ポータルズ -最弱魔法を育てようー

空知音

文字の大きさ
247 / 607
第六章 竜人世界ドラゴニア編

第48話 天竜の国へ

しおりを挟む


 竜舞台での出来事の後、黒竜族の族長はバロワとなった。

 彼は黒竜族の重鎮だが、ビギの専横に異議を唱え、長く牢に繋がれていた黒竜族きっての常識人だ。
 黒竜族は、四竜社の席までは失わなかったが、無期限で議決権が無くなった。
 青竜族は、3年間の議決権停止だ。

 しばらくの間は、白竜族、赤竜族の二族で議決を行うことになる。

 あの日、竜舞台にいた黒竜族は、全員牢に入れられている。四竜社で行われる、裁判のようなもので量刑が決められることになっている。

 ジェラードの話だと、ビガはおそらく追放処分になるだろう、ということだった。

--------------------------------------------------------------------

 事件の後、ポンポコ商会は、再び店を開けた。

 開店初日は、小雨が降る中、物凄い人が詰めかけた。

 「ミミちゃーん!」
 「ポルくーん!」
 「キャー! 
  カトー君がいるーっ!」

 竜闘の宣伝効果は絶大だった。特に、女性ながら大男と戦ったミミは凄い人気で、女性客の多くが握手を求めている。
 彼女は、この国における女性の意識向上に、大きな役割を果たしたかもしれない。

 しょうがないから、店の一角に握手コーナーを作った。ミミ、ポル、加藤は、そちらに控えてもらっている。

 イオ、コリーダ、俺は大忙しだ。
 リーヴァスさんも、試合を見に来たマダムから熱烈な(?)誘惑を受けている。誘拐事件後、ネアさんは、いつもリーヴァスさんの隣にいる。彼女がリーヴァスさんを誘惑してくる女性の方をきっとした目で見ているのが印象的だった。

 俺はというと、なぜか、皆が遠巻きに見るだけで、誰も声を掛けてこない。なんか、お客さんがちょっと怖がっている気がする。
 なんでだろう。

 ああ、そうそう。加藤が救ったエンデという黒竜族の女性も店を手伝っている。ただ、彼女は人前に出ることはせず、イオの家で、クッキーを焼くルルとコルナを助けている。

 ナルとメルは、お手伝いに目覚めたらしい。ときどき、失敗はするが、はりきってルルとコルナの手助けをしている。

 ネアさんの申し出で、家の前にある畑の一角に「土の家」を建てた。ここは、地上一階、地下一階にしてあるが、地上部分は、全てキッチンにした。
 今は、ここで商品を焼いている。

 地階は二部屋作ってあり、その一部屋に黒竜族の二人、リニアとエンデが住むことになった。二人とも、母屋にある風呂をとても気に入っている。俺が作った石鹸とシャンプーをしきりに褒めていた。

 そうこうしているうちに、7日があっという間に過ぎた。

--------------------------------------------------------------------

 その日は、未明からものすごい雨と風で、さすがにお店はお休みすることにした。

 久しぶりの休日に、みんなのんびり過ごしている。朝から入浴している者、自作のお菓子を食べている者、お茶を飲んでいる者、思い思いに休みを満喫していた。

 昼頃になり、更に雨風が強くなった。特に風は物凄く、この地の住宅がなぜ半地下になっているか、やっと納得がいった。人など簡単に飛ばされそうな強風が吹きあれる。

 天竜からのテレパシーが聞こえたのは、そんな時だった。

 『シロー、聞こえるか?』

 『ああ、天竜モースか?』

 『そうじゃ。
  言っておったとおりに迎えにきたぞ』

 『そうか。
  では、すぐに用意をするから、待ってくれ』

 『分かった』

 俺は、家族とリニアにすぐに念話で連絡した。皆が、母屋に集まってくる。天竜の国に行くメンバーは、あらかじめリーヴァスさんと相談し、決めておいた。
 俺、リーヴァスさん、ルル、ナル、メル、コルナ、コリーダ、ミミ、ポル、イオの十人だ。

 加藤は、黒竜族の女性二人とネアさんの護衛として後に残る。

 『用意はいいか?』

 再び、天竜からのテレパシーが聞こえる。

 『ああ、いいぞ』

 『家の外に出てみよ』

 風は大丈夫かなと思いながら、俺が一人で外へ出る。なぜか、風はピタリと止んでいた。
 新しく作った「土の家」と、母屋の間には畑があるのだが、そこに竜がいた。青っぽい鱗をもった竜で、ナルとメルの母竜にくらべるとかなり小さい。おそらく半分くらいの大きさだろう。それでも頭上まで5mほどの高さがあった。

 『では、皆で我の背に乗るがよい』

 天竜モースが、尻尾を母屋の入り口に向けていたので、俺達は、その尻尾を伝って背中に登った。広い背中は、十人乗ってもまだまだ余裕がある。

 『では、行くぞ』

 加藤、ネア、リニア、エンデの見送りを受け、竜は空へ舞いあがった。翅がそれほど動いていないのに、物凄いスピードで上昇していく。
 俺達は、雨雲を突きぬけた。身体が濡れないように、皆には、風防シールドを掛けてある。
 青空と陽の光が眩しい。

 天竜モースは、台風の目になっている部分に向かっているようだ。
 雲の切れ間から下に降りると、すぐ下に森に覆われた陸地が見えた。
 雲に隠された浮遊大陸ということになる。

 竜の背に乗った史郎達は、その大陸目掛け、降下していった。

--------------------------------------------------------------------
竜人世界ドラゴニア編終了  天竜国編に続く


しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?

くまの香
ファンタジー
 いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。

処理中です...