自己中心主義勇者 egoistic hero

バード・ポー

文字の大きさ
65 / 93

トライとメイ

しおりを挟む
カズマとマリが寺院へ着くとマナと僧侶達はシュウの容態を説明した。

シュウの傷は修復したが、左の腕は失われ、両目も見えなくなってしまった。

疲労が激しい為今は面会謝絶状態だったがマリの迫力に押されて僧侶達はシュウの下へ案内せざるを得なかった。

片手を失い手足の指と目に包帯を巻かれたシュウの姿を見てマリは口を押えた。

震える手でシュウの手を握ろうとするマリをマナが止めた。

一目見るだけで決して触ったり話しかけたりしないこと。

それがシュウに面会する条件だった。

マリはすぐに部屋を出て城へ戻りはじめた。

部屋の外で待っていたカズマは黙って後に続いた。



マリ:「私は大丈夫だ。援軍を迎える準備に取り掛かる。」

カズマ:「そうか・・・終わったらコンピュータールームへ来てくれ。俺はシューティングスター城潜入の作戦を練る。」



そう言うと二人はそれぞれ自分の仕事に向かった。



コンピュータールームへ戻るとまた寝室からキャッキャ、キャッキャと笑い声が聞こえる。

カズマはやれやれとあきれながら寝室へ向かう。

寝室の中からはドゴンドゴンという何か打ち付ける音が聞こえる。

カズマが急いで扉を開けると中ではメイとトライが楽しそうに格闘をしていた。

部屋の家具はボロボロに砕けている。

メイが回し蹴りしたのをトライが腕でガードする・・・ドゴン!

メイの着地点にトライがストレートを放ち、それをメイがガードする・・・ドゴン!



カズマ:「コイツは・・・」



カズマは二人の組手を見て驚いた。

怪物のような身体能力を持つ二人。

カズマもメイと組手をしたことはあるが、真正面からまともに受け止められるような力ではなかった。

メイもそれを知ってか知らずか力をセーブしていたようだ。

トライのような強靭な相手と組手をする事でメイの力が一気にレベルアップしていた。

二人にとってはお遊びのような組手だったが、ハイレベルの格闘を繰り広げていた。

どこから用意したのかトライも強化ゴムの鎧を装着している。

パン!パン!

カズマは両手を叩いて二人に向かって叫んだ。



カズマ:「二人ともやめ~い!」



カズマの声にビクッと体を緊張させて立ち止まる二人。

そ~っとカズマの顔を覗き込む。

カズマは仁王立ちして腕を組んで二人を睨んでいた。



カズマ:「やってくれたな・・・オマエたち・・・」

メイ:「パーパ、あのね・・・」

カズマ:「メイ!正座!」



メイが反論しかけたのを制してカズマはメイを正座させる。

しぶしぶ正座するメイと同じようにトライも正座をする。



カズマ:「『お掃除ごっこ』は終ったのか?メイ。」

メイ:「はい・・・」



カズマは部屋の中をもう一度見渡した。

羽毛はなくなっていたが代わりにテーブルや椅子の破片が散らばっていた。



カズマ:「なるほどね・・・で?今何していたんだ?」

メイ:「『格闘ごっこ』だよ!楽しいアル!パーパも一緒にやろ!」



キラキラした笑顔で言うメイを見てカズマは微笑んだ。



カズマ:「いや、『格闘ごっこ』はもうおしまいだ。今度は『片付けごっこ』だ。」

メイ:「え~」

カズマ:「終わったらコンピュータールームへ来い。俺はそこでトライと話をする。」



ぶつぶつと文句を言うメイを尻目にカズマはトライとコンピュータールームへ向かった。



カズマ:「オマエその鎧メイからもらったのか?」

トライ:「うん、パーパのだから多分ぴったりだって。」



トライが着ていた鎧はカズマのスペアの鎧だった。

コンピュータールームへ着くとカズマはトライをスキャニングマシンの上に寝るように指示した。

コンピューターにトライをスキャンするようにコマンドを入力すると機械が動き出した。

コンピューターはトライの体組織を分析している。

筋肉、体脂肪、基礎代謝など・・・

内臓の映像を見るとマナの言う通りボロボロの状態だった。

コンピューターにデータが現れたのを印刷するカズマ。

情報がプリントアウトされている時に今度はトライの血液を分析にかける。

試験管にトライの血液が移されコンピューターが成分を分析する。

トライの血液中にはモンスターの白血球が流れていた。

通常の白血球がモンスターの白血球に食われている映像が映し出される。

この血液がトライの内臓も侵しているのだろう。

その他にもモンスターの血液成分の中にあるアドレナリンも多量に含まれている。

トライの分析を終えた後、カズマはテーブルの席にトライを座らせて温かい飲み物を渡す。

やや怯えた表情でカズマの顔を伺い飲み物をすするトライ。

カズマはトライの分析をプリントアウトして見ていた。



『身体能力と健康状態が真逆だ・・・』



筋力をはじめとする身体能力は常人の能力をはるかに超えているが、逆に健康状態は最悪だった。

先ほどのメイとの格闘能力はカズマを完全に上回っていた。

だがモンスターのエキスの副作用で細胞が過度に増殖と死滅を繰り返していた。

モンスターの白血球がトライの細胞を食い荒らすのと同時に、アドレナリン作用で新しい細胞を産み出す。

そんな状態なので今は平静を保っているがバランスが崩れると途端に不調になったりすると予想された。



トライ:「カズマ・・・怒ってる?・・・」



トライがオドオドとカズマに話しかけた。



カズマ:「いや・・・怒ってないよ・・・」



カズマはトライの方を見ずに返事をする。

再びシーンと沈黙する二人。

カズマは飲み物を口に含む。



トライ:「カズマもマリの事が好きなの?」



カズマはブーっと口に含んだ飲み物を噴き出した。

ゲホゲホとせき込みながらカズマはトライに聞いた。



カズマ:「オマ・・・それ・・・メイに聞いたな?」

トライ:「うん、マーマとパーパは愛し合ってるって。」

カズマ:「バカ娘・・・余計な事を・・・」

トライ:「僕もマリの事が好きだけど二人は僕を好きじゃないの?って聞いたんだ。」

カズマ:「アイツは何て答えた?」

トライ:「多分マーマもパーパもトライの事好きだって。ワタシもトライの事好きだからって。」



カズマは無邪気に笑いながら話しているトライを見て少し胸が痛んだ。

マリからトライを安楽死させることをお願いされていた。

しかしカズマは自分の分身ということを差し引いてもトライに何かしてあげたくなっていた。

トライが望む事、生きた証、純粋に命を燃やし尽くす事。

カズマはその時閃いた。



『皆は反対するかもな・・・』



カズマ:「トライ・・・オマエにお願いがある。」

トライ:「何?」

カズマ:「俺とマリ、メイ、マナはこれからシューティングスター城に潜入する。」

トライ:「そうなの?危ないよ。あそこはモンスターがいっぱいいるから。」

カズマ:「ああ、だからお前に手伝ってほしい。」

トライ:「お父さんに内緒で?」

カズマ:「ああ、お父さんのやってる事を知っているか?」

トライ:「うん・・・普通の人をモンスターにしている。みんなとても苦しそうだった。」

カズマ:「遺伝子操作だな。」

トライ:「何をしているのかわからないけど、苦しそうなのはかわいそうだからやめてほしいな。」

カズマ:「俺はお父さんのやっている事をやめさせてモンスターを元に戻したいんだ。手伝ってくれ。」



トライは真面目な顔をして少し考えてからカズマに言った。



トライ:「わかったよ!僕手伝うよ!」

カズマ:「ありがとうトライ。あとはマリとドグマが納得すればOKだ。」

トライ:「僕の事はお父さんに内緒にしてね。」

カズマ:「ああ、内緒にするよ。」



その時メイが片付けを終えてコンピュータールームへやって来た。

壊れた家具をまとめてかご台車に載せている。



メイ:「パーパ片付けおわたよ~」

カズマ:「オウ!お疲れ!そいつはここのダストシュートに台車ごと入れるからちょっと待ってな。」



カズマはそういうとダストシュートの扉を開き、かご台車を収めた。

ダストシュートに廃棄された資源はリサイクルして他の機械の材料になる。

カズマが旧世紀に考えたシステムがこのコンピューターにも採用されていた。



カズマ:「ヨシ!じゃあマリとオッサンが来るまで三人で遊ぶぞ!」

メイ:「やたっ!何して遊ぶの?」

カズマ:「トライ何して遊ぶ?」

トライ:「トランプ!ババ抜き!」



トライの提案を聞いた後、メイはカズマを見てニヤニヤしている。



『コイツ・・・今度は勝ってやる・・・』



カズマはメイのにやけた顔を睨みつけた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

処理中です...