230 / 607
第六章 竜人世界ドラゴニア編
第31話 草原でのボードサーフィン
しおりを挟むラズロー邸から、イオの家に帰ってきた史郎達は、加藤から襲撃の報告を受けた。
俺は、豚小屋に入れられた男を引っぱりだし、拘束を点魔法に代えておいた。
点魔法で、一人用ボードを出し、それに男を載せて近くの空き地まで運ぶ。
まだ目を覚まさない男は、明らかに両手と片足の骨が折れていた。
とりあえず、手足は後回しにして、体幹部だけ治癒魔術を施しておく。
「ぐぐぐっ」
うめき声を上げて、男が目を覚ました。魔術灯が、男の細面を照らしだした。
目の前に俺がいるのに、奴は素知らぬ振りをしている。
「ここに来た目的は何だ?」
史郎は、男が答えないと分かっていたが、儀礼的に尋ねた。男は、黙ったままである。
「しかし、コテンパンにやられたな」
「あの男は誰だ?」
おっ? しゃべったぞ。加藤には、興味があるようだ。
「お前は馬鹿か? この状態で、自分が訊きたいことだけ訊けると思ってるのか?」
俺は、感情のこもらぬ声を作った。
男が再び黙る。
かなり鍛えられた男だというのが分かる。手足の骨折はひどく痛むはずだ。それなのに、うめき声一つ漏らさないどころか、表情にも出していない。
「よく聞け。次にお前が俺の関係者に近づいたら、お前の命は無い」
俺は、足元の石を30mほど投げた。
「この距離を覚えておけ。この内側に入れば、死が訪れるぞ」
これは、冗談ではない。奴の身体には、言った通りに設定した点を着けてある。今はオフにしてある。
俺は、奴の骨折部分に添え木をすると、治癒魔術を掛けた。杖として使える枝切れも渡してやる。
「二度と俺達の前に現れるな」
俺は、男をそこに置いて立ちさった。観察用の点は奴の頭上1mに設定した。
イオの家に向かって数歩歩いて振りかえると、奴の姿は消えていた。危険な奴だ。加藤が居なければ、イオとネアは無事では済まなかったろう。
俺は、すぐに奴につけた点を起動しておいた。
史郎は、自分達が非常に細いロープの上に立っていると気づかされた。
-----------------------------------------------------------------------
翌日は、月に一度、商店街が休みになる日だったので、史郎とその仲間は各自が思い思いの過ごし方をしていた。
ルルは、竜王花のお茶について尋ねたいことがあるとかで、ラズローの所へ出かけた。リーヴァスさんも、同行している。
先日、ラズロー邸で竜闘の打ちあわせをした後、模擬刀を使った手あわせがあった。
ポンポコリンからは、リーヴァスさんが出たのだが、彼が余りに強いので、ラズローの下で働く若い衆ばかりか、ラズロー本人まで、弟子入りを希望した。
弟子は取れないが、と断った上で、今日は訓練につきあうことになっている。ミミとポルも、この訓練に参加する。
コリーダとリニアは、イオとネアの手伝いで、家事と明日からの商品の仕込みを手伝う。
加藤は、彼女達の護衛を買ってでてくれた。
俺は、ナルとメルをボード遊びに連れていくことにした。ボードでは師匠格である、コルナも一緒に行く。
史郎達四人は、竜人世界に転移した場所である草原に瞬間移動した。
-------------------------------------------------------------------
見覚えがある草原は、通り雨が過ぎた後なのか、地面が少し湿っていた。
空を見ると、遠くに巨大な雨雲が見える。この世界に来た時に上空から観察した台風かもしれない。こちらに来そうなら瞬間移動で帰ろう。そう決めて、四人分のボードを出す。
皆、ワクワクした顔でそれを受けとる。本当は三人分でいいのだが、ナルとメル、そして、点ちゃんがそれを許してくれなかった。
『(*'▽')v ご主人様ー、私もブイブイいわせたいです』
ブイブイいわせるって、どこで聞いたんだろう。
台地の端の方には行かないように打ちあわせて、ボードで滑りはじめる。微風が吹く緑の草原を、ボードで滑るのは爽快である。草が緑の波のように見える。
三人のボードは、複雑な軌跡を描いて、縦横無尽に草原を駆ける。
「うわー!」
「気持ちイー!」
ナルとメルが楽しそうだ。
三人程ボードがうまくない俺は、見失わないように着いていくのがやっとだ。
俺が疲れてきたのが分かったのだろう、点ちゃんは、待ちきれない感じだ。
『つ(・ω・) ご主人様……そろそろ』
いいよ。どうぞどうぞ。点ちゃんには、ずっと働いてもらってるからね。
『(^▽^)/ わーい!』
点ちゃんにボードのコントロールを渡す。
急に弾かれたように加速したボードが、一気に三人を追いこす。
コルナが何か叫んでいるが、俺には聞いている余裕すらない。
緑の絨毯の上を、物凄いスピードでボードは進む。ボードが風を切る音がする。
『(*'▽')b さあ、大技行きますよー』
悪い予感がしたときには、既に手遅れだった。
トップスピードで台地の端に突っこんだボードは、史郎とともに崖から飛びだした。
0
あなたにおすすめの小説
神は激怒した
まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。
めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。
ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m
世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?
くまの香
ファンタジー
いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる