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attack1
しおりを挟むその甘さは、危険。
とろとろに固めてしまい、
私までも、
その甘さの一部にしてしまうから…。
────
私のスマホの画像ファイルは、可愛い子猫の寝顔とか、アスファルトの割れ目でひっそり咲いているスミレとか、ハート型に見える雲とか、
…そんなモノだらけなのです。
「あ、ほら、アレ」
「制作部の長峰満里奈だろ?そそるゥ」
「全身からエロオーラが溢れてるし。俺も調教されたい。ああ、あの冷たい目。ゾクゾクするぅ」
「お前なんか相手にされないって。彼女、意外とシビアで、幹部クラスじゃないと見向きもしないらしいぜ」
社食の一角で。呑気に1人で食事していると、斜め前の座席の男性集団が、ワザと聞こえるように噂してくる。
チッ。小者のクセに。集団じゃなきゃそんなコトも言えないのか。勝手にそんなデマ、言うんじゃないわよ!私はねえ、この冷たそうな外見とはウラハラに、中身はとっても乙女なのよ!!でも、周囲の期待を裏切れず、仕方なくSっぽい女を演じてやっているのよっ。
弟がいる女って、だいたい傾向が似てくるよねー。シッカリしてて、負けず嫌い。でもその実、ファンシーな中身を持っている。例にもれず、私もソレなワケで。
ああ、私もこんな外見だったらなあ。
「満里奈ちゃんっ!今日も来てくれたんだぁ」
「ん。新菜も相変わらず元気そうだね」
中学、高校と同じだった羽野新菜は私の勤務先の社員食堂で調理補助をしている。ふわふわと微笑み、いつでも幸せそう。
「長峰さん、またコイツが無理言ったみたいで。これに懲りず、相手してやってくださいよ」
「いーえ。全然、イイんですよお。私もあれくらいだったら、なんとかOKだし」
…この人は新菜の彼氏の西田さん。ウチの会社の総務部所属。かなりのキレ者だ。
「正直、俺ああいうホラーが苦手でさ。長峰さんがいなかったら、死んでたよ。どれも5分が限界だ」
そう、妖精みたいな新菜がダイスキなもの…それはホラー映画なのである。血みどろの画面を観ながら平気でお菓子食べちゃうし、まったく人間というのは外見だけでは分からない。
調理場の新菜。
カウンターを挟み、並んで立つ私と西田さん。
「新菜ちゃん、ちょっと」
「はーい、いま行きまーす」
同僚に呼ばれた新菜は『じゃあね』と可愛く手を振り去って行く。それを名残惜しそうに見ていた西田さんが何かを思い出したかのように突然、言った。
「長峰さんって、彼氏いなかったよね?」
「…え、ええ、まあ」
ニヤリと微笑み、それから西田さんは続ける。
「俺の旧友でかなりオススメの男がいるんだ。商社勤務で、すっごいイケメン。一度、会ってみない?」
そんなイケメンに、なぜ彼女がいないのですか。
そう訊きたかったけど、止めた。あまりにも目の前の西田さんが嬉しそうで。こんな顔をするくらいだから、きっとお薦めの人材に違いない。ならば何も情報を得ず、いきなり会おうかと。
本当は同じ部署の安住さんに絶賛片思い中なんだけど。これがまた、彼の友達と私の友達の4人で飲みに行っても驚くほど進展せず。彼の友達に手をギュムッと握られ、ずっと口説かれていたのに助けてくれなくて。最初から最後まで静観されちゃって、見込みがないと実感させられただけ。
ん、諦めますよ。
人生は挫折があるからこそ、成功が輝くのです。
「あ、じゃあ、お願いします」
ぱああっとその笑顔が花開き、西田さんはノンストップで喋り出す。
「やったあ!そいつ、相馬っていうんだけど。俺、いま新菜と幸せで仕方なくて。この幸せを皆んなに分けてあげたいんだな。『愛の伝道師・西田豊』…そう呼ばれたいのさ」
呼びませんし。
頭の中が桃色になってるみたいですし。
呆れながらも、西田さんと連絡先を交換した。
……
その数日後。
「いやあ。申し訳ないけど、タイプじゃないな」
初めて会って、第一声がコレって。
「俺、どちらかというと、ふわふわした、癒し系の女のコが好きなんだよね。長峰さん…だっけ?残念ながら、すげえ威圧的」
だ、だからっ。中身はすごく癒し系で、きゃわゆいモノ大好きなんですってば。…などと、言えるはずもなく。
「ご期待に沿えず、申し訳ありません。なんなら、もう私は帰りましょうか」
おずおずとそう提案すると、相馬さんはニコリと微笑みながらこう答えた。
「せっかくだから一緒に食事しようよ。ココの料理さ、どれも美味しいんだから」
「では、遠慮なく」
ええ。良いのです。いつもメンタル強いと思われて、こういう扱いには慣れているから。ちょっと泣きそうだったけど、それは内緒にしておきます。
相馬さんの言う通り、本当にその欧風居酒屋の料理は、どれもハズレが無くて。べらぼうに美味しいから、思わずお酒が進み。フルボトルのワインをガンガン空け。もう、これ以上ムリだと思った頃、
気付けば、どこかのホテルの一室で。
「本当にいいの?」
「ここまで来て、ゴチャゴチャ言わないの!」
とかなんとか誰かと会話し、服を脱いで、その誰かを押し倒した
…気がする。
終始、私がリードしてガンガン攻めた
…気がする。
相手の男性が可愛く
「こんなの、初めて」
とか言ったので、更に攻撃を強め。
仰向けになったその人の上で、激しく腰を振った
…気がする。
チュンチュン。
気怠い土曜の朝。
起きたらやっぱりホテルの一室で、裸の相馬さんが隣で寝ていた。
その衝撃に海老反りし、そっとシーツをめくると私もやっぱり全裸で。急いで服を身に着け、慌てて逃げたのである。
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