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<茉莉子>
その90
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「そう言えば、本命の方とはどうなりましたか」
さり気なく、さり気なく。
とっても自然に訊けたと思うのに、残念ながら榮太郎は明らかに動揺しているようで。
「んっ?ええっ?!…あ、ああ…。ぜ、全然どうにもならないよ。だからもう諦めて…ぐっ、…い、いるんだ」
「そうでしたか」
「でも、ほら、俺には、ま、茉莉子がいるし。今更、他の誰かと…なんて思って無いからっ」
「えっ、そんな簡単に諦めていいんですか?」
義弟が訪れたその晩。
お義母様の話を榮太郎に報告した後、勇気を振り絞って本命について質問してみた。すると、どうやら私に気を遣っているらしくなんだかとっても歯切れが悪い。
「えっと、じゃあ茉莉子は俺が他の女性の所へ行けばいいと思っているのかな?もしかして俺のことが嫌になったってこと??」
「そういう意味じゃなくて。だって、この偽装結婚の真の目的は本命以外の女性を排除する為で、榮太郎はそれほどお相手の女性が好きなんですよね?」
「…う、…うう、うん」
「『うん』なんですか『ううん』なんですか?」
「…う、…うう、うん」
「なに誤魔化してるんです?じゃあもうイエスかノーで答えてくださいよッ」
「イ…イエなぃ…ノー」
「『言えないの』??なんで言えないんですか」
ここで優しい榮太郎が初めてキレるのだ。
「そんなッ!だっていい加減、気づくだろう?普通は気づくはずだよな?まさか、分かってて訊いてるのか?だとしたら本気で怒るぞ!」
長年、ボッチだったせいか人とのコミュニケーションが苦手な私は、彼の言わんとすることが全く理解出来なかった。それでも、こちらの意思疎通が拙いせいで相手が苛立っていることだけは伝わったので、適当に話を合わせてみる。
「ま、まさか。もちろん気づいてましたよ。そっかあ、本命の女性って…そうだったんだあ」
「そう!そのとおりだ。なんだよ茉莉子、分かってたんなら、俺を揶揄ったってこと?人が悪いなあ」
…な、何の話??
問い返したいが、今更どうにも出来ず、適当に笑って誤魔化す。
>試験で成績がいいのと、
>日常生活で役立つ賢さとは違うんだよッ。
>お前と話していると鈍くてイライラする!
>いいか、俺に同じことを何度も言わせるな!
父はいつもそう言って私を叱りつけた。だから私は会話がスムーズになるよう努め、良き娘を演じていたのである。この様子では『本命が誰ですか?』なんて訊けないし、こうなれば自分で調べるしか無いだろう。
その2週間後、絶好の機会が訪れる。それは、榮太郎と私の婚約披露パーティーでのこと。
「榮太郎様、ご婚約おめでとうございます!」
「どうも有難うございます」
「なぜ教えてくださらなかったのですか?榮太郎様が結婚されるなんてショックで、私…」
「連絡が遅れて誠に申し訳ありませんでした」
おびただしい数の女性たちが押し寄せ、その中の数名が恨み言を伝えて去って行く。そこで、とうとう私は本命を見つけてしまうのだ。
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