9 / 13
attack9
しおりを挟む[相馬side ~ヤサグレ相馬さん~]
「だから~、スミマセンって~。許してくださいよぉ、相馬先輩」
許す、許さないの問題ではない。
顔も見たくない、あっち行け!
「だって、本命だって知らなかったんスよ~」
あれから慌ててタクシーに乗り、マリニャンの後を追ったが彼女は自宅に戻っていなかった。いや、それ以降も自宅に帰る気配が無く、かれこれ1週間も会えないまま。もちろん電話もメールもLINEもすべて拒否されている。
ごめんなマリニャン。
こんなバカな後輩を持った俺が悪い。
会いたいよ。
顔を見て、抱き締めたい。
泣いてないか?
だとしたら、俺のせいなんだよな…。
きゅう。
心臓が痛い。
彼女のことばかり考えるのがイヤで、仕事に専念したらバカみたいに捗って。もう今日はすることが無かったりして…。
「俺、もう一生独身かもな。マリニャン以外の女と結婚なんか出来ないし。そしたら関根、お前も一生独身でいろよ?俺のシモの世話もして、尽くして死ねよ?そのくらいのコトをお前はしでかしたんだぞ。ああ、また腹が立ってきた。一発、殴らせろ」
体育会系の関根は、素直にハイと尻を出す。それをグーパンチで思いっきり殴ってやった。
「あうふっ!気が済みましたか、相馬先輩っ!」
「済むかっつーんだ。お前の汚いケツを殴ってマリニャンが戻るワケじゃなし」
そこに割って入る男がひとり。
「…ああもう、マリニャンマリニャンうるさい。ここは職場だぞ?もっとシャキッとしろよ相馬」
石井が手にしているファイルで俺の頭をコンと叩く。
「い~し~い~きゅ~ん」
「で、まだ連絡つかないのか?彼女が頼りそうな女友達とかは?」
こいつ、本当は俺のことを心配してて、毎日グチも聞いてくれる。うん、一応さ、手は尽くしたんだ。西田経由で新菜ちゃんにも訊いてみたけど本当に知らないみたいだった。…あ、そっか!羽純さんはどうだろう?
新菜ちゃんの部屋は西田がいるかもしれないから行きづらいだろうけど、羽純さんなら。沢田さんとは遠距離恋愛中で基本1人だし。ひょっとして、ひょっとするぞ。マリニャン、新菜ちゃん、羽純さんの3人は同じ高校出身で、凄く仲がイイんだよな。
よし、西田経由で新菜ちゃんから
羽純さんの連絡先を教えて貰おう!
…急にシャキッとして、自販機コーナーに行くフリで西田に連絡する。元々紹介してくれたのはアイツだから、今回の件でもすごく親身になってくれてて。期待どおりスグに羽純さん情報がLINEで送られてきた。
個人情報バンザイ!
住所に電話番号もGETだぜ。
ふむふむ、会社の借り上げマンションか。たぶんオートロックではないな。定時で退社し、そのまま羽純さんのマンションへと向かう。事前に電話なんかしたら逃げられる気がしたから、急襲。とにかくマリニャンに会いたくて、もう土下座でも何でもする覚悟は出来ていた。人気店のケーキを手土産で購入し、爆発しそうな心臓を抱えてチャイムを押す。
…と。
なぜか中から出て来たのは、
仁王様のような顔をしたストーカー彼氏こと、
沢田さんだった。
………
「貴方は、一人暮らしの女性宅に電話連絡もナシでいきなり訪問するんですね」
さ、寒い。
ここは北極か?
「相馬さんって、何歳でしたっけ?」
「今年、28歳だ…いえ、です」
「俺より1つ上。ダメダメだな」
「…はい、スミマセン」
玄関先なので小声だが、腕組をしたままの不遜な態度で沢田様は続ける。
「小さい頃から言われませんでしたか?女のコは男のコよりも弱いから『守ってあげなきゃいけません』って、『傷つけちゃいけません』って。相馬さんは誰にも教わらなかったんですか?」
この時点で俺は悟る。
知っているのだと。沢田様はマリニャンと俺のことを聞いている…ということは、あの事件以降マリニャンが羽純さんと接触したのは間違いない。
「あの、いろいろと誤解があってですね。それを解きたいので、満里奈さんの行方をご存知でしたら教えて欲しいのですが」
男のクセに妙な色気を醸し出し、その美しい指を自分の顎に移動させて彼は答えた。
「断る」
へ。
「あの、沢田さん??」
「誤解だろうが何だろうが、そんな方向に進んでしまったのは相馬さんの不徳の致すところでしょ?本気で相手を大切に思っていたら誤解を招く要因自体、排除していたはずだ。俺だったら注意深く、周囲にも気を遣い、牽制し、真綿で包むようにして、羽純を守る!!」
なまじキレイな顔だけにスゴイ迫力。ていうか、マリニャンの話が羽純さんにすり替わってるんですけど。…んむむ。言葉を選んでいると、沢田様の説教はまだまだ続く。
「だいたい、第三者の言葉で誤解しちゃうような仲だったということをまずは反省すべきですよね?とどのつまり、満里奈さんに信頼されていなかったんだな、貴方は。
きちんと毎日、愛情を伝えていましたか?カッコばかりつけて、何も言わずに『気持ちを理解しろ』なんてまさかそんなコトしてませんよね?…分かるかっつーの、超能力者じゃあるまいし。
俺なんか毎日、羽純に電話して。ヒマさえあればLINEして。まとまった休みがあれば、飛んできて。不安にさせないよう、愛の言葉を大放出ですよ。いつでも会える距離の相馬さんが、何を余裕ぶっこいて放置してるのかって話。あんな美人で、優しくて、賢い満里奈さんを、週1でしか構ってなかったんでしょ?
有り得ないな。ほんと、有り得ない。愛とは無様だろうと全力で相手に伝え、注ぐものだ!『毎日会いたいなんて言ったら、引かれるかな』などとカッコつける時点でもうダメなんだ。
恋愛とは、相手と自分しか登場人物がいないはずなのに。相手にだけ夢中になっていれば、雑念なんて浮かばないはずなのに。きっと貴方は無意識のうちに第三者も登場させているんだと思う。周囲を気にしている時点でもう…あなたは、愛の敗者だっ!!」
それだけ言って、沢田様はドアを閉める。
さすが、彼女を常にGPSで追跡している男。
さすが、『ストーカー彼氏』と呼ばれる男。
今まで少しバカにしていたけど、でもちょっと見直した。そんなに堂々と言い切られると、カッコイイと思ってしまったじゃないか。なんだか世界の中心で愛を叫びたくなったよ(古い)。
固く閉ざされたドアの前でそのままボーッとしていたら、いきなり内側から開き。羽純さんが恐る恐る顔を出した。
「良かった!まだ、いらしたんですね。これ、満里奈ちゃんの叔母さんの住所なんですけど、いまココにお邪魔してるって。ごめんなさい、沢田さんがすごく怒ってて。私、それを止められなくて。彼がシャワー浴びるというのでその隙にこうして出てこれたんです」
手渡されたのは、住所が書かれたメモ。
「…羽純さん、有難う!!」
まあるいタレ目をクシャリと細め、彼女は微笑む。
「早く誤解を解いてあげてくださいね。あ、その叔母さん、満里奈ちゃんの母親と10歳近く年齢が離れているらしくて、確かまだ30代なんですよ。まるで姉妹みたいに仲良しで、よく泊まりに行くと言ってました」
感謝の気持ちを表すため、メモを両手で高く掲げた。
「本当に有難うございます!沢田さんにも御礼を言っておいてくださ…」
すべて言い終らないうちに、羽純さんの背後から沢田様が再び顔を出す。
「ゴチャゴチャ言ってないで、早く向かったらどうです?」
その顔が一瞬だけ笑ったような気がして、俺もつられて笑ってしまう。
「はい!じゃ、お二人とも、お幸せに!!」
「貴方よりは幸せだっつーの、なあ、羽純」
「ちょ、もう沢田さんったら…」
よおし、
今から無様に愛を注ごうじゃないか。
待ってろよ、マリニャン!!
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
悪役令嬢の涙
拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。
悪役令嬢、記憶をなくして辺境でカフェを開きます〜お忍びで通ってくる元婚約者の王子様、私はあなたのことなど知りません〜
咲月ねむと
恋愛
王子の婚約者だった公爵令嬢セレスティーナは、断罪イベントの最中、興奮のあまり階段から転げ落ち、頭を打ってしまう。目覚めた彼女は、なんと「悪役令嬢として生きてきた数年間」の記憶をすっぽりと失い、動物を愛する心優しくおっとりした本来の性格に戻っていた。
もはや王宮に居場所はないと、自ら婚約破棄を申し出て辺境の領地へ。そこで動物たちに異常に好かれる体質を活かし、もふもふの聖獣たちが集まるカフェを開店し、穏やかな日々を送り始める。
一方、セレスティーナの豹変ぶりが気になって仕方ない元婚約者の王子・アルフレッドは、身分を隠してお忍びでカフェを訪れる。別人になったかのような彼女に戸惑いながらも、次第に本当の彼女に惹かれていくが、セレスティーナは彼のことを全く覚えておらず…?
※これはかなり人を選ぶ作品です。
感想欄にもある通り、私自身も再度読み返してみて、皆様のおっしゃる通りもう少しプロットをしっかりしてればと。
それでも大丈夫って方は、ぜひ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる