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17.悲しい決意
しおりを挟むその日から私の闘いが始まった。
──そう、自分を納得させるという闘いだ。
まずは本当に郷田さんが浮気しているのかを確認する為、須賀さん経由でニョロ野の連絡先を入手し、その動向を探って貰う…はずだったのだが。ヒマさえあれば郷田さんのことを考えて不安になってしまう為、相談相手に昇格させてみた。
勿論須賀さんにも相談はしているが、彼1人では負荷が掛かり過ぎるだろうと配慮した結果である。
「もしもしニョロ野、本日の報告をして頂戴」
「あのね華ちゃん、俺の名前は熊野だから!ついでに毎晩電話してくるの、おかしくない?なのにジェイとは最近、会うペースを落としてるんだって?あいつが浮気してるの知ってるクセに、敢えてソレをしやすい環境にしてあげるのは何故なんだ?」
最早、ニョロ野に探らせるまでもなく証拠はザクザクと見つかっている。
シーツに落ちていた長い髪。
洗面台に置かれていたピアス。
極め付けは知らぬ間に減っていく避妊具。
明らかにクロと分かっていながら、みっともないことに私はまだ納得していないのだ…この恋愛が破綻していることを。
いつか浮気相手に飽きて私の元に戻ってくるに違いないと。知らなかったことにしておけば、今まで通り一緒にいられるのではないかと。だからワザとあちらとの時間を増やしてあげているのよと説明したところ、ニョロ野は呆れた声で私を諭し出す。
「華ちゃん、ヤメときな」
「な、なんで?だって郷田さんの本命は私だし。あの人ね、いつも私のことを『好きだ』と言ってくれるんだから」
「ベッドの上で言う『好き』なんて、挨拶代わりみたいなモンなんだぞ。華ちゃんの『好き』とジェイの『好き』は重さが全然違うってこと、本当はもう分かってるんだろ?だから、もうヤメておきな。あの男を一生繋いでおくなんて、きっと誰にも出来ないんだ」
「出来ないって、どうして?だってまだ付き合い始めて2カ月しか経ってないし、もしかしたら私があの人の生き方を変えられる唯一人の女になるかもしれないじゃないの!」
「華ちゃんが、ジェイの生き方を変える?」
「そうよ!ひとりの女性だけを愛するような真人間に変えてしまうの」
『はああ』と大きな溜め息が聞こえ、そしてニョロ野はこう続けた。
「ごめん、それは有り得ない。だって華ちゃんはジェイにとって『都合のいい女』で、既に対等ですら無くなってるから。言い成りになっているその状態で、どうやって奴の生き方を変えるつもり?」
「だから…、それは…」
『都合のいい女』という言葉の破壊力は意外に大きく、脳内逃避から一周回って、何故か私は強かった頃の自分を思い出していた。
>あんなクズ親父、捨てちゃえば?
>そうすればもっと素敵な男性と出会えるのに。
>こんなにバカにされて、まだ続けるつもり?!
>これ以上、我慢する必要なんか無いってば。
>あのさあ、お母さんが甘やかすから、
>お父さんはダメ男になっちゃったの!
あれほど憤っていたのに、これじゃあまるで同じじゃないか。…浮気ばかりする父に泣いて縋っていた母親に。
恐るべしDNA!
「くっそ、抗ってやる!母娘二代で不幸になって堪るもんか!!」
「へ…?もしかして急展開?」
「ニョロ野、私、今から郷田さんに会ってくる!」
「なんかもう俺、華ちゃんについて行けない」
こうして私は、自分を納得させられたので…郷田さんとの別れを決意した。
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