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15・作るの楽しい

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 留愛が居ないのは気になったが、多分ユースも一緒だから大丈夫だろう。と思い。荷物を運んでくれている人達に目を向けた。

 俺が選んだ調味料だ。
 人に運ばせるんじゃなくて、自分も運ばなきゃ。と荷を受け取っている人に「俺も運びます」と声を掛けると驚いた顔をされた。

 え、なんで? 俺だって運べるよ。
 そう思った時、ポンッと肩に手が乗り俺の耳元に口を近づけたアージェンが「時間は大丈夫なのか?」と訊いて来た。

 耳元の低音にゾクッと背筋は震えたが、そうだ時間!

 食材を確認してご飯を作るという使命を思い出し。荷運びをしている人達に謝ろうとしたが、その前にアージェンが俺の腰に手を回し建物の中へと促した。

 ええぇ……。何か一言声掛けなきゃ感じ悪く無い?……俺。
 それにしても何で耳元で喋るんだろう…。
 その声に反応してしまう俺もおかしいけどさぁ。





 厨房は食堂の隣りにあって、その隣りには保冷室。
 食材庫等も近くにあって、俺が選んだ調味料や食材はそこに運ばれた様だった。



 手を洗って厨房に入ると、五人の神官が作業をしていて俺に気付き手を止めて近づいて来た。
 五人が俺に恭しくお辞儀をし、挨拶をする。

 「この度は、神子様にお会い出来て光栄です。更にはお料理を伝授して……ぇと、もらえて…。ありがとうございます」

 あ、これ途中でセリフ忘れるパターンだ。

 「頭を上げてください。
 俺も急に厨房を使いたいなんて言って場を混乱させてすみません。
 俺の方こそ、慣れない厨房で色々教えて貰う事になるけど宜しくお願いします。
 あと神子様じゃなくて留輝と名前で呼んで欲しいです。
 二人居るからどっちか分からないでしょう?」

 「はははは、は、はいっ分かりました!あ、あのっそれでですね。
 大変、申し訳無いのですが……、時間的に厳しい物があり、先に作ってしまいました! 本っ当に申し訳ございませんっ」

 えー、待って?そんなに怯えないで欲しい。
 そして火の側から長時間離れないで?

 「いえいえ、そんなに謝らないで下さい。
 ところで、何を作ったのですか?」

 「牛煮込みスープです」

 「見せて貰って良い?」

 「はいっど、どうぞ!」

 サッと道が開かれ、挨拶していた神官さんの手がコンロの方を指し示す。

 おおっ、大きな寸胴鍋が一、二、…六つ並んでいる。
 中を覗くと、うん。水炊きだ。

 「これって、具材は何かな?」

 「牛肉と、人参、玉葱でじゅ。」

 うん。緊張してるんだね…。
 大丈夫、俺は大人だからスルーするよ。

 「味付けは?」

 「…砂糖、を少々」

 ここの人達はスープ、イコール砂糖なのかな?
 でも今回はナイスだ。

 「これに手を加えても?」

 「もちろんです!」

 言質取った。



 せっかく食材庫に運んで貰ったところ申し訳無いが俺は幾つかの調味料を運んで来て欲しいと頼んだ。

 後、余っている鍋があれば六つの鍋から均等に取り分けて貰う事。
 調味料足したら溢れるからね。

 そして調味料を合わせる大きめのボウル。

 その中に。
 ケチャップ、ウスター、コンソメ…と入れて混ぜて行く。

 混ぜようとした時に、神官の男の子がエプロンを差し出してくれた。

 おお、気が利く!そうだよな、白いヒラヒラだもんな、汚れたら大変だ。

 エプロン付けて袖を汚さない様に肩まで捲ったら、横からスっと戻された。

 何故? と横を見たらアージェンだ。

 アージェンの視線が厨房入口付近に立っていた男性二人に向くと、その二人は急いで入って来て「これを混ぜれば良いですか?」と訊かれたからお願いした。
 混ぜるのも大変だからな。



 六つの寸胴鍋から取り分けてもらうと、鍋は八つになった。

 その鍋に投入する予定の調味料を入れるボウルは、全部で四つ分だ。

 一つはアージェンが呼んだ男性が作ってくれた。

 残り三つのボウルを前にして、紙とペンが無いか訊くと、エプロンを渡してくれた男の子が自分のエプロンのポケットの中から出してくれた。

 出来る子だっ。
 っと、感動してる場合じゃ無い。

 受け取った紙に、調味料の名前とボウル一つ分の分量を書き込んで行く。

 「これを参考にあと三つ同じ物を作って、味は最初のボウルので確認してください。」

 こういうのは実際にやってみた方が覚え易い。

 出来たら鍋の中に均等に入れてねー。と声を掛け、挨拶の神官さんに他に出す物は無いか訊くとサラダが有ると言う。

 味付けは? と訊くと「油です…」と返って来た。

 「………。」

 また調味料を取りに行き、ボウルにマヨネーズ、ケチャップ、ウスターと入れて行き、レモンがあったからそれを切って絞ろうとしたら。
 横から伸びて来たアージェンの手によって握り潰された。

 お、おぅ。一瞬だな?
 いつの間に手袋取ったんだ?

 俺が呆気に取られている間に、誰かが混ぜ混ぜして、ピンクのドレッシングを完成させたようだ。

 何なの、この連携。



 寸胴鍋に調味料が投入されてたので味を確かめ、小麦粉でトロミを付ける。

 本当はバターで炒めたり、ワインで味付けたかったけど仕方ない。
 既に水炊きになってたんだ。

 そして小麦粉も取り上げられ、確認を取られながら皆が仕上げて行く。

 最後に砂糖で甘みを調整して完成した。

 「できた…。」

 すごい。
 寸胴鍋八つ分、およそ百二十食分だ。
 時間はギリギリお昼前。
 皆に拍手したい。
 出来上がった達成感で気分が高揚する。

 楽しい。

 ビーフシチュー " ふう " と、サウザンサラダだ。

 パンは毎日外注で届けて貰っているらしい。
 だからパンは美味しかったのか。

 …次からはもう少し余裕を持って教えられる様にしたい。

 皆に、俺に付き合ってくれてありがとう。と言うと恐縮されてしまった。

 むぅ…、普通に接して欲しいなぁ。

 その後、調理に携わったメンバーが何やら相談して寸胴鍋三つを運んで行った。



 それにしても留愛は何処に行ったんだろう? 午後からレクラムさんと会う予定だから、早目に昼食を済ませた方が良いんだけどな。
 どうしたものか。

 「ルア様なら中庭に。
 そちらに向かいますか?」

 「え、あ、うん」

 ああ、そうか場所が分かるんだっけ。
 それにしても俺の考えてる事よく分かったな。



 厨房の人達に「また宜しくね」と言って借りていた紙とペンを返し、アージェンと共に留愛の元へ向かった。




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