジェイ。誰からも望まれてないジェイ」

「黙りなさい!」

「だから、彼の為にこの世界、いや、『在ることそのもの』を無くしてしまおう。そうすれば、もう誰も苦しまなくなる。いや、苦しみさえなくなるんだ!

 生憎、僕だけでは終わらせられない。僕の力は自分の意思で使うことができないんだ。カナ、君の助けが必要だ。さあ、全てを終わらせよう!!」

「出てって! エリさんから出てって!!」

 エリは急に妙な事を言い出した。カナは負けじと応戦する。それを見たミコトは唖然としていた。
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