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第九章 異世界訪問編
第27話 散歩
しおりを挟むポンポコ商会地球支店、異世界通信社のメンバーに家族を紹介した俺は、家族と仲間を連れ、『地球の家』に帰ってきた。
エミリーとハーディ卿も、客室に滞在している。
翔太は、畑山家に置いてきた。
「じゃ、みんな用意はいいかな」
俺の家族は、今日、地元高校からの招待を受けている。
地球に帰ってきてすぐに『初めの四人』の恩師、林先生から連絡がり、依頼を受けたのだ。
俺が購入した『地球の家』の土地は、高校がある町の郊外にあるから、散歩がてら家族に故郷を紹介しよう。
皆は、異世界にいるときの普段着だ。これは、林先生からの要望でもある。
「お兄ちゃんの故郷ってどんなのか、楽しみね」
「そうね、コルナ。
私も楽しみだわ」
コリーダは、すっかり家族と打ちとけたようだ。
「パーパ、どこにお出かけするの?」
「美味しいお店ある?」
ナルとメルは、楽しそうだ。
俺は、ルルに地球の紙幣を渡した。これは、昨日、サブローさんから渡されたものの一部だ。
「シロー、この紙の束は何です?」
ああ、そういえば、彼女はこれ見るの初めてだったね。
この前、東京に行ったときは、カード払いだったから。
「これは、この世界のお金だよ」
「えっ!?
ただの紙がですか?」
「うん、その紙は、簡単には複製できない仕掛けがしてあるんだよ」
「こんなものに価値があるなんて、すごく不思議ですね」
ルルは、しげしげと一万円札を見ている。
同行を希望した、エミリーとハーディ卿も参加して、俺たちは町へと出かけた。
◇
五月晴れの下、俺たち一行は、町に向け郊外の道を歩いていた。
道端の花に、とまっている蝶々が、メルの目にとまる。
「パーパ、これ動いてるけど、やっぱりお花?」
そういえば、アリストには、蝶がいなかったな。
「メル、ナル、見ててごらん」
俺が蝶に手を伸ばすと、それはさっと宙に舞った。
「あっ!
お花が、飛んだ」
メルが手を伸ばすが、すでに蝶はずっと高いところを飛んでいた。
俺は、それを点魔法の透明な虫箱に捕え、二人の前に持ってくる。
「うわー、これ何?」
ナルが、目を丸くしている。
「これは、蝶々といって、花のように見えるけど、虫なんだよ」
「えーっ!
虫なのか」
ナルとメルは、目の前の透明な箱の中で羽ばたく蝶をじっと見ていた。
二人が満足すると、俺は箱を消し、蝶を逃がしてやった。
「さようならー」
「またねー」
娘たちは、空を舞う蝶に手を振っていた。
「リーダー、この道は何でできてるの?」
「ああ、ミミ、これは、アスファルトっていって、雨が降っても水たまりとかできにくくなってるんだ」
グレイル世界の道路は舗装されていないからね。
ポルがしゃがんで地面を触っている。
「なんか、硬いですね」
その時、宅配便のトラックが俺たちの横を走りぬけた。
「あの乗り物、『車』っていうんだけど、あの黒い足のような部分が滑りにくいようにもなってるんだ」
「へえ、よく考えられていますね」
「お兄ちゃん、あの乗り物は生きているの?」
「コルナ、あれは生き物じゃないんだ。
学園都市世界の卵型をした乗り物があっただろう。
あれの原始的なモノだと考えるといいね」
「なるほどねえ。
だけど、トーキョーってところには、うようよいたよね」
「ああ、あの町だけで、一千万人以上の人口があるから」
「シロー、一千万とは、どのくらい?」
コリーダも、興味を持ったようだ。
「一万の千倍だね」
「ええっ!
そんなに?
みんなどうやって住んでるの?」
「一つの家に住んでいることもあるし、たくさんの家が集まったビルに住んでいることもあるよ」
「そういえば、高いビルが沢山あったわね」
「この町は、小さいから、自分の家に住んでいる人が多いね」
ワンワンッ
「キャッ!」
ある家の門から、犬が顔を出してミミに吠えかかった。
「お、驚いたー。
犬人に似た動物ね」
まあね、だって犬だから。
俺たちは、あまり人通りがない昼前の道をのんびり歩いていった。
◇
「ちょっとこの店に寄ってもいいかな?」
俺は、ある店の前で立ちどまった。
「シロー、ここは、何の店ですか?」
ルルは、少し薄暗い店内が気になるようだ。
俺が説明しようとしたとき、店の中から、おばさんが現れる。
「おや、変わった格好のお客さんだね」
「あのー、俺、坊野といいます。
白神君には、『ポンポコ商会』がお世話になっています」
俺が立ちよったのは、白神酒造だった。
「えっ!
あんた、坊野君?
そういえば、小さいころの面影があるわ。
息子ともども、ウチの店が、本当にお世話になってるわ。
ありがとうね」
「白神君はいますか?」
「ああ、本店の方にいるわよ」
えっ?
本店?
「最近、川沿いにビルを建てたのよ。
今は、そっちが本店だから」
白神酒造は、順調に売り上げを伸ばしているようだ。
「頼まれてたお酒、そのうち持っていくって伝えてください」
「分かったわ。
それより、みなさん、ジュース飲んでいきなさいよ」
「ありがとうございます」
せっかくだから、それぞれに違うジュースを選んだ。
「ルル、ここはね、お酒やジュースを売る店なんだよ」
「凄いですね、こんなに種類があるなんて」
「そうだね、この世界は商品の種類が多いね」
「うわっ、何だこれっ!
苦くてシュワシュワする」
ポルが選んだのは、黒い炭酸飲料だ。
「暑いいときに、よく冷やして飲むと、すごく美味しいんだよ」
「へー、不思議な味です」
「なかなか、おつな味ですな」
リーヴァスさんが飲んでいるのはビールだ。
「おつな味だねー」
「うん、おつな味だねー」
ナルとメルが、さっそくリーヴァスさんの言葉をまねている。
二人が飲んでるのは、アップルジュースとオレンジジュースなんだけどね。
「お兄ちゃん、このジュース、味がしないんだけど」
「あ、それ水」
「もう!
からかったわねっ!」
コルナが、俺の頬っぺたをつねる。
「ふぁ、ふぁるかった。
はい、これあげるから」
「な、なにこれ。
濁った水たまりみたいな色だけど」
「とにかく飲んでごらん」
「今度、からかったら承知しないんだから」
コルナは、恐る恐る、ビンに口をつけた。
「あれ?
ミルクみたいな味がする。
なんか苦みもあるわね。
でも、すごく美味しい」
「それは、コーヒー牛乳といって、ミルクとコーヒーを混ぜたものだね」
「コーヒーって何?」
俺は、横にあった自動販売機でコーヒーを選ぶ。
「この飲み物だよ。
ここをこうやって開けて飲むんだよ」
俺が、プルタブを開けてやる。
「どれどれ……に、にがー!」
コルナの表情とリアクションが面白く、みんなが笑った。
「それ、苦みが美味いんだよ」
「はー、地球人は、凄いもの飲むんだねえ」
コルナが、残したコーヒーをみんなが、順に飲んでいる。
「シロー、私、これ好きかも」
そう言ったのは、コリーダだ。
「君が好きなら、後で買っておくよ。
きちんと淹れたコーヒーは、もっと旨いから」
「ありがとう」
俺たちは、色んな飲み物の味を楽しんだ。
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