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15.恋する暴走女
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「なあ、華。お前、大丈夫なのか?」
なんの前置きも無く、背後から近寄って来た須賀さんが私にそう訊ねた。だから、愛くるしいと評判の笑顔を咄嗟に浮かべながら端的に答えてみる。
「うふふ、大丈夫ですよ」
「いや、だって、締め切り直前にクライアントから大幅な変更をくらったんだろう?そのせいで連日深夜に帰宅して、2時間寝てから彼氏のマンションに行ってヤリまくり、そんでもってそこから出社してるそうじゃないか」
だ、だだだ、誰がそんなことをバラしたのか?
「とにかく昼休憩くらいまともに取れよ。ほら、これから一緒に食べに行くぞ」
「でもっ、あのっ、今の私には一分一秒が貴重で、ここで少しでも挽回しておくと後がラクって言うか…」
あ~れ~ッ。
『お前の弁解なんぞ聞く耳を持たん』と言わんばかりに須賀さんは、私の首根っこを掴んで会社近くの喫茶店へと連れ出した。しかし何故この喫茶店なのか。ここは確かに美味しいが、注文してから出てくるまでの時間が異常に長いのだ。
「この店ならイヤでも待たされるし、『すぐに食べてハイ帰りましょう』とはならないだろ?しかもウチの会社の人間もあまり利用しないし、思う存分語らおうではないか!」
「あー、はい、了解でーす」
本当に何なんだよ、この人。
無駄に面倒見がいいって言うか、顔もいいけど、まあ性格もどっちかっていうといいよな。…ってことはもしかして、悪いところが無いじゃん!(※華さんはなんだかんだ言って須賀さんのことが好きです)
「華、もう一度訊くぞ。お前、本当に大丈夫か?その調子でいつかぶっ倒れでもしたらどうするんだ?せめてもう少し睡眠時間を取って、彼氏に会う時間を減らすとかだな…」
「誰から聞いたのか知らないけど、2時間じゃなくて3時間は寝てるから!」
「え…っと、それ、大差ないし。そんで話は先日、副社長と一緒にお前の彼氏の店に飲みに行ってさ、その時に熊野さんから聞いたんだよ。熊野さんの情報源は勿論、お前の彼氏だ」
「熊野さんって、誰だっけ?」
「えっと、ほら、ケイさんの店に誘ってくれたオールバックの…」
「ああ、あの爬虫類顔!…やだ、爬虫類のクセして哺乳類が入った名字って、私を混乱させる気なのかしら?あれはどう見ても蛇野かニョロ野にするべきだと思わない?」
「あー…って、おいこら話の腰を折るな」
「はい、ごめんなさい」
須賀さんは真剣に私の身体を心配してくれている様なので、素直に事実を伝えることにした。
確かにこの1カ月ほどの間は、仕事で追い込まれていなくても平均3時間ほどしか眠っていない。週に4日は郷田さんと会って、それ以外の日はボディケアに専念し、完璧な家事がこなせるようにと日々鍛錬を怠らず、ついでに彼との将来を考えてカクテルの種類やその歴史も覚えたりしているので時間が足りない…と打ち明けたところ、須賀さんが頭を抱え出した。
「ヤバイな、初めての恋愛に暴走し始めてる」
「暴走って…やだなあ、どこがよ?おかしなことを言わないで欲しいわ」
「いやいや、彼氏が世界の中心になっちゃってるだろう?それじゃあダメなんだって。あのな、恋愛しても世界の中心は自分のままでいないと。華は今、彼氏に依存している状態だ。何もかも犠牲にして尽くす自分に酔ってるんだろうけどな、そんな女は重くて一緒にいても疲れるだけなんだぞ。…はあ、先に宣言しておくけど、お前ら、たぶん近日中に別れると思う。畜生、その反動が怖いな」
その言葉に、カッとなった私は必死で反論する。
「はああっ?!はあっ?!はあっ?!な、なに言ってくれちゃってるの?!私と郷田さんはね、ラブラブなんです!『華は他の女と違う』って彼も言ってくれてるし、このままもしかしたら、結婚…キャッ、まで突き進むかもしれないじゃない!余計な茶々を入れないでよねッ」
…そして数日後に、事件が起きたのである。
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よろしくお願いします。
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