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第四章 聖樹世界エルファリア編

第25話 襲撃

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次の日、朝になってやっと落ちついたフェアリスの集落は、あちこちで明るい笑い声が聞こえていた。


俺はデロリンを崇拝者達から引っぺがし、土の家で朝食を作らせる。
彼はフェアリスの料理人に、神のごとく崇められている。
ちょっと油断をすると、すぐ取りかこまれて、身動きが取れなくなる。
まあ、デロリンが自信をつけられるなら、それでもいいけどね。

ただ、朝食の邪魔をされるのはいただけない。

俺、ルル、ナル、メル、コルナが食卓に着く。
今日は、インドのナンに似たパンと、ベーコン、野菜、ジュースの朝食である。
パンの上にベーコンや野菜を載せて食べるのだそうだ。
皆が、思い思いの具材をパンに乗せると、デロリンがソースをかけてくれる。

一口食べて、驚く。
ソースがマヨネーズっぽい味なのだ。

俺は、懐かしくてちょっと涙ぐみながら、パンを噛みしめた。
皆は、「珍しい味ねー」とか「初めての味ー」とか言いながら食べている。

ルルが、俺の様子に気づいたようだ。

「シロー、どうしました?」

「何でもないよ、ルル。このパンが、故郷の味を思いださせてね」

俺がそう言うと、彼女はニッコリ微笑んでこう言った。

「また、ニホンの話をして下さい」

その時、リーヴァスさんから念話が入った。

『シロー、聞こえてますか』

『はい。 何か起きましたか?』

『先ほど、グリフォンに乗った斥候が二人、上空に現れました』

『えっ! 攻撃して来ませんでしたか?』

『偵察に来ただけの様です。
ペースキャンプの上を旋回していましたから、攻めてくるのは、時間の問題でしょう』

『分かりました。 すぐそちらに向かいます』

『では、それまで警戒を怠らないようにしますかな』

『お気をつけて』

俺は念話を切ると、皆にベースキャンプにダークエルフの偵察が来たことを告げた。

デロリンと娘達二人を集落に残し、俺、ルル、コルナの三人で向かうことにする。

集落には、点魔法のシールドも張っておく。

長に出発を告げ、すぐにボードを用意する。
時間が無いので、広場真ん中を上空へ。

点ちゃん1号に乗りこむと、高度を上げ、一気にベースキャンプを目指す。
10分もかからずに到着した。

さすが、点ちゃん。本気を出すと物凄くスピードが出る。

『えへへ、まだまだ出ますよー』

まあ、中に人が乗ってるから、あれくらいで我慢してね。

『はーい』

俺は、1号を塀と家との間に下ろすと、すぐに屋内に駆けこんだ。

「おや、もう来たのですか。 こちらに向かう途中でしたかな?」

リーヴァスさんが、落ちついた様子で出てきた。

「いえ。それより、その後、奴らの動きはありませんか」

「まだ、ありませんね」

「恐らく、1時間もしないうちに、こちらに来ると思います」

「ほう。情報が入りましたか?」

「いえ。こちらに来るとき、上空から見ると、南東方向に敵の姿がありました」

「おお! そういうことですか。敵の陣容は分かりますか?」

「飛行型の魔獣が、20匹ほど見えました。 きっと、あれがグリフォンですね?」

「20匹ですか。なかなか厳しい戦いになりそうですな」

「とにかく、万一を考えて、皆には点魔法のシールドをつけておきます。
危険があれば、それが展開するようになっています」

「ふむ。 初めてのことですから、どうなるかわかりませんが、その辺はお任せしますよ」

「分かりました。 戦闘の指揮はリーヴァスさんに任せますから、よろしくお願いします」

戦闘が始まると聞いて、震えているチョイスに地下のシェルターから出ないよう言っておく。

次にルル、コルナ、リーヴァスさんの間に、念話のネットワークを構築する。
お互いに通じているのを確認すると、俺は二階の屋根に上がった。

ワイバーン達は、くつろいだ様子だ。
今朝、グリフィンが来た時は、五匹とも狩りに出かけていたらしい。
俺は彼らに、敵が攻めてくることを告げた。

もちろん、ナルやメルの様にワーバーンと会話することは出来ないから気休めである。
しかし、彼らの様子が少し変わったから、何かしら感じるものがあったかのかもしれない。

一匹に点を二つずつ付ける。今回は、空中戦になりそうだから、彼らの存在は大きい。


史郎は、監視用の点を空中に幾つか浮かせて、下に降りた。

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史郎は待機所にしてあるリビングの壁に、監視用の点からの映像を映した。


すでに、遠方に黒い点が見えている。あれがグリフォン隊だろう。

リーヴァスさんが、映像を見て指示を出す。

彼が左翼、ルルが右翼を受け持つ。 俺は、ルルのサポートだ。
コルナは、治癒魔術の使い手なので待機所で控える。

「お兄ちゃん、ルル。 気をつけてね」

戦闘に慣れていないコルナは、不安そうだ。

「大丈夫だよ。 安心してモニターを見ててね」

そう言って俺が微笑むと、少し不安が減ったようだ。


家と塀の間に立って、敵を待つ。すでに、飛行している魔獣が鳥型と分かるところまで近づいている。
それぞれのグリフォンの上には、全て人影がある。


あっという間に、上空から 敵が襲いかかってきた。

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敵の誤算は、地上だけに注意を払っていたことだろう。


遥か上空から、ワイバーンが急襲する。
あっという間に、5体のグリフォンが地上に落ちる。
さすがに、竜に次ぐ飛行型魔獣と言われるワイバーンである。

リーヴァスさんは、立っていた所から消えたと思ったら、空中にいた。
おそらく、塀を駆けのぼった勢いで、空中に飛んだのだろう。

一閃。 魔剣が青い光を引く。二体のグリフォンの首が飛んだ。
相変わらず、恐ろしい剣の冴えである。

ルルは、腰のポーチから、20cmくらいのナイフを数本取りだした。
左手に束ねて持ち、右手でその一本を抜くと、さっと投げる。
ナイフはクルクル回りながら、グリフォンに飛んでいく。

目標のグリフォンの目に突き刺さった。

「グエエッ」

グリフォンが、叫び声をあげ、空中で暴れる。
背中の人影が、地上に落ちてくる。
くるりと宙返りして、地上に立つ。

黒褐色の肌。やはり、ダークエルフだ。

風魔術の軌跡がこちらに飛んでくる。
きっと、「風刃」という魔法だろう。
風魔術の刃は、点ちゃんシールドに当たり霧散した。

そのダークエルフは驚いた表情をしたが、すぐに二発目、三発目の魔術を唱えた。
それが、最初の魔術同様に消えたのを見て、弓を構える。

ルルのナイフが届く距離ではなさそうなので、俺が前に出る。

おそらく「風弓」だろう、ものすごい勢いの矢が、風の軌跡を描きながらこちらに向かってくる。
俺は、シールドを張った掌で、それを受けた。

バシュ

矢が粉々になる。

弓を投げすてたダークエルフは、ものすごいスピードで、こちらに突進してきた。
足が動いていないから、移動用の風魔術だろう。

湾曲した刀を俺に叩きつける。俺はつっ立ったままだ。

「ぐっ!」

彼は、腕を押さえて刀を取り落とす。物理攻撃無効が効いたようだ。

この隙を逃すルルではない。彼女の投げナイフが、ダークエルフの両手両足に突きささる。

俺は、気を失った奴を点魔法で拘束しておいた。


振りかえると、さらに二体のグリフォンの首が落ちるところだった。
敵の半数が戦闘力を失ったことになる。

さすがに、敵が慎重にこちらをうかがうようになった。
リーヴァスさんの間合いに入らないような位置で、魔道武器を出そうとしている。

そこへワイバーンが、襲いかかった。魔道具が火を噴き、それがワイバーンを直撃する。
普通なら、そこでワイバーンがやられるのだろうが、彼らには点魔法のシールドがつけてある。
当然、直撃した魔法をものともせず、ワイバーンが敵に襲いかかる。

こうなると、敵はなす術もない。さらに5体のグリフォンが地に落ちた。

すでに5体のグリフォンとそれに乗った5人だけとなった残りの敵は、来た方向に向けて飛びさろうとした。
ところが、見えない壁のようなもの、つまりは俺のシールドに、進行方向を遮られてしまう。
透明な壁にぶつかって落ちるようなことは無かったが、彼らは敵に無防備な背中を見せてしまった。

ワイバーンが、すかさず襲いかかる。あっという間に全ての敵が地上に落ちた。
ワイバーンは、落ちたグリフォンを食べにかかったようだ。まあ、これは仕方がないよね。

俺達は、ダークエルフの拘束にかかる。すでに一人拘束しているからあと十九人だ。
そのうち、十七人はグリフォンが落ちた場所で動けずにいた。

残る二人は、案の定、研究者を入れた牢屋の所にいた。牢屋の横で、白目を剥いて横たわっている。
牢に触ると電撃が与えられるように、雷属性を付与しておいたからね。

俺が、戦闘終了を念話で伝えたので、コルナが外に出てくる。

「え? もう終わったの?」

いや、戦ってる方からしたら、それほど短いとは思わなかったけど。
コルナによると、戦闘は10分も続かなかったらしい。
戦闘中は時間感覚が変わるって聞いたことがあるけど本当だね。

俺は二十人のダークエルフの武装を解除し、その後、隠したものがないか、点ちゃんに調べてもらった。


服の裏側に通信機器を仕込んでいる者がいたので、それは点魔法で作った箱の中に入れておく。
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