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空知音

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第六章 竜人世界ドラゴニア編

第47話 天竜

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 人質だと思っていた女が、一番憎い敵だと分かって、ビガは戸惑った。しかし、すぐに怒りと憎しみが、戸惑いを打ちけした。

 「貴様! 
  父の敵!」

 ビガが振ったカギ爪は、なぜか軌道を曲げ、少年では無く自分の左太ももを引きさいた。

 「ぐあっ!」

 竜舞台に仰向けになって、足を抱える。
 そして、あることに気づいた。

 「毒、毒が! 
  誰か、助けてくれ!」

 しかし、彼の叫びなど、誰も聞いていなかった。

--------------------------------------------------------------------

 竜舞台の上に立っているのは、史郎とジェラードの二人だけとなった。

 「へーっ。
  上手く化けたものだな」

 ジェラードが、俺に話しかける。

 「興味があるのは、そこかね?」

 まあ、いいけどね。

 ネアさんにつけた点の情報から、彼女が箱に入れられたのを知り、俺は彼女とお互いの位置を入れかえたのだ。
 変装は、あらかじめしてあった。化粧とかつらは、ルルとコルナが笑いながら整えてくれた。

 俺は、胸を圧迫する二つの詰め物を服の中から取りだし、転げまわっているビガの上に投げすてた。

 「ち、畜生! 
  見ていろ! 
  残り一人になっても、必ず黒竜族がお前を、そして、お前の家族を倒すぞ!」

 ふーん、そういう考え方もあるな。じゃ、ここにいる黒竜族は、全員消しておくかな。

 俺が、点魔法を発動しようとしたとき、頭の中に声が聞こえた。

 『おい、少年。
  それだけは勘弁してやってくれ』

 『あんた、誰だ?』

 『私は、天竜モースと言う。
  ただでさえ、数が少ない竜人じゃ。
  これだけの男性を失えば、黒竜族は滅びるやも知れぬ』

 なるほど、天竜か。
 横を見ると、ジェラードが、土下座スタイルで、頭を地に着けている。
 彼にも今のが聞こえたんだな。
そういえば、ナルとメルのお母さん竜が、竜族にはときどきテレパシーを持った者が生まれる、と話していたな。

 『こいつは、黒竜族が最後の一人になっても俺の家族に手を出すと言っていた。
  だから、こいつらを生かしておく理由はない』

 『そこを何とか頼む。
  お主からしたら、虫けらの様な存在かもしれぬが、我らは竜人をずっと見守ってきたのだ』

 『あんた、俺の事を知っているのか?』

 『ああ、神樹様から聞いておる』

 なるほど、そういうことか。

 『では、どうやってこいつらを見張る?』

 『竜の加護を持った者を攻撃したら、命を失う呪いを掛けておこう』

 『ここにいない黒竜族が、俺の家族を襲うかもしれないぞ』

 『黒竜族全員に掛けておこう』

 『俺の家族には、竜の加護をくれるのか?』

 『そうだ。
  それで、なんとか許してくれ』

 『俺の方でも安全策を講じるが、構わないか?』

 『個別に掛けるものなら、構わない』

 俺は、少し考えてから答えた。

 『いいだろう』

 少し時間をおいて、黒竜族の男達がぼんやりと紅く光った。
 光はすぐに消えたが、あれがきっと呪いだろう。

 俺は、黒竜族の男全員に点をつけておいた。設定は、家族から30mに近づくと、電撃で気絶するというものである。

 『白竜族のジェラードよ。
  この度の功績により、正式に白竜族の族長を名乗るがよい』

 『有難き幸せ』

 ジェラードは、すでに最敬礼しているので、それ以上動かない。

 『黒竜族の跡継ぎは、牢に捉えられているバロワという男にせよ』

 『ははっ』

 ジェラードが念話で応えた。

 『では、シローよ。
  近く迎えを寄こすから、待っていてくれ』

 『分かった。
  家族があまり離れないようにしておく』

 『すまぬな。
  では、またその時に』

 それきり、テレパシーは途絶えた。
 5分ほどお祈りの様なものをブツブツ唱えていたジェラードが、やっと立ちあがる。

 「ジェラード、天竜と話したのは、初めてだったのか?」

 「ああ。天竜祭に出られるのは、20歳からなんだ」

 天竜との会話が、よほど感慨深かったのだろう。

 ジェラードは、少しぼーっとした顔をしていた。

--------------------------------------------------------------------

 「おーい、ボー」

 加藤の声がしたから、そちらを見ると、右肩に三人、左肩に三人の気を失った黒竜族を担いだ彼の姿があった。

 「施設の中に、これだけ隠れてたぜ」

 「ご苦労さん」

 「お前、スカート姿、似合ってるな」

 加藤の声で、俺は慌ててズボンをはき、スカートを脱いで点収納に突っこんだ。

 気づくと顔を腫らした黒竜族の女が、加藤の後ろに立っている。
 すかさず、治癒魔術を付与した点を全身につけてやった。光に包まれ、女の顔が元に戻る。それは、竜闘で、加藤が戦った美しい娘だった。名前は、確か、エンデと言ったはずだ。

 「痛みが消えていく……」

 彼女は、驚いた声でそう言った。

 「おい、シロー。
  それ、お前がやったのか?」

 ジェラードの言葉が、ざっくばらんになっている。

 「ああ、そうだが」

 「信じられん。
  治癒魔術は、竜人では白竜族が一番なんだが、それほど強力な治癒効果は、誰にもマネできないぞ」

 「それぞれの竜人族で、得意なことがあるのか?」

 「ああ。
  黒竜族は、戦闘、特に近接戦が得意だ。
  赤竜族は、遠距離近距離両方それなりに得意だな」

 なるほど、竜闘自体が、黒竜族に有利になっていたわけだ。これからは、それも変わるだろう。

 「そうか。
  ジェラード、ところで青竜族は何が得意なんだ?」

 「青竜族か。
  彼らは、感覚、つまり、聴覚や視覚が優れている。
  特に嗅覚は並外れているぞ」

 ええっ! 青竜族の役所で、悪臭による攻撃がやけに効いたのはそういう理由だったのか。

 史郎は、青竜族のハゲたおじさんのことを思いだし、心の中で詫びるのだった。
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