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29.これが噂の未来さん
しおりを挟む利介をギュウと抱き締めながら、旧姓秋山さんは目をキラキラさせて言う。
「素敵!恋のトライアングルね。どっちもオススメだから困る~、圭くんの手前、龍の味方は出来ないかも~」
なんか調子狂うな、この人と喋ってると。ここでパタンとドアの閉まる音がして、富樫副社長が遅れてやって来た。
「おう、堤!お疲れさん。こんな所で会うとは奇遇だな。ウチの嫁、煩ければ放置してイイぞ」
「裕斗、人前だと冷たい。2人きりだと極甘なのに…。デレデレのドロドロなのに…」
「うあっ、アホか。そういうことを部下の前で言うな。俺の立場を考えろっつうの」
「はいはい」
ス、スゴイ。切れ者と評判の副社長を赤面させる人がこの世に存在したんだ…。仕事中の顔と私生活での顔は別物らしく、目の前の副社長は驚くほど柔らかい笑顔で。訊かなくても2人の関係が順調だと伝わってくる。奥さんを見つめる富樫副社長の目が『可愛くて仕方ない』と言っているようで、まるでラブシーンを見ているような気分になり、思わず目を逸らす。移した視線の先には圭くんがいて、私は心臓が凍ったような衝撃を受けた。
それは秋山さんが愛しくて堪らないという顔で。そっか、まだ全然忘れていないんだなと、改めて私は実感し、そしてこう思ったのである。
私、全然この人に似てないし。
身代わりにするなら、別の人にしてよ。
たぶん、圭くんを好きになり始めていて。いや、かなり好きだったからこそショックだったのだ。──『仕方なく』自分が選ばれたということが。一番欲しい女性が手に入らず、私で我慢するしかなかっただなんて…現実は本当に意地悪だ。そうこうしているうちにバタバタと富樫夫妻は去って行き、残された私も帰ることにした。
「え…っ?!せっかく来たのに??このままウチに泊まっていけばいいじゃないか」
「でも、圭くんか龍かまだどっちつかずなのに、片方の家に泊まるのはフェアじゃない気がする。それに利介もいなくなったことだし、もう私は必要無いでしょ?」
龍のことを引き合いに出してみたけど、本当の理由は圭くんがまだ、秋山さんに未練を残していることが分かったからだ。でも、そんなこと言えない。うわあ、そういう顔をされちゃうと罪悪感が…。ダメダメ、このままココに残ったらきっとズルズルと抱かれて、この人のことをもっと好きになってしまうに決まってる。
心と体は恐ろしいほど直結していて、巷では、セックスから始まる恋も有るほどなんだからッ。(※どうやら希代さんはそのテの漫画から知識を得ているようです)
「分かった、じゃあ絶対に手を出さないと約束するから泊まっていきなよ。フェア云々と言う前にこんな夜中に女性1人で帰らせるのは心配だからさ。民泊…くらいの感覚で割り切って考えればいい。それでもダメかな?」
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