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第四章 聖樹世界エルファリア編
第37話 前夜祭
しおりを挟むエルフ国の建国祭二日前、つまり、ダークエルフが大攻勢を仕掛けてくる二日前、王城では、前夜祭が開かれていた。
大広間に、ほとんどの王族、貴族が集まっている。人数が多いから立食の形を取っていた。
うちの家族からは、俺だけが参加している。
エルフ王が姿を現すと、部屋は静かになった。
「皆のもの、今夜は前夜祭だが、その前に大事な知らせがある」
陛下は、部屋の中をゆっくり見まわした。
「二日後、建国祭の日に、ダークエルフ達の攻撃がある」
すでに静かだった部屋の雰囲気が凍りつく。
「ダ、ダークエルフの攻撃!?」
「陛下! どういうことでしょう?」
「奴らは、一体どこにいたんだ!?」
部屋が騒然となった。
「静かに!」
陛下の威厳のある声が響く。部屋には再び静けさが戻った。
「ワシは、ダークエルフの侵攻を退け、彼らと対等の同盟を結ぶつもりじゃ」
国王の衝撃の発言に、先ほど以上に場が荒れた。
「陛下! 一体なぜ!」
「気でも狂われたか!」
不敬罪に問われてもおかしくない言葉が飛びかう。それが貴族達の動揺を如実に表していた。
「すでにこの国は、ダークエルフの人々と無縁ではない」
陛下の声が続く。
「この場にも、肌の色が違う同胞がいるはずじゃ」
陛下が大侵攻の話をしてから、何人かの貴族が懐に手をやっている。
通信用魔道具を触っているのだ。まあ、点魔法で全て機能を止めてあるけどね。
陛下が両手をパンと打ちならすと、部屋の中に悲鳴が起きた。
俺が点魔法で、貴族達に掛かったモーフィリンの効果を解いたからだ。
「ダ、ダークエルフ!!」
エルフとして、長年つきあってきた貴族の肌が急に黒褐色に変わって慌てている者、ダークエルフに恐怖して腰を抜かす者、反応は様々である。
近くに立っていたエルフが、隠していた短剣を陛下の首に突きつける。
「皆のもの、動くな! 動くと陛下のお命はないぞ!」
「マーシャル卿、お主は肌の色も違わぬのに、なぜダークエルフにくみするのじゃ?」
陛下は、落ちついた口調で男に話しかけた。
「私の娘は褐色の肌を持って生まれた。それが、どれほどあの子を苦しめたか……
娘が自由に暮らせる国を作るためなら、毒でも喰らおう」
俺は、二人の方にゆっくり近づく。
「き、貴様! 陛下が死んでも構わぬのか!」
俺は、黙ってそのまま歩みよった。
マーシャル卿は、剣を陛下の首に突きたてることはせず、俺の方にそれを突きだしてきた。
剣は俺のシャツを貫いただけに終わった。
ガキッ
「ぐうっ」
マーシャル卿の痛めた手から短剣が床に落ちる。騎士達が、彼を取りおさえた。
「シロー殿、言われた通りしたが、どうじゃ?」
「ありがとうございます。ダークエルフに通じた者が、だいたい分かりました」
俺は、通信機を隠していたエルフ達を点魔法で吊りあげ、部屋の隅に集めた。
ほとんどが、褐色の肌をしているが、中にはマーシャル卿のように白い肌の者もいる。
俺は、彼らの所に行くと、痛烈な言葉を浴びせておいた。
「あなた達は、肌の色が違っても差別されずに生きていく社会を作りたかったのだろうが、愚かにも程がある。
陛下こそ、その立場をものともせず、そういう社会を作ろうとされているお方だからだ。
あなた達は、自分の希望を殺そうとしたんだ」
褐色の肌の貴族達が、がっくりと座りこむ。
俺が騎士に合図をすると、全員を引きたてて連れていった。
陛下のことだから、極刑にはすまい。むしろ、ダークエルフとの友好に利用するかもしれない。
まあ、全ては大侵攻を凌いでからの話だけどね。
史郎は、一仕事終わってほっとしていたが、二日後の事を考えると、くつろげる気がしないのだった。
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中庭の点ちゃん1号に戻った史郎は、前夜祭で起こったことを皆に説明していた。
「隠れダークエルフは、もういないってこと?」
コルナが訊いてくる。
「いや、何人かはいるだろうね。ただ、クーデターを起こす力はもう無いだろう」
「シロー、ダークエルフの陣容は、分かっているのですか?」
「ああ、ルル。もう、分かっているよ」
俺は、上空から撮った王城周辺の映像を壁に映した。
「まず、南から魔獣を先頭に、2万人のダークエルフの兵士が来る」
ポルが、ゴクリとつばを飲みこむ。
「東からは、100人のグリフォン・ライダーが空から攻めてくる。
俺は、地図上を指さす。
「最後に、大型の魔道兵器を持った200人の魔術師が南東から来る。
彼らの魔術が、ダークエルフ侵攻の要だ」
「どのような魔術ですかな?」
リーヴァスさんの質問に答えるために、ダークエルフの地下施設で録画した映像を壁に映した。
巨大な火の玉がぶつかり、山が半分姿を消す映像は、現実とは思えぬほどである。
「これは……」
さすがのリーヴァスさんも絶句している。気が弱いポルは、耳がぺたりと垂れている。
「この魔術は、俺が対処します。皆さんには、むしろ、暴走したエルフ兵への対処をお願いします」
「お兄ちゃん、魔獣と2万人の兵士、それからグリフォン隊は?」
「グリフォン隊は、ワイバーンに任せようと思う」
「でも、100匹ものグリフォンを5匹のワイバーンでどうにかできるものなの?」
「うん。 計画があるから大丈夫」
「魔獣と2万人の兵士は?」
「それは、敵の魔術を利用しようと思ってる」
「敵の魔術って?」
「さっき見せた、『メテオ』っていう魔術だよ」
「あ、あれを何とかしようっていうの?」
「ああ、そうだよ」
「はー、相変わらずお兄ちゃんのやることは、凄すぎてよく分かんないわね。
とにかく、敵の魔術、魔獣、2万人の兵士はお兄ちゃんが一人で相手するってことね」
「まあ、そうなるね」
ルルは、俺を見て微笑んでいる。ま、信じてくれている人が居るからやれるでしょ。
「問題は、ダークエルフを抑えこんだ後に、エルフたちの行動を制御できるかだね」
「エルフが、降参したダークエルフに襲いかかるってこと?」
ミミが心配そうな顔で尋ねる。
「ああ、そうだ。ダークエルフへの偏見があるからね。恐らくそうなると思うよ」
「厄介ね」
「ああ、ダークエルフ達より厄介かもしれない」
「我々の出番は、そこですな」
「ええ。リーヴァスさん、頼りにしています」
その後、史郎とルルは、ナルとメルと一緒に二日後の打ちあわせをした。
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