自己中心主義勇者 egoistic hero

バード・ポー

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勇者の証明

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闘技場での戦闘を終えた後カズマとマリは情報交換していた。

まずカズマの情報。

予想では約一週間程でモンスターの軍隊がサンライト城を襲撃する事。

モンスターの種別によって戦闘能力が異なり、弱点も個々にある事。

次にマリの情報。

農民達は敏捷性が高い者が多く、城の守衛達は腕力に優れている事。

マナをはじめとする僧侶達は白魔法で傷を回復できるが、精神消耗が激しい為使用が制限される事。

以上の事から全ての民をチーム分けし、それぞれの適正に合わせてモンスターと戦わせるのがベストであるという結論に至った。



カズマ:「皆の適正審査と訓練は俺の方で考えてある。適正別に武器や防具も用意する。ただ問題が一つある。」

マリ:「それはなんだ?」

カズマ:「急に現れた俺の言う事を素直に聞く奴がいるかどうかだ。というよりまず従う奴が半分いないだろうな。」

マリ:「それは大丈夫だ。私がなんとか説得する。」

カズマ:「王女であるマリちゃんの言う事は聞くだろうな。だが俺の指示を聞く奴は少ないということさ。俺の指示をマリちゃんから伝えるという無駄な時間は奴らの寿命を縮める。戦術の伝達の遅延はチームにとって致命的だ。」

マリ:「確かに・・・」

カズマ:「手っ取り早く俺の実力を皆に納得させる事はできるか?」

マリ:「農民と守衛、僧侶はそれぞれリーダーがいる。彼らをねじ伏せる事ができれば可能だ。」

カズマ:「ヨシ!各リーダーを連れて来い。後可能な限り全員に勇者様が現れたと知らせろ。皆の者にその実力を見せるとな。」

マリ:「分かった。」



ー30分後ー

闘技場の中央にカズマは仁王立ちしていた。

観客席に農民や守衛、僧侶達が集まり、カズマを見てざわざわと話し合っている。



群衆A:「あれが、勇者様?」

群衆B:「普通の若造じゃねぇか。」

群衆C:「なんか妙な恰好してるけど大丈夫か?」



『やっぱりな・・・』



予想通りの反応にカズマはため息をついた。

そこへマリが三人のリーダーを連れてきた。



マリ:「連れてきたぞカズマ。」

カズマ:「サンキュー、マリちゃん。」



カズマの発言にドグマが反応した。



ドグマ:「貴様、王女に向かってなんて口のききかただ!」

マリ:「今はよせ、ドグマ。」



マリが制止したのでドグマはこらえたようだが顔が真っ赤になっていた。



マリ:「それでは皆の者!紹介する!中央にいるこの男が『予言の書』に記された勇者だ!」



マリの大きな声の後、会場はさらにどよめいた。

皆一様にその真偽を疑っている。



マリ:「一見した所なんの変哲もない男だ。皆の疑いはわかる。コイツが本当に勇者なのか?と」



マリの演説に皆がうなずく。



マリ:「だからコイツが本当に勇者かどうか皆で確かめるがよい!」

カズマ:「オイオイ、マリちゃん聞いてねぇぞ。そんな段取り。」



マリは意地悪く笑っている。



マリ:「スマンな、こっちの方が効果があると思った。」



マリの思惑通り会場は沸いていた。



群衆D:「よし、アイツが勇者様かどうか俺が確かめてやる。」

群衆E:「俺もやるぞ、勇者様なら俺らの攻撃なんか効かねぇはずだ」



会場の興奮は頂点に達し、次々と闘技場に男たちが雪崩れ込んでくる。

その時闘技場に怒声が轟いた。



ドグマ:「待てーい!」



ドグマの大声で皆は固まった。



ドグマ:「たった一人の若造に大の大人が見苦しいぞ!まずは私がコイツと戦う!一対一だ!手出しは許さん!」



ドグマの一喝で会場はシン・・・と静まった。

その様子を見てカズマはマリに囁いた。



カズマ:「これを狙ってたのか?」

マリ:「まあな。」



マリはシレっとした顔で続ける。



マリ:「サンライト城で一番戦闘能力が高いのは間違いなくドグマだ。ドグマの戦闘能力は常人の三倍程だろう。まずはドグマをねじ伏せてみろ。」

カズマ:「あーやってやるぜ。覚えてろよ。」



カズマはマリを睨みつけた。



カズマ:「常人の三倍・・・モンスターとタメ張るくらいか。面白ぇ。」



ドグマの体格は2メートル程あり、そのゴツイ体格はモンスターと遜色ないなというのがカズマの印象だった。

戦闘能力もほぼ同じならばこれ以上ない実験台だろう。

ドグマとカズマは互いに近づきにらみ合う。



ドグマ:「貴様、武器は使わんのか?」

カズマ:「ああ、俺はコイツがあるから。」



カズマはそういって、強化ゴムに覆われた拳を指さした。



ドグマ:「ならば私も素手で闘おう」



そういうとドグマは刀と鎧を脱ぎ捨てた。



マリ:「では両者とも、私が合図したら戦闘開始だ。」



ワーと会場が興奮に包まれる。

ドグマとカズマは少し離れ睨みあう。

ドグマはファイティングポーズをとるが、カズマは相変わらず仁王立ちのままだ。

スーとマリが右手をあげる。



マリ:「はじめ!」



マリの戦闘開始の合図をすると同時にドグマが動いた。

その巨躯からは想像できない素早さでカズマに接近し、右ストレートを放つ。

ドガッ!

鈍い音を立ててドグマの拳がカズマの顔面を殴る。

ガガガガガガガ・・・・

ドグマは左右の拳でカズマを連打した。

カズマはよける素振りも見せずにまともにドグマの攻撃を喰らっている。



ドグマ:「ウオオオオオオオオ・・・・」



ドグマが雄たけびをあげてカズマを殴り続けている。

打ちつかれたドグマは攻撃を止めた。

誰もがボロボロのカズマの顔が現れると思っていた。

だがそこにあったのは涼しげなカズマの顔だった。

傷一つついていない。



ドグマ:「ハァハア・・・なぜだ・・・ハァハァ・・・」



カズマの装着している強化ゴムの兜は頭部を全てガードしていた。

ドグマの攻撃は全て兜によって防がれていたのだ。



カズマ:「さあ、いらっしゃ~い」



カズマが挑発すると再びドグマがストレートの連打を放つ。

今度はカズマはそれを全てかわした。

円を描くように体を右に左に動かす。

ドグマのパンチは空を切り、勢い余って地面に倒れこんだ。

地面に突っ伏して息の上がったドグマに対してカズマがまた挑発の言葉を投げる。



カズマ:「ホラ来いよ。大将。アンヨはじょうず~♪」



そういってカズマは手拍子をうつ。

ヨロヨロとドグマは立ち上がり、カズマに手を伸ばした。



カズマ:「よし、よくできまちたね~」



そういってカズマが右手の拳を握りしめると強化ゴムがブワッと膨らんだ。

そしてその拳をドグマめがけて放つとドグマの顎に命中させた。

カズマのアッパーカットを喰らったドグマの頭がドカンとかち上げられ、体が宙に浮いた。

ドグマは後ろに倒れ、白目をむいた。

会場が再び静まる。

そこでカズマが人差し指で天を指さした。

カズマの勝利宣言に会場中が湧き上がる。

どうやら皆カズマを勇者と認めたようだ。



カズマ:「やれやれ、とんだ茶番だな・・・」



カズマはやや不本意そうにつぶやいた。



マリ:「何が不満なのだ?カズマ」

カズマ:「あのオッサンを倒したのは俺の力じゃなくこの防具のお陰だからさ。」

マリ:「そうなのか?」

カズマ:「ああ、こいつをつけていれば誰でも同じ事ができる。」



カズマが装備している防具一式は強化ゴムで作られていて、モンスターの攻撃に耐えられる強度を持っていた。

モンスターと同等程度の攻撃力のドグマでもこの装備にダメージを与える事は不可能だった。

強化ゴムは防御だけではなく攻撃力も倍増させるので、普通の成人男性ならモンスターに対抗できるアイテムであるとカズマは説明した。



マリ:「フン、こんなもの刀で切り捨てられるだろう。」

カズマ:「オヤ?試してみるかい?マリちゃん。」

マリ:「ああ、試すのは私ではないがな。」



そう言うとマリは農民のリーダーらしき人物を呼んだ。



マリ:「シュウ!来い!」



シュウと呼ばれた男は小柄ですばしっこそうな印象を受けた。

農民の服装だったが、刀を手に持っていた。



マリ:「今度は勇者は手を出さない!こちらの攻撃を防ぐそうだ!」



ワーと歓声が上がる。



カズマ:「聞いてねぇぞ!マリちゃん!」



カズマが噛みつきそうな顔で睨んでいてもまたマリは涼しげな顔をしている。



マリ:「その防具、刀で切り捨てることはできないのであろう?ならば受けてみればよいではないか。」

カズマ:「ハイハイ、わかりましたよ。なんて女だよ・・・」

マリ:「いっておくがシュウの剣術は神業だ。なにしろ斬鉄もできるからな。」

カズマ:「オマエホント覚えてろよ・・・」



カズマは恨めしい目でマリを見つめそれからシュウに向き合った。

シュウは顔を紅潮させ居合の構えをとった。

カズマはシュウのオーラを感じた。



『ヤベェ・・・コイツは本物だ・・・』



以前手合わせした居合の達人も同じオーラを持っていた。

その時は竹刀での対戦だったが、銅に一撃を喰らったカズマはあばら骨を折られた。

今回は真剣。



『大丈夫、このスーツなら・・・多分・・・でも怖い・・・』



またマリは右手を上げる。



マリ:「殺れ!」



恐ろしい合図と同時にシュウが切りつける。

カキィン・・・

刀はカズマの胴体に当たって折れた。

カズマは怒りに満ちた目でマリを睨みつけ人差し指で天を指さした。

カズマのポーズにまた会場が沸く。

マリは忌々しそうに舌打ちをした。

こうしてカズマは城の全員に勇者として認められ、戦闘の指揮を取り仕切る事になった。
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