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第十章 奴隷世界スレッジ編
第74話 報酬と感謝3
しおりを挟むマスケドニア王宮は、サザール湖に面している。
俺は王宮の船着き場に点ちゃん3号を出した。
「おおっ!
シロー殿、これは?!」
「陛下、いつか乗っていただいた、飛行艇がありましたよね。
それを船の形にしたのがこれです」
「おう、これは素晴らしい!
これは売りものではないのか?」
「残念ながら、これは俺が乗ってないと動かないんです」
「うーむ、くれぐれも残念だ。
ぜひ欲しいがのう」
最近建造した巨大な帆船があるのに……マスケドニア王には子供のような所もあるんだね。だから、余計にモテるんだろうけど。
「これと同じものは無理ですが、その内に何か考えておきますよ」
「おおっ!
必ずだぞ!
絶対に約束を守ってくれよ!」
「へ、陛下、その辺で……」
周囲に立つ貴族の目が気になったのだろう。ショーカが口をはさむ。
「では、陛下、ショーカさん、また近いうちに会いましょう」
「おお、近く、勇者とミツさんの結婚式を予定してるからな。
その時は、必ず連絡してくれ」
「……陛下、その話、アリスト女王には?」
「うむ、これから手紙を出す予定だが」
「その前に直接お話されることを進言します」
アリストとマスケドニアには、国王同士が直接話せる魔道具が設置されているからね。
「うむ。
お主がそのようなことを言うとは珍しいの。
分かった、そのようにしよう」
ふう、よかった。女王畑山がいきなり加藤結婚の話を聞いたりなぞしたら、下手をするとアリストがマスケドニアに再び開戦を告げかねなかった。
「ルル殿、その時は、ご家族も連れてまいられよ」
マスケドニア王がルルに声を掛ける。
「ありがとうございます」
ルルは優雅に礼を返した。
「ブラン殿もいらっしゃってください」
ショーカは目を細め、白猫の頭を撫でている。
「ミー!」(もちろんよ)
白猫が俺の額に肉球を当てる。
俺はショーカの耳に、地下組織が王宮内に潜伏させている者の名を囁いた。
「ど、どうしてそれを!?」
察しのいいショーカの事だから、その内、ブランが持つ能力に気づくだろうけどね。
◇
「来るときは、思わぬ邪魔が入ったからね」
帰りは点ちゃん1号にする予定だったが、来るときは途中で加藤に邪魔されたから、再び船旅を楽しむことにしたのだ。
俺は点ちゃん3号を時速ニ十キロくらいでゆっくりと走らせた。点ちゃんは、ヒャッハーできなくて残念がっているが、ここは我慢してもらう。
王宮の船着き場を出てから二時間ほどしたところで、雲行きが怪しくなってきた。小雨が降ってきたと思ったら、すぐに本降りとなった。
俺とルルは、点ちゃん3号の甲板から中層に降り、お茶を楽しむことにした。
せっかくの機会だから、ドラゴニアで手に入れた希少な竜王花のお茶にする。
ソファーでくつろぐルルに、鮮やかな赤色のお茶を出してやる。
「あ、この色と香り!
シロー、竜王花のお茶ですね?」
「うん、とっておきのにしてみたよ」
「おいしいっ!
お茶のいれ方では、もうシローに敵いませんね」
「ははは、ルルが喜んでくれるから、研究のかいがあるよ」
俺はルルがお茶のカップをテーブルに置いたタイミングで、思わず彼女の頬に触れる。
ルルの顔がピンク色に染まった。
「ルル……」
近づいた俺たちの顔は、ブランの鳴き声で止められてしまう。
「ミー!」(何か来るよ)
『(・ω・)ノ ご主人様ー、舟が近づいてきてる』
点ちゃん、いくつ?
『(Pω・) ええと、八艘ですね』
なるほど、ただのお客さんじゃなさそうだな。
恐らく、軍師ショーカが言ってた地下組織の連中だろう。
「ルル、攻撃を受ける恐れがあるから、ここにいてくれるかい?」
「はい、私も戦えるよう準備しておきます」
ルルはさっと奥の部屋に入っていった。冒険者の格好に着替えるつもりだろう。
俺は甲板に出て、敵の到着を待つことにした。
◇
地下組織、『赤い剣』のボス、チョウガは雨の中、甲板に立ち、遠見の魔道具に片目を着けている。
「視界は悪いが、こりゃ、こっちに有利だぜ。
英雄さんにゃ悪いが、白い魔獣と一緒に湖の底に消えてもらおう」
口髭を撫でたチョウガは低い声でそう言った。
彼らの世界では、やられたらやり返すのが掟のようなものだ。黙っていたら他の組織に舐められ、すぐに縄張りを奪われる。
「ボス、全部の班が、ヤツの船を確認しやした」
通信用の魔道クリスタルを手にした若い男が船倉から顔を出した。
「よし、ワシの合図で一斉に攻撃するぞ。
タイミングを合わせるよう伝えろ」
「へい!」
それまで低速で走っていた、標的が乗る白銀の船は、なぜかスピードを落とし停止してしまった。
相手がこちらの接近に気づいた可能性もあるが、こうなればこちらの思う壺だ。
チョウガは、肉眼で相手の姿を確認した。
頭に茶色の布を巻いた少年が、白い魔獣を腕に抱き、甲板に立っている。
「おい、おめえ、シローだな」
「ああ、そうだよ」
少年は、白い魔獣を撫でている。
そこには、どう見ても緊張がない。
荒事に慣れたチョウガは、それに違和感を覚えた。
「その白い魔獣のせいで仲間が騎士に捕まっちまった。
その魔獣とその船を寄越せ。
それで、命だけは助けてやる」
もちろん、本当は命など助ける気などないがな。
チョウガは、心の中でそう続けた。
「あんた、チョウガっていうんだろう。
今の言葉は、嘘だね。
『もちろん、本当は命など助ける気などないがな』
そう、考えただろう」
こ、こいつ!
ワシの考えてることが読めるのか?!
「そして、今はこう思ったな。
『こ、こいつ!
ワシの考えてることが読めるのか?!』」
間違いねえ!
こいつ、頭の中を読んでやがる!
「悪いが、この白いのは俺の家族だ。
お前になど渡すものか。
それから彼女は魔獣じゃないぞ。
ネコっていう動物だ」
少年のその声で、一声鳴いた白ネコが、彼の腕から甲板の上にぴょんと降りた。
チョウガの方にお尻を向けると、そのお尻を左右に振る。
ブランは尻尾がとても短く、そうすると、チョウガにお尻が丸見えだった。
「ミ、ミ、ミ」(ほら、ほら、ほら)
魔獣が、そんな声で鳴いた。
意味は分からないが、チョウガを馬鹿にしているのは明らかだ。
彼は部下が持っていた通信用クリスタルを奪うと、それに向け叫んだ。
「攻撃しろっ!」
船の甲板に出てきた部下たちが、筒状の魔道具を構える。
しかし、次の瞬間、全員が驚愕の声を上げることになった。
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