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空知音

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第六章 竜人世界ドラゴニア編

第31話 草原でのボードサーフィン

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 ラズロー邸から、イオの家に帰ってきた史郎達は、加藤から襲撃の報告を受けた。

 俺は、豚小屋に入れられた男を引っぱりだし、拘束を点魔法に代えておいた。
 点魔法で、一人用ボードを出し、それに男を載せて近くの空き地まで運ぶ。
 まだ目を覚まさない男は、明らかに両手と片足の骨が折れていた。
 とりあえず、手足は後回しにして、体幹部だけ治癒魔術を施しておく。

 「ぐぐぐっ」

 うめき声を上げて、男が目を覚ました。魔術灯が、男の細面を照らしだした。
 目の前に俺がいるのに、奴は素知らぬ振りをしている。

 「ここに来た目的は何だ?」

 史郎は、男が答えないと分かっていたが、儀礼的に尋ねた。男は、黙ったままである。

 「しかし、コテンパンにやられたな」

 「あの男は誰だ?」

 おっ? しゃべったぞ。加藤には、興味があるようだ。

 「お前は馬鹿か? この状態で、自分が訊きたいことだけ訊けると思ってるのか?」

 俺は、感情のこもらぬ声を作った。
 男が再び黙る。
 かなり鍛えられた男だというのが分かる。手足の骨折はひどく痛むはずだ。それなのに、うめき声一つ漏らさないどころか、表情にも出していない。

 「よく聞け。次にお前が俺の関係者に近づいたら、お前の命は無い」

 俺は、足元の石を30mほど投げた。

 「この距離を覚えておけ。この内側に入れば、死が訪れるぞ」

 これは、冗談ではない。奴の身体には、言った通りに設定した点を着けてある。今はオフにしてある。
 俺は、奴の骨折部分に添え木をすると、治癒魔術を掛けた。杖として使える枝切れも渡してやる。

 「二度と俺達の前に現れるな」

 俺は、男をそこに置いて立ちさった。観察用の点は奴の頭上1mに設定した。
 イオの家に向かって数歩歩いて振りかえると、奴の姿は消えていた。危険な奴だ。加藤が居なければ、イオとネアは無事では済まなかったろう。
 俺は、すぐに奴につけた点を起動しておいた。

 史郎は、自分達が非常に細いロープの上に立っていると気づかされた。

-----------------------------------------------------------------------

 翌日は、月に一度、商店街が休みになる日だったので、史郎とその仲間は各自が思い思いの過ごし方をしていた。

 ルルは、竜王花のお茶について尋ねたいことがあるとかで、ラズローの所へ出かけた。リーヴァスさんも、同行している。
 先日、ラズロー邸で竜闘の打ちあわせをした後、模擬刀を使った手あわせがあった。
ポンポコリンからは、リーヴァスさんが出たのだが、彼が余りに強いので、ラズローの下で働く若い衆ばかりか、ラズロー本人まで、弟子入りを希望した。
 弟子は取れないが、と断った上で、今日は訓練につきあうことになっている。ミミとポルも、この訓練に参加する。
 コリーダとリニアは、イオとネアの手伝いで、家事と明日からの商品の仕込みを手伝う。
 加藤は、彼女達の護衛を買ってでてくれた。

 俺は、ナルとメルをボード遊びに連れていくことにした。ボードでは師匠格である、コルナも一緒に行く。

 史郎達四人は、竜人世界に転移した場所である草原に瞬間移動した。

-------------------------------------------------------------------

 見覚えがある草原は、通り雨が過ぎた後なのか、地面が少し湿っていた。

 空を見ると、遠くに巨大な雨雲が見える。この世界に来た時に上空から観察した台風かもしれない。こちらに来そうなら瞬間移動で帰ろう。そう決めて、四人分のボードを出す。

 皆、ワクワクした顔でそれを受けとる。本当は三人分でいいのだが、ナルとメル、そして、点ちゃんがそれを許してくれなかった。

 『(*'▽')v ご主人様ー、私もブイブイいわせたいです』

 ブイブイいわせるって、どこで聞いたんだろう。

 台地の端の方には行かないように打ちあわせて、ボードで滑りはじめる。微風が吹く緑の草原を、ボードで滑るのは爽快である。草が緑の波のように見える。
 三人のボードは、複雑な軌跡を描いて、縦横無尽に草原を駆ける。

 「うわー!」

 「気持ちイー!」

 ナルとメルが楽しそうだ。
 三人程ボードがうまくない俺は、見失わないように着いていくのがやっとだ。
 俺が疲れてきたのが分かったのだろう、点ちゃんは、待ちきれない感じだ。

 『つ(・ω・) ご主人様……そろそろ』

 いいよ。どうぞどうぞ。点ちゃんには、ずっと働いてもらってるからね。

 『(^▽^)/ わーい!』

 点ちゃんにボードのコントロールを渡す。
 急に弾かれたように加速したボードが、一気に三人を追いこす。

 コルナが何か叫んでいるが、俺には聞いている余裕すらない。
 緑の絨毯の上を、物凄いスピードでボードは進む。ボードが風を切る音がする。

 『(*'▽')b さあ、大技行きますよー』

 悪い予感がしたときには、既に手遅れだった。


 トップスピードで台地の端に突っこんだボードは、史郎とともに崖から飛びだした。
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