ポータルズ －最弱魔法を育てようー

第六章 竜人世界ドラゴニア編

第４６話 報復２

　舞台上に残っているのは、ジェラードとビガ、そして人質の女だけになった。　

　そして、竜舞台は、観客から飛び降りてきた黒竜族に囲まれている。最前列は、影一族だ。

　「これで、もうお前は逃げられない」

　ビガが、ジェラードに向けてニヤッと笑う。まさに、邪悪を絵にかいたような笑いだ。
　人質の首筋に、右手のかぎ爪を突きつけたビガが、左手を上げて合図すると、取りかこんでいる黒竜族の輪が一気に縮まった。

　影一族が、竜舞台への斜面をスルスルと上ってくる。そして、試合場に足を踏みいれた。

　キュキュキューン

　金属が立てるような、甲高い音が場内に響いたとたん、影一族の男達が消えてしまった。

　「ど、どういうことだっ！」

　ビガが叫ぶ。
　消えた影一族に代わり、黒竜族の最前列が竜舞台に上がる。

　キュキュキューン

　再びあの音が聞こえると、黒竜族の最前線にいた男達も瞬時に姿を消した。
　さすがに、その後ろの男達は、竜舞台へ上がる前に踏みとどまっている。

　ビガが、彼らに向かって吠える。

　「やってしまえ！」

　その気迫に押されて、最前列の足が竜舞台の上に触れた。

　キュキュキューン

　再び、最前列の竜人が消える。

　「ひ、ひーっ！」
　「た、助けてー！」

　黒竜族の男達は、恐怖に引きつった表情で、逃げだそうとした。

　「お前らっ！　
　　待てっ！」

　ビガが叫ぶが、誰も足を止めない。しかし、男達は逃げだすことはできなかった。
　なぜなら、竜舞台から１０ｍほど離れたところで、透明な壁にぶつかってしまったからだ。
　茶色い布を頭に巻いた少年が、見えない壁の前で戸惑う男達を投げとばしていた。狙いは竜舞台を支える土の斜面だ。

　「ぐあっ」
　「げっ」
　「ごっ」

　それぞれが、悲鳴を上げて土に突っこむ。雨で、柔らかくなった斜面に、身体の半分以上を埋めた男が気を失う。
　竜舞台は、その周囲から男達の手や足が生えた、巨大なオブジェと化した。

　「こ、これはどういうことだ！？」

　ビガが叫ぶが、答える者はいない。

　「ええい！」

　ぶち切れたビガは、右手のかぎ爪を人質の女性に叩きつけた。

　カキン

　固い音を立てて、それが弾かれる。

　「な、何だ？　どうなってる？」

　ビガは、答える者のない問いを繰りかえす。

　人質の女が、自分の髪に手をやる。

　カツラを取って現れたのは、ビガが敵と狙う人族の少年だった。