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モテモテ浦くん
しおりを挟む…ハゲ親父から光貴と私が見合いすると聞いた茉莉子さんは、確実に阻止しようとまず浦くんに会いに行ったそうだ。そして、一緒に光貴のマンションへと乗り込み、私を攫って逃げるつもりだった…のだが。
浦くんがそれを拒否した。
『自分は名家に生まれたワケでも無いし、容姿もごくごく普通で、学も無い。食うに困らない程度の給料は貰っているけどコトリさんに贅沢をさせてやれるかというとそれは無理です。
だけど諦め切れなくて。あの人を一番幸せに出来るのが自分だとイイなってなんかもう、自分では必死に頑張っていて。金が無いなら、無いなりに与えられるものが有るんじゃないかなって。恥ずかしいんですけどね、愛情をですね、捧げまくってるつもりなんですよ。
なのにコトリさんは見合いすることを選んだ。
あの性格だから、断ろうと思えば断れたはずで、渋々でもソレを受けたってことは、彼女の中で『もっと幸せになれるかも』という可能性の芽みたいなモノを追い求めているんじゃないかな。
なんか俺、分かっちゃったんです。人間には『選ぶ側』と『選ばれる側』がいるんだって。残念ながら俺は『選ばれる側』だから、彼女が見合いをすると決めたのなら、納得いくまで自由にさせてあげたい。そして最後に俺を選んでくれたなら、最高に幸せだと思う。
とにかく俺は、コトリさんの邪魔はしません。それが俺の愛し方だから』
とか言ってたクセに、当日、蓋を開けてみるとわざわざタクシーでやって来たらしい。それを聞いて、私は思わずボソリと呟いた。
「なんだソレ」
「ほんと、なんだソレって感じだよね」
そして茉莉子さんと同時に再び呟く。
「ったく、カワイイな」
「うん、クソ可愛い」
カッコつけて私を泳がせると宣言したものの、結局は我慢出来なくて様子を見に来たのか。
「コトリさんが光貴に襲われそうになってたの、もっと早く助けられたんだけど。ちょうどその時に浦くんから電話が掛かってきてね。そのせいで遅くなっちゃったの、ゴメン」
「いやいや、何を仰いますやら。何もかも面倒を掛けちゃって悪いわね」
自慢では無いが、とっても女ウケの悪い私と、同じく女…いや、人間ウケの悪い茉莉子さん。なぜかこの2人に友情らしきものが芽生え始め、最近、会う頻度が異常に高くなった気がする。
「あら、いいのよ。だって私が榮太郎とギクシャクした時、コトリさんが真相を話してくれたお陰で関係修復したんだもの。これはいわゆる恩返しのつもりなの」
「茉莉子さんったら義理堅いわねえ」
たぶんこの頃が過渡期だったというか。
過渡期とは簡単に説明すると“移り変わる途中の時期”という意味で。最近、榮太郎様がこの言葉を頻繁に使用するから私もちょっと使ってみたくなっただけなのだが。えっと、とにかく、この辺りから私と浦くんの関係が徐々に変化し始める。その序章として、ある日突然、浦くんが
モテモテになってしまうのだ。
モテを10段階で表すと、3モテだったところがいきなり9モテになったほどの勢いで。そう、あと1モテでフルチャージである。いや、その前にモテるとはいったい何なのか?たぶん異性から好意を持たれる事なのだろうが、そこまでのプロセスと言うか、仕組みは謎だ。
「えーっと、私の研究では片想い中のモテと、両想い中のモテとでは微妙に違う気がします」
「ほほう。さすがはコトリ研究員!ヨシ、じっくり聞きましょう。先を続けて」
…あの見合い騒動の1カ月後。
相も変わらず私は、茉莉子さんとランチなんぞ楽しんでおり。しかも、今日は久々に浦くんの勤務先である例の店に来たのだが、なぜかホールにちょいちょい顔を出す彼に若い女性客が嬉しそうに話し掛けたり、中には連絡先を書いたメモらしきものを渡す人までいる始末。
その姿を見て、モテについて語り出した次第だ。
「恋をした途端モテ始めるってよく聞くでしょ。私の説では人には元々“愛され機能”が有るの。まあ大抵の人は好きな相手がいない時期に愛されても面倒なだけだから機能OFFにしていて。それが恋をした途端、ONにしちゃうんだな。
片想い中の人はそれが全開モードだから、四方八方の人に愛されちゃうんだけど。両想い中の人は意中の相手にだけ向けて細く長く愛されようと思っているから、特定の人にだけその機能が発揮されるのね。
ていうかさ、まだ私、浦くんをお試し中で彼氏に本採用していないから彼の愛され機能は全開モードなワケよ。だから無差別にモテまくっているんじゃないかなあ」
…ん。なに言ってんのか自分でも意味不明。しかし茉莉子さんは、私の話をいつも掻い摘み、適当に流してくれるので何とか会話は続くのだ。
「へ?なに呑気なことを言ってんのよ」
「え?」
「試してる場合じゃないでしょ、さっさと本採用にしなさいって。そんなことしてたら誰かに奪われちゃうわよ」
「だって、好きは好きだけど、まだ本気の恋愛をするのは怖いと言うか、その…あの…うう、あと少しだけこのままの状態でいたい…かな」
だって、富樫先生が消えたあの時の喪失感。あれをもう一度味わったら私は確実に死ぬ。
もしも浦くんが心変わりしたら?
もしも浦くんが私に興味を無くしたら?
もしも浦くんが…。
そんな押し問答を繰り返し、結局は現状維持を選んでしまうのだ。
「ほら、コトリさん。またどこかの女がちょっかい出してるわよ」
それは単に本日のメニューを確認しているだけなのかもしれないが、女性客の表情は明らかに獲物を狙っている狩人のようだった。
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