ポータルズ -最弱魔法を育てようー

空知音

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第三章 学園都市世界アルカデミア編

第20話 調査隊出発

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獣人世界へ、調査隊が出発する日が来た。


普段、閑散としているギルドは、物資と人で溢れかえっていた。

調査隊20名の内、16名がポータル前に集合する。

今回は、慣れない人員も多く、緊張した顔をしている者が多い。

調査隊隊長カービンの持つシートが、ブザー音を立てる。

「では、これから、調査に出発する。
パンゲア世界のマスケドニア国を経由して、アリスト国へ。
アリスト国のポータルから、獣人世界へ向かう。
各自、学園都市からの許可証と、ギルド章を確認せよ。」

部屋の中に、カチャカチャという音が満ちる。

「調査隊、出発!」

カービンの声で、ギルドメンバーが、次々とポータルを潜る。

最後の一人、カービンがポータルを潜るちょうどそのタイミングで、四人の人影が部屋に入ってくる。

先頭は、シローである。
後の3人は、フード付きローブを羽織っている。

彼は、ポータルの横に立っていたマウシーに向かって頷く。
シロー以外の獣人が、次々に黒い渦に入っていく。
最後に、シローの姿がポータルに消えた、

マウシーは、自分の責任がある仕事が終わってほっとした。
ああ、そういえば、シローたちの許可証は調べなかったな。

今日は、早く家に帰って寝よう。
もちろん、寝る前に髭の手入れをして。


マウシーは、足早にポータルの部屋から立ち去った。

---------------------------------------------------------------

調査隊は、無事に獣人世界に着いた。


シローと3人の仲間は、ケーナイの町で調査隊と別れ、一路、南西へと向かった。

二頭立ての馬車を借りたため、3日後には、目的の村に着いた。

村の名前は、「ホリートリィ」。

神樹に因んで、付けられた名だ。

シローは、馬車から降りると、三人を引き連れて、ある場所に向かった。

それは、比較的大きな木造の平屋で、広場の横に建っていた。

三人の獣人が、ローブを脱ぐ。 

一人がミミなのはいいとして、もう一人は、テコだった。

そして、最後の一人は、なんと獣人ではなく、人族の女性ソネルだった。

「やっと、着いたわね」

ミミが、ほっとした顔をしている。

この四人の中で、実質的なリーダーは、彼女だった。
任務が果たせて、ほっとするのは当然である。

こちらに面した、建物の引き戸が開き、一人の獣人の女性が出てきた。

驚いたことに、その女性は猿人だった。

シローが前に出ると、女性が話しかけてきた。

「ええっと、確か、シローさんでしたか?」

「ははは、ジーナ先生。 ボクですよ、ボク」

シローが、くるりと一回転する。

ポンッ!

小さな音がして、シローの姿が消え、後には獣人の少年の姿があった。

「ポ、ポルナレフ様っ!?」

猿人の女性が、目を大きく見開いている。

それは、そうだろう。 

人が、一瞬で狸人になってしまったのだから。

声色から身長まで変わってしまうのだから、その能力の高さがうかがえる。

「これは、ボクの一族が持つ、秘密の力なんです」

そう。 これこそが、狸人たちが隠してきた秘密であり、それを知った人族に狙われた理由でもある。

ミミとテコは、すでにポルの変身を目にしたことがあるのだろう。
特に、驚くこともなかった。

一方、人族の女性の方は、ジーナ以上に驚いていた。

「シローさんじゃ、なかったんですね」

「ええ、騙してすみませんでした。 
シローさんからの指示だったんです」

「狸人には、そんな能力があったんですね」

「まあ、今回の計画が終われば秘密ではなくなるので、それまでは、誰かにしゃべらないよう、お願いします」

「それは分かりましたが、この場所は?」

ポルは、ジーナの方を向いた。

「先生、ここがどんなところで、今、あなたたちが何をしているか。
それを、この方に教えてもらえませんか」

「ええ、分かりました。 
ここは、かつて狸人族の集落があったところです」

ジーナは、ちょっと俯いて言葉を続けた。

「その住民を、猿人族が襲いました。
捕まった彼らは、全員、学園都市世界へ送られてしまいました。
その結果、誰もいない廃村になっていたのです」

ソネルは、当然、彼女が何を言っているか気づいた。
なぜなら、彼女自身が猿人を使って、獣人たちをさらわせていたからだ。

「今、ここには、少ないながら、狸人も戻ってきました。
狸人と猿人が、共存する村づくりが始まっているのです」

ジーナはそう言うと、広場、つまり、運動場に面した教室の引き戸を開けに行った。

歓声を上げて、子供たちが出てくる。

最初にジーナの周りに、それから、四人のお客さんの周りに集まりだした。

年齢も種族も異なる獣人の子供たちが、20人ほどいた。

「この子は、テコ。 
今日から、しばらく皆の仲間になります」

ポルが言うと、辺りに歓声が満ちた。

「テコです。 みなさん、よろしく」

「わーい! 何して、遊ぶ?」

「どっから、来たの?」

「名前は?」

「名前は、もう言ったよ」

テコは、すぐに子供たちに、もみくちゃにされる。

腕白な猿人の子供たちが、ミミの尻尾に触ろうとして、追いかけっこになっている。

ジーナは、両手両足に子供達が、ぶら下がっている。

それは、心温まる光景だった。

しかし、その光景を、全く違う視点から見ている者もいた。

ソネルである。

子供たちとジーナの姿は、まさに自分が理想としていた教師と生徒のものだった。

「!」

そう。 彼女は、気づいてしまったのだ。
今まで、獣人たちに己が行ってきたことを。

全身を震わせていた彼女は、地面にうずくまり、やがて号泣し始めた。

「ご、ごめんなさい・・ごめんなさいーっ!」

突然の彼女の行動に、遊びを止めた子供たちが、集まってくる。

「どうしたの?  大丈夫?」

「聖女様は、こうやって治してくれるんだよ」

狸人の女の子が、ソネルの背中に小さな手を当てる。

その手は、彼女にとって、断罪の焼きごてに他ならなかった。

「ああーっ!!」

さらに声を上げ、泣き出した彼女を、子供たちがてんでに撫で始めた。


ソネルの泣き声は、やがて運動場を越え、村へと広がっていった。
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