聖者は二人の騎士に愛される

桜歌

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少年篇

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 いつもより低い天井、いつもより小さいベッド。いつも一緒に寝ていた母さんがいない……。
 僕が寝てる間に神官達に連れて行かれた!? 慌てて身体を起こして……気付いた。
 ここはあの屋敷じゃない。母さんはもういない。

 と、ガチャっと扉が開いた。

 「ああ、起きてたのかい」

 白い髪に派手なハチマキのあの人だった。
 「飲みな」と緑色の液体を渡されて、シャッとカーテンが開けられた。
 眩しいっ、けど部屋の中が明るくなる。
 窓が開けられて、外の清浄な空気が入ってきた。
 気持ちいい。
 それをぼんやり見つめながら受け取った液体を飲む──

 「ッ~~!?!?!?」

 すっぱいっ!!

 なに? これ……? 口の中がきゅうぅぅってなるぐらい酸っぱくて、目がうるうるする。……赤スグリの実よりも酸っぱい……っ

 「栄養と疲労回復のジュースだ。残すんじゃないよ」

 よく分からないけど、残すなって言われたから頑張って全部飲んだ。酸っぱ過ぎて鼻水まで出てきた。

 「村長がアンタと会いたいってさ、話は出来そうかい?」

 そう言いながら、温かく湿った、柔らかい布で僕の顔を拭いてくれる。びっくりして「んんっ」って声が出たけど、顔がホカホカして、さっぱりして、気持ち良い。

 そんちょお……?

 ここでずっと寝てる訳にもいかないから僕は頷いた。





 そこで色々と教えてもらった。
 部屋の外から運んで来た椅子に座ってるのが〖村長〗。赤茶の短髪で、身体がすごく大きい。
 でも、怖い感じはしない。腕力はあるのに、その力で乱暴な事はしなさそう。そんな雰囲気。

 ここは、ヴァーストアース王国の端っこにある村で、〖クルホ村〗。ガーランド辺境伯という人が治めているらしい。
 それで、僕のことをガーランド辺境伯に伝えないといけないから、僕のことを分かる範囲で話して欲しいって。僕がここで暮らすのに必要なんだって。



 僕は自分の記憶を思い出しながら話した。
 二歳の時、父さんや母さんと暮らしてた場所が火で焼かれ、僕と母さんは乱暴な男達に知らない場所に連れて行かれたこと。

 そこで、僕達みたいに連れて来られた母子達が火で殺されたこと。

 薄暗い屋敷では母さんと二人きりだったこと。
 でも、母さんは毎日、仕事だと言って神官達に朝から夕方までどこかに連れて行かれたこと。

 毎日毎日、母さんが死んだら逃げるようにと、言われてたこと。

 ベッドから起き上がれない母さんに逃げるように言われたこと。

 山頂まで逃げたら、大きな泉に落ちたこと。

 僕は感情を消して、淡々と話した。
 だって、色々考えたり、思い出したりしたら、言葉が詰まって話せそうになかったんだ。

 話し終わったら、村長が「そんな事が……」って泣きそうな顔をしてた。そんな顔を見たら僕もつられて泣きそうになるから、見ないようにした。

 それで僕を助けてくれた人は、〖クルホ村の薬師ターニャ〗。この白髪で派手なハチマキの人だ。

 「村のガキ共はアタシの事を敬意を持って婆様ばばさまと呼んでるねぇ」

 ──僕を助けてくれた人は『婆様ばばさま』。









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