酒を飲むなら縁側で

春色悠

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祭りと言ったらやっぱり酒で

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 とっとっとっ、ととっ、
 包丁とまな板のぶつかる軽やかな音が聞こえる朝。
 ぼんやりとした足取りで、目を擦りながらその音の方へ向かう。
 近づくにつれ、じゅーじゅーという音や、ぐつぐつと言う音も聞こえてくる。
 鼻で感じる美味しそうな匂いで、腹が空腹を主張し出す朝。
 台所のドアに手をかける。
 ガラガラ、ガラ、
 立て付けの悪い引き戸を寝ぼけた体でゆっくりと開け_____

 目が覚めた。
『珍しいな、今日は自分で起きたのか。』
 布団の上で胡座をかいて欠伸していれば、ユズが驚いた様な顔で部屋に入って来た。
「オレだってたまには自分で起きるけどお?」
『どうだかな。ほら、起きたなら飯を食え。』
「はぁい。」
 心外だ。オレだって自分で起きることはある。一年に一度くらい。
 そう思って言葉に出しても、ユズには軽く流され食事を促された。
 よろよろとゆっくり台所に向かいながら、ふと夢の事を思い出した。
 夢の中でも同じ様に台所へ歩いて行ったが、はて、料理をして居たのは誰だったのか。
 母はあれほど軽快な包丁さばきの出来るタイプではないし、父は自分と同じで朝に弱い。夢と言ってしまえばそれで終わりではあるのだが。
『ぉい、おい!しゃけが焦げてるっ!』
「えっ、ほんとだ!」
 なんだか釈然としないまま、鮭を焼いていれば、少しだけ焦がしてしまった。
 まあ、食べられなくはないか。
 捨てるのも勿体無くて、味噌汁も温めて一緒に食べ出した。
 う~ん、うっかり焦がしたところが苦い…。
「おおぉ~~い!!まんさく!!居るかあ!!」
 苦味にうげえ、としながらも完食した瞬間、でかい声の訪問者が現れた。
 またしてもうげえ、なんて思いながら、玄関に行けば居たのは武成のおっさん。
「なにぃ?オレ祭り当日は休みでしょ。」
「いやあ、ちょっと体調崩した者がおってな、手伝えや。」
「ええぇ……。」
 急な仕事に否やを隠さずに表情に出して伝えても、武成のおっさんは飄々としている。
「しゃあねぇ、また俺のとっておきの酒を……。「乗った。」そうかそうか!ありがとうな満作!」
 酒には勝てなかった。武成のおっさんの秘蔵の酒がどれも旨いのが悪い。
 その勢いのまま武成のおっさんの軽トラに乗り出発したオレは、手を振るだけで見送ってくれるユズに少しキュンとしたのであった。

「そういや満作よお、あの坊主はどうした。」
「坊主?なんの話?」
「あの黒髪のやつだよ。この頃とんと見ねえ。編集者変わったのか?」
 祭りの準備が終わり帰り道。武成のおっさんに酒を貰ったオレは、急な問いに驚く。
 武成のおっさんと睦河さんって会ったことあったっけ。どっかで会ってたのかな。
「変わってない。リモートワークが多くなっただけだよ。」
「おお!リモートワーク!最近よく聞くよなあ!」
 何故か楽しそうな武成のおっさんに送られて、オレは家に着いた。
「じゃあな、おっさん。祭りだからって酒飲んだまま運転すんなよ。」
「あいよ!じゃあな!」
 ぱっぱっ、と武成のおっさんに手を振って家に引っ込む。
 もう日暮れで、あと数時間で花火が打ち上がるのだ。少し急がねば。
「ただいま~…。」
『…お帰り。』
 ゆらりと出て来て迎えてくれるユズ。
「ね、さっそくおつまみ作ろう、ユズ!」
 ジューーー、パチッ、パチッ。
 キャベツとにんじん、もやしの水分が出て、油で弾ける音。
 今夜のつまみ、それ即ち、屋台飯。

 ____焼きそばである!!
 なんなら屋台で買って来たイカ焼きとたこ焼きとまんまるカステラもある。
 今回の武成のおっさん秘蔵の酒は甘めのフルーティーなやつらしい。
 うきうきとした気持ちのまま、縁側に全部持って行く。
 あー、なんならリンゴ飴も買ってくるんだった。こんなに屋台飯買って来たのに。
「ま、いっか。いただきまーす!」
 晩御飯兼つまみなので、花火が打ちあがろうとまだだろうといただく。
「うおっ、うまっ。もしかして屋台のやつより美味しんじゃないこれ。」
『屋台飯は量産しないといけないんだから、個人で一人分作る方が手間かけやすいだけだろ。』
 焼きそばを啜り感想を溢せば、すかさず正論が飛んでくる。が、それにしたって旨い。
 これは野菜を炒める時に入れたバターが良い仕事をしていると見た。普通に作るとあまりソースの絡まない野菜類が本当に旨い。ソースとは別のコクと塩味が最高だ。
 夢中で麺と野菜を啜りながらいれば、ドカンと一発花火が上がった。
 ひゅー、ひゅーーん、
 次々に音が聞こえ、新しい花火が上がる。
『お、上がったな。』
 横でオレを見ていたユズも視線をそちらに向けて呟く。
「じゃあ、花見酒と洒落込みますか。」
 花より団子派のオレではあるが、花を見ながらの酒は美味いものであるとは思っている。
 まあ、それはそれとして酒優先ではあるのだけれど。
 お気に入りのグラスに酒を注げば、色は透明なものの、どこかとろりとした酒だ。
 匂いは甘い、が、花や果物と言った甘さではなく、米だろうか、そんな感じの柔らかな甘さの匂いがする。
 その甘さの中にもしっかりと酒前とした風味があり、並々期待が高まった。
 こくり、喉を通せば、ゆっくりと通って行く酒。
「…うまいやつダァ。」
 ほっっっと、武成のおっさん良い酒持ってるよなあ。
 本当にどこから見つけて買ってくるのか、旨い酒ばかりである。羨ましいのでどこで見つけるのか教えて欲しい。
『……ふっ、ほんとに旨そうに飲むよな、あんたって。』
「…そお?」
 ゆるり、楽しそうに笑うユズに、少し恥ずかしい。
 それを隠して返事をすれば、特に気にしていないのか視線を花火に戻してしまった。
 その目がなんだかきらきらしているのに寂しげで、ついじっと見つめていた。
 バチバチバチッ!!!
 ドンッドドんッッ!!!
『おおっ…!』
「うおっ!」
 花火も終盤。最後は残り全てを打ち切る様な怒涛の打ち上げ。
 思ったよりも多くて驚いてしまった。
 その間も上がり続ける花火をユズは楽しそうに目を見開いて見ている。
 ユズの黒い目に、これだけ大きく沢山の花火は映らない。これほど楽しそうに観ているのに。
 あ~あ、本当なら、黒い瞳に花火が浮かんで、もう一つの夜空みたいになるのに。
 惜しいなぁ、なんて思っていれば、花火は終わっていた。
 おつまみを見れば、焼きそば以外はほぼほぼ残っている。まんまるカステラはしばらく大丈夫として…。
「あちゃあ、結構残っちゃったね。…イカ焼きとたこ焼きどうしよ。」
『明日お茶漬けにして朝食べたらどうだ?』
「お茶漬け?」
『結構うまい。イカ焼きに関しては揚げたり味噌汁に入れても美味かった。』
 ユズから出てくるアレンジレシピの多さに目を剥きそうだ。ユズって自炊とかちゃんとしてそうだから、屋台飯なんて食べたことないと思ってた。
「へえ、結構屋台飯のアレンジとか知ってるんだ。祭りとか行ったことあるの?」
『……まあ、何度か。』
 祭りは大盛況で終わったらしい。
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