たぶんきっと大丈夫

ももくり

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32.ノープロブレム?

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 ※ここから華視点に戻ります。
 
 
 
「へッ?!あの、えっと、くれるの?」
「お誕生日、おめでとうございまーす」

 ──女子力と書いて戦闘力と読む。

 ダテに“男のファンタジーを全て詰め込んだ女”の称号を頂戴しておりませんよ!

 こんな時のため全方位に対応可能なプレゼントを幾つか常備しておりまして。寸志にピッタリな紳士用靴下や婦人用ハンカチは勿論のこと、お誕生日バージョンですとこちらのフランス製・入浴剤セットなどは如何でしょうか?

 あまり高価すぎると、相手に気を遣わせてしますしね。だからと言って、安価すぎても失礼に当たりますでしょ?この匙加減が非常に難しいんですの。

「だけど私の誕生日、まだ4カ月も先だよ」
「え゛」

 でも、だって、清水さんが『彼女の誕生日を祝いたいから帰る』と言っていたのに?

「ねえ、もしかして誰かと間違えてない?」
「そうかもですね!そうだそうだ、セスキ炭酸ソーダで暮れの大掃除もラクラクだ!」

 まっ、まさかあの誠実そうな清水さんが二股を?
 マズイ、このまま誤魔化せ、逃げ切るんだ私!!

「やだ華ちゃんったら、若いのにそっち?『そうだ』で韻を踏むのなら、クリームソーダとかの方が可愛いと思うわよ」
「確かにッ。そうだそうだ、クリームソーダ!って、どうも失礼しました~」

 ふひゅう、危なかった…朝からこんなスリル要らないよ。

 自席に戻ってギンッと斜め前に座っている清水さんを睨むと、不健康そうに浮腫んだ顔で見つめ返された。

 いえ、いいんですよ、オトナだから色々と事情が有るのでしょう?私如きがそんなことを根掘り葉掘り訊けるはずもございませんし。しかし、世の中って結構ドロドロしているんだなあ。

 …などとアレコレ考えていたら、視界の隅で何かが動き、その何かが私に向かって声を掛けて来る。
 
「おはよう、華」
「おはよー、始業時間に間に合って良かったね」

 須賀さんだ。

 昨晩から未明にかけて、私を抱きまくった
 須賀さんだ。

 前戯が丁寧な上に言葉責めの天才で、
 郷田さんが早漏だということに気付かせてくれた
 須賀さんだ。

 『着替えたいから一旦自宅マンションに戻る』と
 朝6時30分に出て行った
 須賀さんだ。

 …ってこの独白、妙に説明臭いな。
 
「華、声が大きいって」
「うん、ゴメン」
 
 いや、須賀さんはいつも朝早いのに、今日に限って遅いのはどうしてだろうかと周囲の人々は思っているに違いなくて、その言い訳をさせてあげるための前振りのつもりだったんだけど。

 この人、あまりにも普段通りでそれが逆に怖い。
 って、そうか…きっと慣れているんだけなんだ。

 だって副社長の奥様とその昔付き合っていたらしいし、その後で品質保証部の中村さんとかいう女性社員とも付き合ってたって…まあ、所謂オフィスラブ慣れした男ってことだよね。

 それにしても。

 ぶっちゃけ、やる前と後では絶対にこの関係が変わるはずだと思っていたのに、いざそうなってみると驚くほど何も変わらない。

 つまり、動揺しているのは私だけってことだ。

 でもまあよくよく考えてみれば別に付き合おうとか言われたワケでも無いし、須賀さんからしてみれば、酔った勢いで一晩限りの関係という感じなんだろうなあ。

 お互いに意識なんかしたら、仕事がやり難くなってしまうものね。

 うん、分かった、そっちがそういうつもりならこっちもそういうつもりで無かったコトとして平常運転で行かせて貰うよ、OK!ノープロブレム!!
 
 

 朝礼を終え、報告書作成後に納品データの最終確認をしていたところ、ランチタイムを迎えた。それから今日は宅配弁当を頼んであったので、お茶を淹れるため給湯室へと向かう。

 すると廊下の途中に有る会議室のドアが突然開いて、中から手が伸びて来る。

「ぎゃっ」
「シーッ、静かに」

 驚きながら顔を上げると、そこには何故か須賀さんがいた。
 
 
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