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<茉莉子>
その104
しおりを挟む叩かれただけでは無い。間髪入れずに足も踏まれ、更に両肩を掴まれ揺さぶられまくっている。
呆然と見つめるだけのギャラリーたち。
「ったくもう、ブスのくせして根性までブスになってんじゃないわよッ!!」
何これ?私、好きな男をこの人に盗られた挙句、こんな辱めまで受けなきゃいけないの?言い返すことも出来ず、ただただ成すがままにされていると、ようやく剣持さんが止めに入る。
「大丈夫ですか、茉莉子さん」
「だ、大丈夫です…」
剣持さんが庇うようにして私の正面に立ち、コトリさんは地団駄を踏んでいる。
「中林さん、落ち着いてください。仮にも榮太郎さんの奥様ですよ?」
「だって、この人があまりにも身勝手だから!榮太郎様が可哀想過ぎます…」
可哀想?
私じゃなくて、榮太郎が??
険しい表情をしていたら、何故か店長が私を慰め始めた。
「だ、大丈夫、茉莉子ちゃんは可愛いよ、性格だって全然ブスじゃないッ」
「…有難うございます」
でも、今はそこ重要じゃないし。
そして剣持さんが店長に向かって言う。
「茉莉子さんをこのまま連れ帰りたいのですが、宜しいでしょうか?」
「ダメ」
予想外の回答だったらしく、いつも冷静な剣持さんが激しく頭を揺らしている。
「ダ、ダメ??」
「だってウチの店、少人数で頑張ってるし。今日はホールの人間が1人しかいなくて、俺と茉莉子ちゃんでフォロー予定なんですよ。
俺はシェフだし茉莉子ちゃんはドルチェ担当、…分かります?今日はギリギリの人数だって。これで茉莉子ちゃんを奪われたら、回せない。飲食店の一番忙しい時間帯に突然やって来て、無茶言わないでくださいよ」
だから何度も言うように、こう見えて店長は仕事に燃えている男なのだ。
「分かりました、では改めて参ります」
「えっ?!剣持さん、そんな悠長な。じゃあ先に榮太郎様に見つかったと連絡を入…」
反論するコトリさんに向かって剣持さんは言う。
「連絡を入れるのはもう少し待ってください。全て事情を茉莉子さんに話し、今後の行く末を決めてからこの私が榮太郎さんに直接伝えます」
事情って何??
ポカンとする私にニッコリと剣持さんは微笑み。それから店長と何やらコソコソ話してからただ茫然と立ち尽くす私をそのまま放置して、閉店後にまた来ると言って去って行った。
色々と気になるものの、『労力に対して賃金を頂いているのだから』と自分で自分に喝を入れ。どうにか無事に、夜の部が終了。
「茉莉子ちゃん、どうもお疲れ様ァ。では、お二方、大変お待たせしました!!奥のテーブル席を使って頂いて構いませんので」
ゴゴゴ…、カチャカチャ…。
椅子を動かしホールの床掃除をするアヤさんに、テーブル上のカトラリーセットを確認する店長。どう考えても今する仕事では無いから、きっと盗み聞きするつもりなのだろう。コーヒーを一口飲んでから剣持さんは話し出す。
「これは私と中林さんの独断でお話するんです。榮太郎さんからは固く口止めされていますので、決して聞いた事を口外しないと誓ってください」
「え?…あ、はい。誓います」
正直に言うと、私は物凄く剣持さんが苦手だ。会長の腹心と呼ばれるだけあって決して感情を見せようとしないクセに、相手の事は全て暴いてしまうのである。ひたすら帯刀家の為にだけ生きていて、敵は容赦なく叩き潰すのだと。聞くところに寄れば、ダークな世界にもかなり精通しているらしい。
「大変失礼かもしれませんが、茉莉子さんの父上である清隆氏は本当に厄介だ」
「へ?…あの、父がどうかしたのでしょうか」
フッ、と口元に笑みを浮かべながら剣持さんはコトリさんを目で制す。彼女がまるで威嚇する猫みたく、今にも私に飛び掛かろうとしているからだろう。
意味が分からないまま、私はひたすら眉間にシワを深く刻んだ。
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