たぶんきっと大丈夫

ももくり

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3.男のファンタジーを全て詰め込んだ女

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「えっと…、具体的にはどう努力したんだ?」

 これだから男は。

 理路整然と物事を進めようとして確証を求め、何かと言えば『んで、その話にオチはあんのか?』と起承転結のケツに重点を置きたがるよね。

「私、相手に合わせて変幻自在に自分を変えているの」
「は?」

「例えば、ウチの部署の田島さんはお淑やかな女性が好きでしょ?だからあの人の前では言葉遣いに注意して、なるべく抑揚をつけずに話しているし、出来るだけ聞き役に徹するようにしているわ。逆に営業部の甲斐さんとかだと、クールな見た目とは違ってノリのいい女のコが好き…あ、これは幼馴染でもある松原さん情報だから確実よ!…えっと、とにかくその場の雰囲気を壊さない様にさり気なく盛り上げてくれる女性に心惹かれるらしいから、彼の前ではなるべくハキハキと元気一杯な感じで演じてみせてる。その甲斐さんと仲の良い富井さんなんて、あんなワンコ系キャラのクセしてセクシー系の大人女子が好きなんですって!だからちょっとだけ妖艶な雰囲気を出す為に思わせぶりな視線を…って、寝ないでよ須賀さん!」
「ぐ~…って、なげえよ、話が長すぎる!」

 自分から質問しておいて、
 早々に飽きないで欲しい。

 非難がましい目で睨んでいると、須賀さんは『ふわあ』と欠伸しながら言った。

「アホくさ。全方位に媚びを売るなんて労力の無駄だろ、標的を絞れよ」
「だって私は無防備に相手を選べないんだもん。とにかく取っ掛かりとして相手を精査したいから、標的を1人に絞るのは得策とは言えないの。まずは間口を広げておいて、自発的に接近してくる人の中から一番信頼出来る男性と付き合うつもり。…あのさ、ウチの母って反面教師なのよね。全部あの人と真逆のことをすれば上手くいく気がする。そうなると女慣れしていない純朴な青年はNGで、それなりに女性経験を積んだ人の方がはっちゃける可能性が低いということになるし、自分から交際を申し込むと相手が慢心するということも分かったし、付き合った男性の風貌を改造するような真似は最終的に墓穴を掘る…って、須賀さん、また寝てるし!」

「んあ。俺、酔うと眠く…なんだ…わ」
「やだ、寝ないでよ、まだまだ夜はこれからなんだから!」

 いかん。

 長くてしかもオチの無い私の話が、この人を眠らせてしまうようだ。

 えっと、一気に目が覚めることを言えばきっと覚醒するはず…って、そんな愉快なネタは生憎と持ち合わせていない。ううむ、仕方ない、ここらで衝撃のカミングアウトをしてみようか。

「中島華27歳、まだ誰のものでもありません!」
「は?それはいったい、どういう…」

「ピッカピカの処女だよ」
「う、わあ…」

 えっ?まさか引いてる?
 予想外な須賀さんの反応に私は戸惑いを隠せない。

「えっ?男性って女性のバージニティに拘るものじゃないの?」
「それいったい何時代の話だよ」

「でも、誰にも触れられていない真っ新な状態が至高だとよく聞くけど」
「それは…、その女のスペックにも寄るんだって」

 称賛されるとは思っていなかったが、それでも非難されるほどでは無いと思っていたのに。

「私の場合はダメってこと?」
「…ああ、残念ながらな。男ってのはな、何と言うか、見た目と情報が一致すれば納得するんだよ。例えば見るからに真面目そうで『仕事一直線で生きてきました』とかさ、『親の介護をしてたんです』的な感じの女だったら30歳…いや、40歳過ぎて処女でもまあ『そういうもんか』で済ますはずだ。でも華はダメだ。お前、見るからにオッパイぶるんぶるんで、男が絶え間なく群がっていそうなのに、それで処女だなんて…なんか期待ハズレと言うか、裏切られたと言うか。絶対にそれ相応の経験を積んでそこそこのテクニックを習得していると思い込んでるぞ、世の男達は。なのに『未経験です』って、そんなの詐欺だろ!」

「えっと…なんで私、こんなに責められなきゃいけないの?」
「いいか、『男のファンタジーを全て詰め込んだ女』だと自称しているのなら、その肩書に責任を持て!そっち方面のテクニックも無いクセに、男のファンタジーが聞いて呆れるわッ!」

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