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第三章 学園都市世界アルカデミア編
第29話 秘密施設の落とし物
しおりを挟む秘密基地を行政機関前の広場に下ろした後、史郎は内部を隅々まで調べて行った。
点ちゃんが、爆発物を処理したとき、いくつかの隠し部屋が見つかっていたからだ。
これだけ厳重に隠されていた秘密施設が、さらに隠さねばならない秘密とは何か。
隠し部屋のほとんどは、記録されたデータの保管に使われていたが、一つだけ、別の目的で使われている部屋があった。
そこには、カプセルが一つだけ安置されていた。
透明なシールドの下に浮かぶ顔は、彼が今までに見たことのない種族のものだた。
そして、見たことがないほど美しかった。
ほっそりした骨格。 白い肌。 すっと伸びた鼻筋。 金色に流れる髪。
何より特徴的なのが、その耳の形だった。
槍のように、横に突き出している。
アリスト王城の禁書庫で、その外見の種族についての記述を見たことがあった。
エルフ
エルファリアという世界の住人である。
彼は、熟慮の末、このエルフを自分が保護することにした。
この社会がもう少し落ち着いているなら、政府なり適切な機関なりに預ければよかったのだろう。
しかし、今、この世界は混乱の極みにある。
彼らに異種族を任せるのは、不安があった。
そのため、一旦アリストに連れ帰り、その後エルファリアに送ることにしたのだ。
エルファリアへのポータルは、確か獣人世界グレイルにあったはずである。
つまり、パンゲア(アリスト)、グレイル、エルファリアと移動することになる。
史郎は、アリストのギルドで、信頼できるパーティにエルフ護送を依頼してもいいと考えていた。
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裁判後、一か月が経った。
それぞれの仕事にも目処が立ったので、俺はエルフの目を覚ますことにした。
すでに、点ちゃんが適した治癒魔術を選んでくれている。
場所は、点ちゃん1号の中を選んだ。
ここのところ、退院した母親がいる宿泊施設に泊まっていたポルも、今日は参加している。
邪魔が入らないように、点ちゃん1号を上空へ。
カプセル内のあちこちが光る。
治癒魔術の光だ。
カプセルのうわぶたが、音もなく開く。
白いもやが、外に出てくる。
その中で、エルフの少女が半身を起こしていた。
少し、ぼーっとしているようだ。
俺は、用意しておいた、冷たい香草茶を差し出した。
彼女のきゃしゃな手が、重そうにそれを受け取る。
口元に付け、少しだけ飲む。
コホッ、コホッ。
コルナが、慌てて背中をさすっている。
「こ、ここは、どこです?」
エルフの少女の言葉は独特のイントネーションがあり、まるで歌の様だった。
「あなたは、今、アルカデミアという世界の学園都市に居ます。
その秘密施設の中に隠されるようにして、このカプセルが置いてありました」
俺は、彼女が入っているカプセルを指さした。
「ここは、エルファリアではないのですね」
「ええ。 別の世界です」
少女は、少し考え込んでいるようだった。
「あなた方は?」
俺は、詳しい事情は後回しにして、まず名前だけを紹介していくことにした。
ミミ、ポル、コルナ、加藤と紹介し、最後は、自分自身の番となった。
「改めて、初めまして。 俺は、シローと言います」
「えっ! あなたが、シロー……」
いかにも、俺のことを知っているような口ぶりは、なぜだろう。
そういえば、どこかで同じことが、あった気がする。
「私は、モリーネ。 助けてくれて、ありがとう」
毅然とした態度は、おそらく身分の高さから来るのだろう。
背筋がすっと伸びた姿勢が、余計にそう思わせる。
「なぜここに連れて来られたか、分かりますか?」
俺が尋ねると、モリーネは答えをためらっている様だった。
「……分からないわ」
何か隠している様である。
俺は、この場では、そこをつつかないと決めた。
「ところで、あなたは、エルファリアにお帰りになりますね?」
即答すると思ったが、彼女はしばらく考えた後、こう言った。
「あなたと一緒なら」
コルナが何か言うかと思ったけれど、彼女は黙ってモリーネを見ていた。
モリーネは、当然という顔で、俺の前に手を出す。
俺が、その手を取ると、ゆっくりとカプセルから出てきた。
立ちあがると、彼女の美しさが、さらに際立った。
白いワンピース越しにも分かる、滑らかな体の曲線、波打つ金髪、整った顔立ち。
それは、美を体現しているかの様だった。
思わず見とれていたポルの足を、ミミが踏んづけている。
まあ、これは、しょうがないよね。
俺は、モリーナをソファに座らせると、この世界の紹介をすることにした。
点ちゃん1号の壁を、透明にする。
彼女は、それほど驚いていないようだ。
「これが、学園都市世界です。
あの山脈から東の、白く光っている部分が学園都市で、山脈の西側は、人が住まない原生林となっています」
上空から見ても、原生林の真ん中あたりに、秘密基地があった跡が見えた。
「あの、穴のように見える場所に、秘密施設がありました」
彼女は、小さく頷いた。
「美しい世界ですね」
歌うような声が囁く。
史郎は、彼女が隠している事が何なのか、思いを巡らすのだった。
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