たぶん愛は世界を救う

ももくり

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さよならコトリ⑥~富樫side~

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「富樫裕斗さん。これはお願いでは無く警告だ。私の依頼人である中林泰造氏は、貴方の養父母と契約書を交わしており。その第三項に、こう記されているはずだ。『娘・琴梨に許可なく接近することを禁ずる』と」
「…え?契約…書?」

 その存在を知っていたクセに、いかにも初耳だという顔をしてみせる。勿論、態勢を立て直す為の時間稼ぎだったが、あまり効果は無かった。

 …どういうことだ?
 …俺がコトリの兄だとバレているのか?

「ひょっとして、契約書の存在を知らないのか。ああ、知っていたけど内容を知らないだけだな。だが、コトリ様が自分の妹だということは既に知っていたんだろう?いや、嘘を吐いても無駄だぞ。私は容易くソレを見破れる」

 急にタメ口になったことに戸惑い、返事を躊躇っていると安藤弁護士は腕時計で時間を確認し、伝票を持って立ち上がる。

「えっ?あの、もう帰ってしまうんですか?」

「そうだ。こう見えて多忙でね」

「いえ、あの…多忙っぽく見えていますけど…」

 力なく笑う俺に、安藤弁護士は早口で畳み込む。

「だったら分かるだろう?一分一秒が貴重だと。この話はこれで終了するぞ。『噂』の件は今晩また連絡するが、妙子様の件は断る。どうしても理由を知りたければ、私はそれを話せる立場にいない。

 だからキミの養父母に訊いてみるといい」

 ウチの両親に?

 それが出来れば世話が無いって!!と心の中で叫びながら、去り行く安藤弁護士の背を見詰め。帰宅するまでの道中で、腹を括った。我が家の均衡を崩すしか打つ手は無いようだし、どうやらこの辺りが限界だったのかもしれない。…平穏な家族のフリをするのは。

 兄が自殺だったということを両親に隠す俺と、俺が養子だったということを黙っていた両親。はは、どっちもどっちだな。そう簡単に話してくれるとは思わないが、とにかくコトリの為に頑張ってみよう。

 そんなことを思いながら、自分にしては珍しく大声で帰宅したことを告げ、玄関ドアを開ける。

「ただいまーっ!」
「あら、お帰りなさい」

 明らかに驚いた表情で台所から顔を出した母が、不思議そうに少しだけ首を傾げた。

「母さん、ちょっといい?話が有るんだけど」
「え?…ええ。やだ何かしら改まって。ちょっとだけ怖いわあ」

 久々の実家だったが、父は飲み会だとかで、テーブルには俺と母2人分の晩御飯が用意されており、その匂いに思わず腹が鳴る。

 ぐう~。

「あらやだ、お腹すいてるのね。話の前にご飯、食べちゃう?」
「いや…その、大丈夫、我慢出来るから。先に話をさせてくれないかな」

 母はとても勘の良い人だからたぶん察しているのだろう…これから話す内容を。だからワザと話題を逸らそうとしているのだ。それを証拠に、先程から俺の目を見ようとしない。

 …真実へのカウントダウン。
 その時が刻一刻と迫っている気がした。

 ここ数日、教壇に立ち、如何に分かり易く生徒に伝えられるかばかりを考えて過ごしたお陰か自分でも素晴らしい構成で話せたと思う。

 教育実習で偶然妹と会い。彼女をイジメと虐待から救おうとして中林泰造に電話したところ、安藤弁護士から呼び出しを受け。虐待の件だけ対応出来ないと断られた挙句、その理由は富樫の両親に訊けと言われたことまでを感情を織り交ぜずに淡々と説明した。

 母は暫く無言だったが深くて長い溜め息を吐き、それから突然こう言う。

「母さん、お前みたいに上手く話せないけど、今から話す内容は絶対に他言無用だよ。死ぬまで秘密を守ると誓えるかい?」
「ああ、もちろん誓うよ」

 コクンと頷いたかと思うと、母はチラシとペンを持って来て、そこに何やら書き始める。

「泰造さんには、子供が2人いる」
「え?3人だろ。コトリは兄と弟がいるって…」

 ふるりと首を左右に振って母は3人の名を書く。

 その上に泰造・敬子と書き加え、更にその上に清・幸代と。多分これはコトリの祖父と祖母だ。なので、俺は母の言葉を待たずに繰り返す。

「ほらやっぱり。コトリは3人兄弟だろ?」
「違うの。コトリちゃんが兄だと思ってるこの康史くんは泰造さんの子じゃない」

「は?じゃあいったい誰の子だよ」
「泰造さんの父親である、清さんの子供よ」

「えっと、それって…」
「そう、泰造さんの後妻である妙子さんは、清さんの愛人なの…たぶん、今でもね」

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