真夏のアンダルシアに行ったら46度の炎天下でバスケをやるはめになり死にかけた話

茉野いおた

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ひたすらにシュートを打つ

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暑い。死にそうに暑い。

酷暑のアンダルシアで、気温40℃超えの炎天下で、なぜかバスケットをしている。

ジーンズが脚にまとわりつき、乾き始めていたカットソーは再び汗でびちょちょになる。

日差しを防ぐための羽織っていたカーディガンは、脱いでまとめて荷物と一緒にコートサイドに置いた。

盗まれないかとか、スマホが熱でおかしくなっちゃわないかとかその時は考えたが、今となってはもうどうでもいい。日焼け止めを塗っていないことなんてさらにどうでもいい。とにかく暑くて、苦しくて、つらい。

汗が噴き出る。顔が腫れて、首筋が焦げる。それなのにシュート練習を繰り返している。

何の冗談だろう、いったいこれは。ダム、ダム、ダム。

男はティムと名乗った。

「バスケットなんて、中学の体育以来やったことがないよ」

「まずはボールの持ち方だ」

「ねえ、聞いてる?」

 ティムは淡々と一定のリズムで話す。

「バスケットのボールは、ショウコにとって重くて大きい。手におさまらないだろう? 重くて大きいことはとても重要だ」

「そうなの?」つい引き込まれる。

「これだけの重さと大きさのあるものを、指先だけで扱おうとするのは無茶だ。もっと大きいもの、もっと重いものを扱う気持ちが必要だ。そうすれば自然と、ボールを丁寧に体全体で扱える」

「大きいもの?」

「そう。僕は中学の時のコーチから『地球を持つように持ちなさい』と教わったことがあるよ」

Just handle it like a globe。繰り返すと、ティムはふたたび小さくうなずく。

「次はシュートフォームだ」

ティムがやってみろと言ったのは、ごく普通のシュート練習で、ボールを頭の上に構え、放り投げる。放物線を描いたボールは、うまくいけばリングに吸い込まれる。ティムがお手本でやってみせてくれるのを見ると、確かに簡単そうだ。

それでも、私は運動神経がいいほうでもないし、ふだん全然運動をしないから、ボールは思うようには飛んでいかない。シュートのほとんどはリングにすら届かず、その前で落下してバウンドし、ボードの後ろに転がって行ってしまう。

ゴールの下に控えたティムがそのボールを拾ってくれて、私にひゅっと投げ返す。おっかなびっくりそれを受け取り、適当に何度かボールを地面については、シュートを放つ。

「ショウコ、そうじゃない。ボールを雑に放り投げちゃダメだ。そっと上に押し上げるんだ。優しく、ゆっくりと、ヒザを使って体全体で運ぶ」

ようやくリングに当たるようになると、今度は逆に、跳ね返って四方八方、あらぬ方向へ散らばるようになった。

ティムは目の前に来たボールこそ拾ってくれるが、それ以外は知らんぷりをするので、しかたないから私は走って拾いに行く。

息が切れる、汗が噴き出す。戻ってきてシュートを打ち、外し、また走って取りに行く。

ものの5分で、体力は限界を迎えた。当たり前だ。ここは冷房の効いた体育館ではなく、灼熱のスペインだ。

汗が噴き出し、乾き、また噴き出す。

血管を感じられるすべての部位がドクドクとサイレンを鳴らす。鼻も、喉も、肺も、すべてが熱い。熱湯を飲み込んだように痛い。

肩で息をする。耳がキーンとなる。それでも私はボールをつき、シュートを放つ。

どれだけ失敗しても、ティムは表情ひとつ変えなかった。見当違いの方向へ飛ばしても、手が引っかかって目の前にたたきつけてしまっても、呆れず、怒らず、かといって、笑顔を見せるでもなく、ただ「アゲイン(もう一度)」と言う。

ダム、ダム、ダム、ガゴッ。「アゲイン」

ダム、ダン、ダ、ガン、ギン。「アゲイン」

シュートはみごとに一球も入らない。一球でも入ったらキリよく終えようと思うけれど、そう念じれば念じるほど入らない。何球失敗しただろうか。30球よりは多いけれど100球までは行ってないはずだ。

「アゲイン」

「アゲイン」

フォームがくずれたときだけ、ティムは身振りでそのことを指摘するが、それ以外はずっと「もう一度」と言うだけだ。

ああしろ、こうしろと口うるさく言ってくれば、うるさいなあ、と反発してやめるタイミングもあるのに、そうではないので続けてしまう。機械仕掛けのように体を動かし続ける。

つらい。まぶしい。熱い。疲れた。苦しい。顔も体もすべてが沸騰していて燃えている。

膝はますます曲がらないし、腕は持ち上がらない。何度か突き指し、何度か足をひねりかけた。それでも私はシュートを繰り返す。頭の上には真っ白な太陽がグラグラと照りつけている。

「アゲイン」

「アゲイン」

一定の調子で繰り返される静かな声に、私はついに眠気すらおぼえ始める。なぜか“凍死”という言葉が頭をよぎる。

その瞬間、パンッと果実がはじけるように、あの映像が脳裏を満たした。このひと月何度となく思い出しかけては、その度にむりやり閉じ込めてきた記憶。忘れたい、でも、忘れられない光景がついにフルバージョンで流れる。

その間も、体は操り人形のように動き続けている。シュート、リバウンド、ドリブル。
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