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第三章 学園都市世界アルカデミア編
第19話 それぞれの事情
しおりを挟む「ケーシー、助手の行方は、まだ分からんのか?」
賢人会議長ブラムは、苛立っていた。
「は、まだです」
「範囲が限られておるのに、なぜ見つからん?」
「あの区域は、極秘研究が行われる関係上、監視カメラ等を付けておりませんでした。」
まあ、それは当然だろう。
情報漏洩の恐れがあるものは、全て排除せねば。
「それから、学園からの報告があります」
学園からの報告など、重要度は低い。
ブラムは、一瞬、ケーシーの能力を疑った。
「黒髪の勇者が、現れたということです」
「なにっ!? ダンと言ったか。 奴ではないのか?」
「全くの別人で、少年のようです」
「そうか。 政府は、どうしている?」
「すでに、中央区への招待を決めております」
「ふむ。 何かに利用できるかもしれんな。 調査隊の方は、どうなっておる?」
「すでに、ギルドが調査隊を編成し終わっております。三日後には、獣人世界へ向け、出発の予定です」
さすがに、議長から目を掛けられるだけはある。 ケーシーの答えには、淀みがない。
「引き続き、助手の捜索を怠るな」
「はい」
ブラムは椅子を回し、窓から外を見た。クリスタルガラスごしに見える都市は、陽光をあび、キラキラ輝くダイヤモンドの様だった。手塩にかけて育ててきたこの都市を、何としても守らねばならん。
ブラムは、賢人会議長としての決意を新たにするのだった。
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普段、本格的な依頼が来ない学園都市中央ギルドは、突然の調査依頼に混乱した。
しかも、研究機関からの依頼である。ギルドマスターのマウシーは、ストレスで髪の毛が薄くなったほどである。
しかし、シローが加わってからは、あっという間に調査隊が編成された。獣人世界に必要な物資も、史郎が選別した。
マウシーは、初め、黒鉄の冒険者の能力を疑っていた。
しかし、調査隊編成の手際を見て、今では考えを改めていた。 黒鉄は、名前だけではない。
「シロー様、人員は20名ということですが、名簿には16名しか名前がありません」
だから、このように質問したのも、あくまで形式的なものだった。
「ああ、俺と仲間も参加するから」
そういえば、彼は他の三人の獣人と一緒に、この世界に来たのだったな。
「おお! 助かります。 シローさんが、ご一緒してくださるなら安心です」
「隊長は、カービンに任せてあるから、俺は手伝い程度だよ」
「それでも、安心感が違います。本格的な任務は今回が初めてという者が多いので、心配していたのです」
「まあ、カービンなら、うまくやるだろう」
カービンというのは、俺がこの世界に来た当初に出会った、義手のギルドメンバーである。
ちなみに、俺のパーティ4人が別行動してもよいと、すでに彼から了承を取ってある。
「三日後には、出発するから。 ああ、それと、当日俺はぎりぎりの到着になるから、すぐにポータルが利用できるようにしておいてくれ」
「はい、分かりました」
そうそう、マウシーの口ひげは、また元に戻っていた。
きっと、付けヒゲを探してきたのだろう。
『(・シ)』
お、点ちゃん、カッコいいね。 お髭が、ピンと立ってる。
『エへへへ』
そろそろ、忙しくなるから、また助けてね。
『わーい、また遊べるー』
相変わらずだな
自分の事は棚に上げる、史郎であった。
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パルチザンのダンも、多忙を極めていた。
今まで、首輪の故障によって記憶を取り戻した獣人達をかくまってきたが、今回は彼らにも働いてもらうことになる。
史郎の言葉を疑うわけではないが、ダンは、必ず何らかの危険はあると思っていた。
彼らの安全確保のため、いろいな装備や通信機器を揃える必要がある。
パルチザンの資金は、ここで全て使い切ってもいいと考えていた。
もし、今回の作戦が成功したら、パルチザンの存在理由は無くなる。
しかし、人手不足は、どうしようもない。
彼は、眠たいのを我慢して、壊れた通信機器の修理を行っていた。
ドーラが、食事や身の回りのことをやってくれるから、仕事に打ち込める。
彼女のためにも、何としてでも作戦を成功させねば。
ダンは、愛するドーラを故郷に帰すためなら、自分の命がどうなってもいいと考えていた。
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