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18.負けてたまるもんか!!
しおりを挟む長年ペーパードライバーだった父だが、向こうでは車が無いと移動に困ると言うことで中古車を購入したそうだ。で、はるばる東京まで車に乗って帰還。節約目的の車中泊が老体には厳しかったらしく、不眠不休で運転し、ようやく辿り着いたのだと。溜まりに溜まった疲労のせいで機嫌が悪いのよ…とお義母さんが教えてくれた。
しかももう少しで我が家に到着すると言うのに、どうしても我慢出来ずトイレ休憩で立ち寄ったコンビニで東吾に遭遇。さすがに自分が別れさせた娘の元カレの顔を忘れるはずも無く。その男に『奈緒さんのことで話が有ります』と言われて仕方なく家に招き入れたところ、娘が義理の息子を襲っていたという神展開。
そりゃあお父さんもプンプンだよね。
あははっ。
…って、どうしよう??!!こんなのもう、どうにも出来ないよっ。父の真正面で正座する私と豊さん。私の隣には、キス場面のことを知らない東吾がこれまた神妙な面持ちで正座していた。
「お義父さんにお願いがあります。…奈緒さんと結婚させてください」
豊さんの言葉に、彼以外の全員が驚く。私まで『ええっ?!』と叫んだせいで、父が素早く突っ込んだ。
「どうして奈緒まで驚いているんだ?お前たち、いったいどうなってる?」
「真剣に交際させていただいております。なあ、奈緒さん、そうだろう?」
私が答えるよりも先に、何故か東吾が返事した。
「違いますよ、付き合っていません。だって俺、奈緒から直接聞きましたから」
「は?じゃあどうして豊くんと…その、口と口をくっつけてブチューッと…」
「やだアナタ、それってキスって言うのよお~」
「うるさいっ!知ってるけど恥ずかしくて言えなかったんだッ」
「まあ可愛いことを言っちゃって。そういう時はね、頭の中で魚のキスを浮かべて、口と口をくっつける方じゃ無いよ~と思いつつ『キス』と言うと良いらしいわよ!」
なんだコレ、夫婦漫才なのか??タイミングを見計らって私は口を挟む。
「お父さん、本当なの。私、豊さんのことが好き!でも、ほら、近所の人の目も有るから、東吾には違うと嘘を吐いちゃったの」
「えーっ、俺のこと騙したのかよォ!」
だから東吾、うるさいッ。
隣の小者を睨んでいると、真正面のラスボスが仏様の如く晴れやかな表情でこう言った。
「ダメだ、お父さんは絶対に許さないぞ」
分かり易く項垂れて落ち込む私とは逆に、豊さんはピンと背筋を伸ばし、ズズイと膝を進めて父に急接近する。そしてまるでヤンキーのケンカみたく、斜め方向から顔をスイングさせて父と睨み合う。
「どうしてでしょうか?」
「どうしてもクソもあるかッ」
「理由を言って頂かないと、対処出来ませんが」
「言わなきゃ分かんないのか?1つの家にオスメスを番で飼ったら勝手にくっつくなんて、犬猫じゃあるまいしッ。世間様に恥ずかしくて言えないじゃないか!」
「可笑しなことを言う方ですね。僕と奈緒さんは間違いなく人間ですよ。誰でもいいワケでは無いですし、お互いがかけがえのない存在であることは既に確認した上で報告しています」
「チッ、まったく期待ハズレな男だな」
「それはどういう意味でしょうか?」
「俺はな、清廉潔白な豊くんだからこそ、絶対に奈緒と間違いは起こさないと信じてこの家に2人きりにさせたんだぞ?」
「僕と奈緒さんの関係は、“間違い”では無く“正解”なのでご安心ください!」
「へ、屁理屈を言うなッ。人の娘を何だと思ってるんだお前は?!」
「ぐふっ、そ、それは…地上に舞い降りた天使。もしくは女神かもしれません」
「…はっ?」
「奈緒さんがいるだけで、そこはパラダイスだ」
「おいおい」
「お義父さん、僕は奈緒さんにメロメロです。ください!お嬢さんを僕にください!!ああもう、どうすればくれますか?お百度参りとか、千羽鶴を折れとか、そういう実現可能なものでご提案願います」
「いやいや」
「既にもう息子にはなっているワケですし、娘婿としても合格だと思ってはダメですか?」
「それとこれは」
「自分で言うのも何ですが、取引先の方々に縁談を紹介されることが多く、なかなかの好物件ではないかと思います」
「はいはい」
「しかも誓って浮気はしません。なぜなら僕は物理的にだけでは無く、精神的にも潔癖だからですっ」
「なるほどね」
「奈緒さんは金銭的な問題で、僕も諸事情でこの同居は解消出来ないのですし、であれば世間的にも結婚前提で同居していると公表した方がスッキリしませんか?」
「…うっ、と、とにかくダメなものはダメだ!」
駄々っ子のような父の反応に、豊さんは全く挫けない。更にグイグイと膝を進めて、近距離での攻撃を続ける。
「だからどこがどんな風にダメなのかを懇切丁寧に教えてください。先に伝えておきますが僕は絶対に諦めませんよ。だって、やっと運命の女性に出会えたんだ。そして奈緒さんも僕を愛してくれている。ようやく心が通じ合ったのに、こんなことくらいで負けてたまるもんか!!」
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