ポータルズ -最弱魔法を育てようー

空知音

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第十二章 放浪編

第68話 ポータルを探そう(2)

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 くつろぎムード満点のカフェで、俺は若い女性から首筋に短剣を突きつけらるという、くつろぎの欠片(かけら)もない目に遭っていた。

「お前、なぜ禁足地の事を尋ねた?」

 短剣を突きつけている女性の目を見ると、並大抵の説明では納得しそうにない。
 親の敵(かたき)を見るような目つきしてるよ、この人。
 うーん、どうするかな。
 世界群の危機に関わる、なんて本当のこと言ったら、絶対に首を切られるよね。まあ、『物理攻撃無効』の加護があるから、それでもいいんだけど。

「実は、皇太子様から、禁足地の調査を依頼されてまして」

 シュテインは、この街で英雄視されているようだから、この理由ならどうだろう。

「えっ!?
 あんた、シュテイン様の知りあいなの?!」

 店長から「ナゼル」と呼ばれた女性が、口をポカンと開けるほど驚く。
 なんだ、これは?

「ええ、知りあいですよ」

 これは嘘ではないから、自信をもって答える。

「そ、それは済まなかった!」

 ナゼル嬢は慌てて短剣を腰の鞘に入れると、身だしなみを整えている。なぜ、ここで身だしなみと疑問に思ったが、つっこまずにおいた。

「禁足地は、私に案内させてくれ!」

 姿勢を正したナゼルは、深く頭を下げた。
 この豹変ぶりは、なんだろう?
 とにかく、それを利用させてもらおう。

「ええ、お願いしたいですが、まずはこれを飲んでからでもいいですか?」

 カウンターの上に置かれたグラスには、まだ半分ほどマラアクのジュースが残っている。

「も、もちろんですとも。
 マスター、私にも同じものを!」

 彼女が注文したとたん、カウンターに薄桃色のジュースが満たされたグラスが現われる。
 店長は、彼女が店にきてすぐ用意を始めていたのだろう。

「はい、いつものヤツね」

「あ、ありがとう!」

 そう言ったナゼルは、添えられたタンブラーでかき混ぜもせず、ジュースを一気飲みした挙句、派手にむせている。
 色っぽい女性がカウンター席から立ちあがり、そんなナゼルの背中を撫でる。

「もう、ナゼルちゃんは、そそっかしいんだから」

「げ、げはっ。
 オンデカさん、もう私は大人です!」

 むせたので、涙目になったナゼルが女性に抗議する。

「あらあら、大人はそんなにそそっかしくありませんよ、ナゼルちゃん」

 ついに頭まで撫でられたナゼルは、諦め顔になった。

「では、行きましょうか」

 ジュースを飲みほした俺が声を掛けると、救われたような表情になったナゼルが頷き、さっさと戸口へ向かった。

「ナゼルちゃん、ジュース代はつけとくよ!」

 店長の声で、俺は二人分の支払いを済ませ、すでに扉を開き外へ出たナゼルの後を追った。
 彼女は、目抜き通りを左へ早足で進んでいる。
 俺は歩幅を広げ、彼女を追った。

 ◇

 目抜き通りは、やがて円形の広場に出た。
 広場の中心には花壇があり、そこには石造りの立派な台の上に、石像が二つ立っていた。
 顔立ちの整った若い男性は、おそらくシュテインがモデルだろう。国の紋章を着けた服からもそれが分かる。
 それと並びたつのは若い女性の像で、その顔立ちには日本人の面影があった。その肩には小さな鳥のようなものが載っている。あれは何かな?
 台座に碑銘が彫られていたが、それは次のように読めた。

『皇太子と竜騎士、ヘルポリの街を救う』
   
 やっと後ろを振りむき、俺が石像を見ているのに気づくと、ナゼルが誇らしげに言った。

「凄いでしょ!
 皇太子と竜騎士、二人してこの街を救ってくれたのよ。
 凄くカッコよかったんだから」

「ナゼルさんは、二人の事を知っているんですか?」

「ええ、知ってるわ」

 彼女は石像を見上げながら、こう続けた。

「だって、二人は私の屋敷を守るために戦ったんだもの」

 ◇  

 街の中心にある石像のところでナゼルから聞いた、その言葉の意味が分かったのは、俺が彼女の屋敷に到着してからだった。
 彼女の屋敷は非常に大きく、一階の面積だけなら、王城の迎賓館ほどあるだろう。
 しかし、本当に注目すべきはその庭だった。
 巨木が生いしげるその庭は、竜の里にあった森を思わせた。

「これは凄いね!」

 二階の客間に通された俺は、窓から見える緑に圧倒された。
 これが街中の景色とは到底思えない。

 お茶の用意をするためにナゼルが部屋を離れている時間を利用し、神樹様から頂いた青い玉を出してみると、それは強い光を放ったままだった。
 つまり、この屋敷、いや、目の前にある森が目的地といういことになる。

 ナゼルは、なかなか戻ってこなかった。
 一時間ほどして、やっとお茶を手に戻ってくる。

「それで……皇太子様に頼まれて、ウチの庭を調べにきたそうですね?」

 ナゼルは、その勝気な目でじっと俺を見ている。

「ええ、そうです」

「何のためにですか?」

「それは言わないことになっています」

 本当は言わないんでなく、言えないんだけどね。嘘だから。
 ノックの音がすると、ナゼルが立ちあがり、ドアの所へ行く。執事らしき老人が彼女に何か囁いている。
 ナゼルは俺の方を向くと、カフェで見た刺すような目つきで俺を見た。

「あんた、どういうつもり!
 皇太子様の依頼なんて嘘をついて、タダで済むと思ってるの!」
 
 執事がドアを開けると、ワンドや抜き身の剣を手にした兵士たちが部屋へなだれこんだ。
 
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