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21.キヨ、謝罪する

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 暫くして名残惜しそうに唇が離れていく。あれほど舌をレロレロしていたクセに、照れて私から視線を逸らすその姿はその辺によくいる若者のように見える。いや、多分この人の中身ってごくごく普通なんだ。たまたまキラキラフェイスを与えられただけで、それ以外は私たちと変わりないのかもしれない。
 
 そんなことを考えているうちに、きっと険しい表情をしてしまったのだろう。私が怒っていると誤解した神…いや、もう心の中でも御門さんと呼ぶことにしよう。とにかく御門さんは私のご機嫌を取ろうとし始める。
 
「キヨ…ちゃん、もしかして嫌…だったかな?俺、なんか止まらなくて…その…ご…めんね」
「ほんとですよ、私、怒ってるんですからね」
 
 ぷくーっと頬を膨らませて見せると、御門さんは叱られた子供のように泣きそうな顔をする。その表情があまりにも可愛くて、思わず豪快に吹き出してしまった。
 
「え?あれっ?怒ってるんだよね?」
「いえ、怒って無いですよ。それより御門さん、ずっと逆差別しててごめんなさい」
 
 急に今までの非礼を詫びたくなった私は、一気に謝罪の言葉を述べるのだ。
  
「それってどういう意味かな?」
「イケメンだから付き合いたくないとか、自分よりも美しいからダメだとか、短時間なら2人きりでいられるけど長時間は無理だとか…いま考えると全部御門さんのせいじゃないですよね。美形に生まれようなんて自分で選択出来ないし。中身はすごく純で素朴な好青年だと知っていたクセに、イケメンというだけで差別してしまいました。心から反省しています」
 
 長身の体を折り曲げ、御門さんはその額を私の頭頂部にスリスリしてくる。
 
「そういうとこ…。普通は逆なんだよ」
「は?逆とは」
 
 はああっ、と熱い吐息を漏らしながら声が頭上から響いてくる。

「他の女性たちは俺の外見だけを好きになるの。中身なんてどうでもイイんだ。だって会話すらしたことが無いのに『好き』とか言われても、そんなの真実味無いよね?だから俺、当たり前みたいにしてキヨちゃんが『中身は好きだけど外見がイヤ』と言うのを聞いて、本当に驚いたんだ。だって、そんなの初めてだったから…。
 
 なあ、本当に俺の中身が好き?」
 
 コクコクと頷く度に、私の頭と御門さんの額がゴツゴツぶつかった。
 
「嬉しい、もうスッゴク嬉しい」
 
 いつの間にか食事を終えていた利介が、御門さんの足にスリスリしていて。それに気付いたらきっと驚くだろうと思い、ワザと口を噤んでいたのだが。湧き上がる不思議な感情に首を傾げつつも、御門さんの頬へ衝動的にキスなんぞしてしまい。そんな私に一瞬だけ驚いた表情を浮かべた御門さんは、すぐに満面の笑みを返してくれて。

 …そのまま何事も無く、一晩が過ぎたのである。
 
 
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