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さよならコトリ⑦~富樫side~
しおりを挟む諸悪の根源は、コトリの父親だと思い込んでいて。それを全く疑わなかった俺に向かって、母は言うのだ。
「中林建設の現会長である清氏は、とんでもない暴君で。気に食わないことがあるとすぐ暴力を振るうんですって」
「清会長って、コトリの祖父にあたる人だよね」
「ええ、そう。血の繋がりは無いけどね」
「えっ?!でもコトリは泰造氏の実子だろ?」
チラシに書かれた、家系図のようなもの。母は清会長と泰造氏を結ぶ縦線にバツをつける。
「コトリちゃんと泰造さんがじゃなくて、清会長と泰造さんの間に血の繋がりが無いのよ。清会長と幸代夫人は子宝に恵まれなくて、でも、この2人はよくある政略結婚だったから別れるワケにもいかず養子を貰った。…それが泰造さんね」
「養子…なるほど、それでか…」
母はチラシに『妙子』の名を追記し、丸で囲む。
「ここで登場するのが、当時20代だった妙子さんよ。敬子…これは分かるでしょ?私の妹で、お前とコトリちゃんの母親だから。この敬子と愛し合った泰造さんが、生まれて初めて父親に逆らって結婚した。残念ながら、その時に色々と清会長が条件を出して来て。お前との縁を切れという話に、敬子は泣く泣く従うしか無かったの。
あの子は最後まで悩んだわ。でも、最終的にはそれを受け入れた。本当に泰造さんを好きだったし、言い難いけどお前の実父は清々しいほどのダメ人間でね。パッと見は真面目そうな好青年だけど、実際は口先だけで上手に人を騙すの。
敬子は人を疑うということを知らなかったから、まんまとそれに騙されてしまった。もうすぐ自分の子供が生まれるというのに、浮気して。ギャンブルで借金もしまくって…その…当時は刑務所に服役中だったのよ。
どうやら、軽い詐欺みたいなことをしてしまったようでね。だから敬子はお前の将来を考えて、あの男との縁を切らせたかったみたい。そんなワケでウチの子として迎え入れたの。
敬子の方も暫くは、泰造さんと静かで落ち着いた生活を送っていたわ。…だけど、そんな日々も妙子さんが妊娠してから全て変わってしまった。仕方ないわよね、だって清会長からすれば血の繋がった実の子に跡を継がせたいじゃない?
だけどその先が『仕方ない』では済まないの。
清会長は、幸代夫人と別れる気なんて無かった。だから、今まで育てた恩を返せと泰造さんを脅す。…凄いでしょ?そんな理由で敬子と別れて妙子さんと再婚しろと迫ったんだから。
当然、泰造さんは拒絶した。
上手い具合にそのタイミングで敬子が妊娠して、生まれたのがコトリちゃん。続けてもう1人男の子が生まれて、確か秀人くんと言ったかな?
これでさすがの清会長も諦めたかと思ったんだけど、ストレスが重なったのか敬子が突然亡くなるの。心筋梗塞か脳溢血らしいという話なんだけど、正確な病名は知らされていないわ。
残念ながら、私たちは清会長の一存で葬式にしか出させて貰えなかったから」
…そっか、俺って犯罪者の息子だったのか。鈍い痛みに頭を抱えると、それを見て母が笑う。
「ほら、そういう反応をすると思ったから何も話せなかったのよ。お前はもうウチの子なんだからね?それだけは絶対に忘れないでよ」
それから母は、ありのままの真実を話してくれた。
清会長が実母に富樫家との関係を断たせたのは、そこから俺の実父へと辿り着き、犯罪者と結婚していた過去が露呈しないようにという配慮で。
当時の中林建設は官庁や警察関連から多く仕事を貰っていて、だからこそ身内に犯罪者と関わっていた人間がいることは決してバレてはいけない秘密事項だったのだそうだ。
そして、清会長がリスクだらけの実母と泰造氏の結婚を許したのは、それほど実母の美しさは広く知れ渡っており。『あの美人が息子さんの嫁になるのか?!』と周囲から称賛されて自尊心をくすぐられたという、なんともバカバカしい理由かららしい。
そんな虚栄心を満たしてくれる存在だった息子の嫁も、“血の繋がった実の息子”の存在には敵わなかったというワケだ。
一方の泰造氏も、実母が存命中には必死で抵抗していたが、急逝した途端に妙子さんとの再婚をアッサリと承諾し、愛娘がいびられても放置。
「ふっ。人間、変われば変わるものだな」
「なに生意気なことを言ってんの!泰造さんに会ったことも無いクセに、何でも勝手に決めつけちゃダメでしょ?」
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