ポータルズ -最弱魔法を育てようー

空知音

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第九章 異世界訪問編

第10話 ホーム・スィート・ホーム

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 俺が翔太とヒロ姉を連れ、竜人国から真竜廟に帰った翌日。

 いよいよ、みんなが、真竜廟を去る時が来た。
 子竜たちのことがあるので、定期的にここを訪れる事を考えている。

 それでも、長く一緒に過ごした母親役の三人は、子竜と離れがたい気持ちがあった。
 見ていてそれが分かるので、こちらも辛い。

 竜王様の部屋でお別れの食事会をする。
 俺たちは部屋の中央に車座になり、母親役の三人の両脇には、中ぐらいの子竜と小さい子竜が並んでいる。

 ルル、コルナ、コリーダは、子竜に話しかけながら、食べ物を分けあたえている。

 ナルとメルも子竜と別れるのが辛いらしく、子竜それぞれに話しかけている。

 ミミとポルも、名残惜しそうに子竜を撫でている。

 不思議なのは、一番長いこと母親役と一緒にいた大きな子竜たちが、ゆりかごの部屋から出てこないことだ。

 俺が心配になって見に行こうとすると、なぜかナルに止められる。

「パーパ、あそこに入っちゃダメ!」

 どういうことだろう。俺が不思議に思っていると、部屋の扉が開いた。
 三人の子供が出てくる。三歳くらいに見える。

 俺たちは、何が起こったか分からず、呆然としていた。

 子供たちは、ルル、コルナ、コリーダのところまでよちよち歩いて来ると、それぞれ彼女たちにさばりついた。

「まんまー」
「まんま」
「まーま」

 驚いた顔の三人が、さっと子供を抱えあげる。
 ナルとメルが、「やったー!」と叫んでいる。

 俺は何が起きたか、やっと理解した。
 ナルとメルが、大きな子竜に、人化を教えたんだね。

『ふむ、人化をマスターしよったな』

 竜王様も、感心している。
 天竜族の成龍でも、できるものとできないものがいるくらいだから、人化がそれほど簡単なわけがない。
 三体の子竜は、母親恋しさに、その困難を乗りこえたのだろう。

 ルル、コルナ、コリーダは、それぞれの子竜に頬ずりしている。
 三人とも、その頬が涙に濡れている。

 俺は、彼女たちが子竜から離れるまで待った。
 三人は、俺が出した布を子供姿の子竜に巻きつけている。

『さあ、もう行け。
 こうしていると名残惜しさが募るばかりじゃ』

 竜王様の念話が俺たちに入る。
 体を震わせ泣いている、ルル、コルナ、コリーダを連れ、部屋の奥に移動する。

「まんまー」
「まんま」
「まーま」

 子竜の声が、俺たちの心を引きとめる。

 俺は心を鬼にし、セルフポータルを開いた。

 ◇

 アリストの自宅に帰って二三日は、ルル、コルナ、コリーダともふさぎ込んでいた。

 彼女たちを元気づけたのは、他でもなくナルとメルだった。
 三人を子供部屋に招くと、そこでお話したり、一緒に寝たりしていた。

『(*´з`) ご主人様は、こんなとき役に立ちませんねー』

 いや、俺もできることはやっているんだよ、点ちゃん。
 ただ、ナルとメルには敵わないだけ。

『(・ω・) 負けを認めちゃってるよ』

 悔しいけど、そうなんだよね。

 その間に、俺はヒロ姉をマスケドニアに、ミミ、ポル、翔太をケーナイに送った。

 マスケドニアでは、母親の顔を見るなり「母さん、ちょと聞いてよ。史郎君ったらひどいのよ」と言いだしたヒロ姉が、またおじさんの拳骨をくらっていた。
 まったく、反省してんのかね、ヒロ姉は。

 ケーナイでは、翔太のことをピエロッティに頼んでおく。
 彼なら、翔太のいい先生になるだろう。

 エミリーの件に関しては、コルネが神樹様に報告するため狐人領に帰っている。
 何をするにしても、コルネがケーナイに帰ってきてからのことになるだろう。

 二人を送りとどけ、アリストに帰ってきた史郎は、どうやってルル、コルナ、コリーダを元気づけようかと考えていた。

 ◇

 その日、夕食後、ルル、コルナ、コリーダは史郎から屋上に来るよう言われた。

 三人が屋上に出てみると、そこかしこにロウソクが灯されており、それが花壇の花々を浮かびあがらせ、幻想的な光景を作りだしていた。
 どこからか、かすかな楽の音が聞こえてくる。

 史郎は、昇降口から遠いあずま屋の前にいた。

「三人とも、言われたものは持ってきたかい?」

 彼からそう言われ、ルルは、頷いた。でも、なんでこんなものをこんな所で?

「こちらに来てごらん」

 史郎は、三人を奥のあずま屋の中に案内した。
 そこにも灯されたロウソクがいくつかあり、温かい空間を作りだしていた。
 いや、温かいのは気のせいでは無かった。

 ルルがいつか見た、おわん型の入れ物には湯が張られていた。
 お湯には良い香りを放つ、ドラゴニアの果物が浮かんでいた。

「さあ、それに着替えて、湯船に入ってごらん」

 三人が、持ってきたものは、水着だった。
 コリーダは、水着を持っていなかったので、史郎が前もって仕立てさせ、昨日渡しておいた。

 三人があずま屋に入った時点で、そこは足元から人の背丈ほどの黒いシールドで覆われる。
 彼女達は、水着に着替えると、お湯につかった。

 三人が湯船に身を沈めると、体の周りのお湯が泡だつ。

「シロー、これはいったい?」

 ルルの声には、史郎が念話で答えた。

『それは、俺の世界でくつろぐときに使われるお風呂なんだよ。
 ジャグジーバスといって、泡が出るお風呂なんだ』

 彼の念話を受けとった三人は、最初の驚きから一転、泡の気持ちよさを味わっていた。
 身体に当たる泡で、ふわふわと雲の上に浮いているような心地がする。
 穏やかな楽の音が流れだした。
 さっき三人が聞いていたのは、この音楽だったらしい。
 音は、はあずま屋の天井から降ってくる。

 湯船の横に現れた小さなテーブルの上には、よく冷えたグラスに白いものが入っていた。
 コルナが、添えてあるスプーンで、一口食べる。

「おいしい!」

 それは、史郎が地球から持ちかえったジェラートだった。
 もちろん三人は、その名前など知らないが、彼が自分のことを気遣ってくれているだけで十分だった。

 三人は、目を見合わせ、手にアイスクリームのグラスを取ると、それを目の高さに持ちあげて微笑みあった。
 穏やかな気持ちで、泡に揺られるルル、コルナ、コリーダを、パンゲア世界の二つ月が見守っていた。
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