494 / 607
第十一章 ポータルズ列伝
プリンス翔太編 第7話 学院対抗魔術競技会(1)
しおりを挟むアリストとキンベラ、両国の威信をかけた学院対抗の魔術競技会が翌日に迫った。
競技会の開催地はアリスト国内北部にあるルンダスという町だ。
サザール湖という大きな湖のほとりにある。
ボクが住んでいるアリスト王城から見ると、北西の位置になる。
白い家並みのとても綺麗な町で、ボクは以前から来てみたかったんだ。
アリストが今の王国になる前は、ここに王宮があったそうだ。
日本で言えば、京都のような街かもしれないね。
大会の前日、ボクとルイは早めに現地に入り、町をぶらつき珍しいお菓子を食べたりした。
ルイはとても楽しそうだった。
ボクたちアーケナン魔術学院が使う宿舎は、昔の迎賓館とかで、ものすごく立派な建物だった。
ただ、とても古い建物だから、石の壁や床には、あちこちにひび割れや欠けたところがあった。
建物の石は、日本の大理石に似ていて、つるつるとした手触りだった。
夕方になると大きな部屋に出場選手や会場運営の生徒が集まって、みんなで食事した。
各学年の先生も一人ずつ参加していて、一回生の教師陣からは、ボクの担任マチルダ先生が来ていた。
城下町で食べられるものもあったが、見たことがない料理も多かった。
中国の餃子っぽい料理やシューマイっぽい料理もあって面白かった。
ただ、その味は、ボクにはちょっと塩辛すぎた。
食事の後は、大部屋で輪になり、先輩が過去にあった対抗戦の話をしてくれる。
下級生たちは、みんな真剣に話を聞いていた。
「そのとき、ヴィナスっていう先輩が巨大な水玉を作って、敵のディフェンスごとゴールをぶち抜いたって話しだぜ」
「凄いっ!」
「派手だなあ!」
どうやら、過去に大活躍した選手がいたらしい。
ルイがボクの袖を引っぱる。
「きっと、ショータ様なら、もっと凄いことができますよ」
彼女は、そう耳元で囁いた。
ボクはあまり派手なのは好きではないから、できたとしてもしないだろう。
先輩たちの話が一通り終わると、ボクらは男女別に広いお風呂に入り早めに寝た。
◇
試合当日は、絶好の魔術日和だった。つまり、晴れていて風も無い。
「では、選手入場です」
魔道具で拡大された案内役の声が場内に響きわたる。
ボクたちは、三列になって競技場の中に入った。
「まずは、東側入り口から、アーケナン魔術学院の入場です」
観客席から歓声と拍手が振りそそぐ。
競技場は横に長く、サッカー場にそっくりだった。
「次に、西側入り口から、タルス魔術学院の入場です」
チラリと横目で見ると、ボクたちの左側を青いローブを着た人たちが行進していた。
北側の客席前で、行進が停まる。
「では、各学院代表からの一言」
お立ち台に、青いローブを着た色白の男性が登った。
顔だちは整っているけれど、口の端が片方、キュッと上がっている
顔の半分で笑っているんだろうか、それとも最初からあんな顔なのかな。
「諸君、今日は私の応援に来てくれてありがとう。
存分に楽しんでいってくれたまえ」
ええと、「私」じゃなくて、「私たち」だと思うけど。
ボクは、その人に何か違和感を感じていた。
後ろに立っているルイが小さな声で話しかけてくる。
「ショータ様、あれが例の元皇太子です。
エリュシアスって名前らしいですよ」
へえ、国王を辞めた後は、魔術学院の学生をやってたのか。
でも、話に聞いたような人だと、魔術を教えると危険なんじゃないかな。
元皇太子が台から降りると、ルイのお兄さん、スヴェンさんがそこに立った。
「私たちは魔術学院生徒として、恥ずかしくない競技を行います」
彼がよく通る声でそう言うと、観客席の皆が拍手した。
「それでは、続きましてアリスト国女王陛下からお一言があります」
それまでと違い、案内役の生徒の声が緊張しているのが分かった。
ボクたちから見て正面の観客席五、六列目にいるきらきら光るローブを着た女王陛下が立ちあがった。
それは、弟のボクから見てもすごく威厳がある姿だった。
「アーケナン魔術学院、タルス魔術学院の諸君、全力を尽くし、日頃の研鑽を思う存分に見せて欲しい。
両学院の健闘に期待する」
お姉ちゃんがそう言うと、会場が一瞬シーンとした後、すごい歓声と拍手が沸きおこった。
座るときに隣の太ったおじさんと握手したということは、あれがキンベラの国王かもしれない。
うちの学院の生徒たちもみんな拍手している。
ただ、隣に並んでいるタリス魔術学院の人たちは、なぜか暗い顔をして俯いていた。
「では、選手は、各控室で待機してください」
進行役の声で、ボクたちは競技場から外に出た。
◇
競技は、基礎能力を競う学年別対抗戦と、判断力やチームワークを競う学院戦に分かれている。
先にある学年別戦は、一回生から順に行うので、控室でゆっくりする間もなく、ボクは競技場に向かった。
一回生の三人が競技場入り口に着くと、案内役の学生が場内中央あたりまで誘導してくれた。
競技場の地面は、白っぽい土でできていて、そこに緑の線が引いてあった。
よく見ると、線は緑の布を帯状にしたもののようだ。
ボクたち三人は、緑の線に沿って五メートルくらい離れ、等間隔に並んだ。
その隣にタルス魔術学園の一年生三人が、やはり同じように並ぶ。
緑の線に沿って、六人が一列に並んだことになる。
ボクたちの右手に当たる観客席から、応援の声が聞こえる。
「ショータ君、がんばってー!」
あれはジーナだね。隣に立ったドロシーが、「全員を応援しなさいよ、全員を!」って怒鳴っている。
「ショータくーん、勝ったらキスしたげる~!」
ララーナさんの応援に、ボクは顔が熱くなった。
「「「がんばれー!」」」
一回生男子クラスメートの声も聞こえる。
審判らしい、白いローブを着た四十才くらいのおじさんが、競技の説明に入った。
この魔術競技会の個人戦に関しては、当日その場にならないと内容を教えてもらえない。これには、魔術の応用力をチェックするという目的があるそうだ。
今回の競技は次のようなものだった。
選手は、緑線の手前から水魔術の玉で的を狙う。
的には二種類あって、赤がアーケナン魔術学院、青がタルス魔術学院の得点になる。
ただし、一つの玉で落とせるのは、一つの的だけで、毎回新しい水玉を作らなければならない。
そして、水魔術に限って、防御に使っても構わない。つまり、ボクたちは、タルス側が、青い的を落とすのを邪魔することができる。
相手選手への直接の攻撃はできない。
ボクたちから、十五メートルくらい離れたところに、二十枚のカードがふわふわ浮かんだ。
きっと、競技サポート役の先生たちが、風魔術で浮かせているのだろう。大きさは、ちょうど葉書くらいだ。
赤いカードがボクたちの前、青いカードが対戦相手の前に浮いている。
防御するときは、相手より遠い的を守らないといけないから、工夫が要るだろう。
管楽器の音が、競技開始の合図だった。
ドロシーともう一人のチームメートが呪文の詠唱を終えると、自分たちの前にある赤い標的を狙って水玉を撃ちだしている。
ボクは少し考えて、ディフェンスを受けもつことにした。
青いマナを集めて水魔術を発動する。
目の前に直径一メートルくらいの水玉が浮かぶ。それをコントロールして、細長い板状にした。
青いカードが並んでいるところにそれを移動させる。
当然、相手の水玉は、ボクが作った水の「盾」にぶつかるだけで、カードまで届かない。
その間にも、ドロシーたちが、一つずつ赤い標的を撃ちおとしていった。
赤いカードが全部地面に落ちると、また管楽器が鳴らされた。
「競技終了!」
魔道具を通して、拡大された声が場内に響く。
青いカードは九枚が空中に残っていた。
横を見ると、まっ青になったタルス学院の生徒が、両手両膝を地に着き震えている。
これは、魔力不足に陥ったときに見られる症状だ。
ボクはすぐに、三人に治癒魔術を施した。
魔力の枯渇が治るわけではないけれど、症状は軽くなるからね。
三人は、ほどなくして担架で運びだされた。
ドロシーともう一人のチームメートは、飛びあがって喜んでいる。
観客の方を見ると、なぜかそちらは、シーンとなっている。
その中から、元気のいい声が聞こえてきた。
「ショータ、すごーい!」
「すごーい!」
声がした方を見ると、銀髪のとても美しい少女が二人、観客席から立ちあがって、こちらに手を振っている。
二人はナルちゃんとメルちゃんで、シローさんの娘だ。
二人の横には、ボクもよく知っている綺麗な女性が三人並んで座っていて、その横には白猫を肩に乗せたシローさんがいた。
やっぱり、来てくれてたんだね。ボクと目があうと、にっこり笑って頷いてくれた。
それを目にしたボクは、心の底から喜びが沸きあがってきたんだ。
0
あなたにおすすめの小説
神は激怒した
まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。
めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。
ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m
世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?
くまの香
ファンタジー
いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる