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第十一章 ポータルズ列伝
プリンスの騎士編 第1話 騎士たちの異世界旅行
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ここは地球世界日本、近畿地方にある小都市。そこにある人気のカフェ『ホワイトローズ』は閉店の札を戸口に掛けていたが、その中では四人が約束の時間を待っていた。
「あー、楽しみだな~」
褐色の髪をツインテールにした、セーラー服の女子高校生が、テーブル席で声を躍らせる。
猫の顔をかたどった緑の髪留めが揺れる。
「もう、緑ちゃん、遠足じゃないのよ」
カウンターを拭きながら、鍛えられた長身のマスターが浮ついた少女をたしなめる。
ところで、彼は「緑」と呼んだが、この少女の名前は「緑」ではない。いわば、あだ名のようなものだ。「緑」という名はこの少女が「緑騎士」と呼ばれているところから来ている。つまり、あだ名のあだ名のようなものだと言える。
緑騎士は白騎士に咎められたのが不服らしい。
「白騎士は、どうもお母さんっぽいのよね~」
「姉さん、私、白騎士がお母さんなんて絶対イヤ!」
そう言ったのは、「緑」と呼ばれた少女にそっくりの女子高生だった。セーラー服も同じなので、二人を区別するのは、一見すると髪留めの色だけだ。
こちらの少女もツインテールを猫の髪留めでまとめていたが、その色は黄色だった。
細かく見ると、ネイルの絵柄やスマートフォンに着けたアクセサリーが異なるのだが、外見は本当にそっくりな二人だった。
「黄ちゃん、その言い方だと、白騎士が可哀そうでしょ」
そう言ったのは、カウンター前のストールに座っている小柄な女性だ。問題はその服装で、いわゆる魔法少女の格好をしている。白とピンクのひらひら衣装の足元は、白いニーソ、赤いエナメルの靴を履いている。頭には白いベレー帽を載せていた。紅茶が香るティーカップの横には、先端にピンクのハートが着いた四十センチほどの魔法杖が置かれている。二十台後半から四十代まで、その年齢は見た目からだとはっきりしなかった。いわゆる年齢不詳というやつだ。
「桃ちゃん、ありがとう。
黄緑(きみどり)ちゃんは、冷たいわ~」
マスターが首を左右に振る。
「「黄緑って言うな!」」
セーラー服の二人が、ぴたりと声を合わせる。
その時、入り口の土鈴が鳴り、黒に近い紺色のスーツで上下を固めた、長身の女性が入ってきた。左手でえんじ色のキャリーケースを引いている。
「「黒騎士、こんちはー!」」
少女たちの声が、再び重なった。
「こんにちは」
少女から「黒騎士」と呼ばれた二十台後半だろう女性は、滑らかな動作で魔法少女の隣に座った。
宝塚の男役を思わせるシャープな顔の輪郭は、表情が動かない。肩までの黒髪が金髪なら、マネキンになぞらえることもできただろう。
「黒騎士、用意はできた?」
「できた」
魔法少女の問いかけに黒騎士は短く小声で答えた。
「桃騎士、準備は?」
「……私はいつでもオッケーよ」
魔法少女の顔に寂しそうな影がよぎったが、黒騎士はそれに触れなかった。
「私たちも、いよいよ異世界デビューね」
白騎士が、グラスを拭きながら片目をつむる。
「「デビューって、古~い!」」
二人の少女が、蔑むような目を白騎士に向ける。
「リーダーは?」
桃騎士が、白騎士に尋ねる。
「それが、まだなのよね。
大体、予定が今日の夕方ごろって大まかなものだったからねぇ」
「リーダーが帰ってくるのも、久しぶりよね」
黄色の髪留めを着けた少女が、感慨深げに言った。
「あら、最近帰ってきたのよ。
なんでも、向こうでバーベキューをするって。
お肉を買いにきたの」
「ええっ!?
どうして私たちに声を掛けてくれなかったの?」
緑色の髪留めを着けた少女が、不満げな顔をする。
「だって、プリンスは帰ってこなかったんだもの」
プリンスというのは、この五人の<女性>騎士が守るべき存在だ。
彼は小学六年生の男の子だが、現在、異世界の魔術学院に留学中だ。
そして、今日、騎士たちが「リーダー」と呼ぶ青年が異世界からやってくる。彼女たちを異世界旅行に連れていくためだ。もちろん、彼女たち五人にとり、この旅行における最大の目的はプリンスとの再会だ。異世界旅行も、彼女たちがリーダーにひつこく頼んで勝ちとったのだ。
「リーダーはどうでもいいけど、プリンスに早く会いたいわ」
引きしまった男らしい顔つきで、白騎士が女性らしい本音を漏らした。
「ほう、俺はどうでもいいと?」
突然、カウンターと客席の間に、のほほんとした顔の青年がすっと姿を現す。それはまさに、空間が人間を生みだしたように見えた。
青年はくすんだカーキ色の上下を着ており、なぜか頭に茶色い布を巻いていた。
「リ、リーダー……」
白騎士があ然とした顔をする。
彼はすでに何度かリーダーの瞬間移動を目にしているのだが、それが目と鼻の先で起こると、やはり常識が揺さぶられるのだ。
「「シローさん、こんちはー!」」
「歓迎!」
「おっひさー!」
二人の少女、スーツ姿の女性、魔法少女がそれぞれ青年に挨拶する。
「リーダー、白騎士は留守番役にしたら?」
魔法少女が、楽しそうな声でそう言った。
「ダ、ダメっ!
ねえん、シローちゃん、私だけ置いてくなんて言わないわよねぇ」
「「白騎士キモーイ!」」
「みじめ!」
仲間にこき下ろされ、マスターの目に涙が浮かぶ。
「連れていくよ、心配しないで」
それを聞いたマスターがカウンターから走りでると、青年に抱きついた。
「あーん、シローちゃん、ありがとう……」
「「白騎士、ますますキモイ!」」
セーラー服の少女二人が、かなり引いている。
「じゃ、みんな、家族にはきちんと伝えてあるね?」
五人が頷く。
「みんな、荷物を出して」
青年の前に、五人分の荷物が並べられた。
それは一瞬で消えた。
青年が彼の魔法的空間に荷物を収納したのだ。
彼の非常識な能力を今まで何度も目にしてきた五人は、それに驚かなかった。
「では、みんな輪になって」
シローと呼ばれた青年が、音頭を取る。
六人が手を繋ぎ、輪になった。
「じゃ、行くよ」
その声と共に、六人の姿がカフェ『ホワイトローズ』から消えた。
「あー、楽しみだな~」
褐色の髪をツインテールにした、セーラー服の女子高校生が、テーブル席で声を躍らせる。
猫の顔をかたどった緑の髪留めが揺れる。
「もう、緑ちゃん、遠足じゃないのよ」
カウンターを拭きながら、鍛えられた長身のマスターが浮ついた少女をたしなめる。
ところで、彼は「緑」と呼んだが、この少女の名前は「緑」ではない。いわば、あだ名のようなものだ。「緑」という名はこの少女が「緑騎士」と呼ばれているところから来ている。つまり、あだ名のあだ名のようなものだと言える。
緑騎士は白騎士に咎められたのが不服らしい。
「白騎士は、どうもお母さんっぽいのよね~」
「姉さん、私、白騎士がお母さんなんて絶対イヤ!」
そう言ったのは、「緑」と呼ばれた少女にそっくりの女子高生だった。セーラー服も同じなので、二人を区別するのは、一見すると髪留めの色だけだ。
こちらの少女もツインテールを猫の髪留めでまとめていたが、その色は黄色だった。
細かく見ると、ネイルの絵柄やスマートフォンに着けたアクセサリーが異なるのだが、外見は本当にそっくりな二人だった。
「黄ちゃん、その言い方だと、白騎士が可哀そうでしょ」
そう言ったのは、カウンター前のストールに座っている小柄な女性だ。問題はその服装で、いわゆる魔法少女の格好をしている。白とピンクのひらひら衣装の足元は、白いニーソ、赤いエナメルの靴を履いている。頭には白いベレー帽を載せていた。紅茶が香るティーカップの横には、先端にピンクのハートが着いた四十センチほどの魔法杖が置かれている。二十台後半から四十代まで、その年齢は見た目からだとはっきりしなかった。いわゆる年齢不詳というやつだ。
「桃ちゃん、ありがとう。
黄緑(きみどり)ちゃんは、冷たいわ~」
マスターが首を左右に振る。
「「黄緑って言うな!」」
セーラー服の二人が、ぴたりと声を合わせる。
その時、入り口の土鈴が鳴り、黒に近い紺色のスーツで上下を固めた、長身の女性が入ってきた。左手でえんじ色のキャリーケースを引いている。
「「黒騎士、こんちはー!」」
少女たちの声が、再び重なった。
「こんにちは」
少女から「黒騎士」と呼ばれた二十台後半だろう女性は、滑らかな動作で魔法少女の隣に座った。
宝塚の男役を思わせるシャープな顔の輪郭は、表情が動かない。肩までの黒髪が金髪なら、マネキンになぞらえることもできただろう。
「黒騎士、用意はできた?」
「できた」
魔法少女の問いかけに黒騎士は短く小声で答えた。
「桃騎士、準備は?」
「……私はいつでもオッケーよ」
魔法少女の顔に寂しそうな影がよぎったが、黒騎士はそれに触れなかった。
「私たちも、いよいよ異世界デビューね」
白騎士が、グラスを拭きながら片目をつむる。
「「デビューって、古~い!」」
二人の少女が、蔑むような目を白騎士に向ける。
「リーダーは?」
桃騎士が、白騎士に尋ねる。
「それが、まだなのよね。
大体、予定が今日の夕方ごろって大まかなものだったからねぇ」
「リーダーが帰ってくるのも、久しぶりよね」
黄色の髪留めを着けた少女が、感慨深げに言った。
「あら、最近帰ってきたのよ。
なんでも、向こうでバーベキューをするって。
お肉を買いにきたの」
「ええっ!?
どうして私たちに声を掛けてくれなかったの?」
緑色の髪留めを着けた少女が、不満げな顔をする。
「だって、プリンスは帰ってこなかったんだもの」
プリンスというのは、この五人の<女性>騎士が守るべき存在だ。
彼は小学六年生の男の子だが、現在、異世界の魔術学院に留学中だ。
そして、今日、騎士たちが「リーダー」と呼ぶ青年が異世界からやってくる。彼女たちを異世界旅行に連れていくためだ。もちろん、彼女たち五人にとり、この旅行における最大の目的はプリンスとの再会だ。異世界旅行も、彼女たちがリーダーにひつこく頼んで勝ちとったのだ。
「リーダーはどうでもいいけど、プリンスに早く会いたいわ」
引きしまった男らしい顔つきで、白騎士が女性らしい本音を漏らした。
「ほう、俺はどうでもいいと?」
突然、カウンターと客席の間に、のほほんとした顔の青年がすっと姿を現す。それはまさに、空間が人間を生みだしたように見えた。
青年はくすんだカーキ色の上下を着ており、なぜか頭に茶色い布を巻いていた。
「リ、リーダー……」
白騎士があ然とした顔をする。
彼はすでに何度かリーダーの瞬間移動を目にしているのだが、それが目と鼻の先で起こると、やはり常識が揺さぶられるのだ。
「「シローさん、こんちはー!」」
「歓迎!」
「おっひさー!」
二人の少女、スーツ姿の女性、魔法少女がそれぞれ青年に挨拶する。
「リーダー、白騎士は留守番役にしたら?」
魔法少女が、楽しそうな声でそう言った。
「ダ、ダメっ!
ねえん、シローちゃん、私だけ置いてくなんて言わないわよねぇ」
「「白騎士キモーイ!」」
「みじめ!」
仲間にこき下ろされ、マスターの目に涙が浮かぶ。
「連れていくよ、心配しないで」
それを聞いたマスターがカウンターから走りでると、青年に抱きついた。
「あーん、シローちゃん、ありがとう……」
「「白騎士、ますますキモイ!」」
セーラー服の少女二人が、かなり引いている。
「じゃ、みんな、家族にはきちんと伝えてあるね?」
五人が頷く。
「みんな、荷物を出して」
青年の前に、五人分の荷物が並べられた。
それは一瞬で消えた。
青年が彼の魔法的空間に荷物を収納したのだ。
彼の非常識な能力を今まで何度も目にしてきた五人は、それに驚かなかった。
「では、みんな輪になって」
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